第14話 改心の一撃
「それじゃああたし達は帰るわね。千林ちゃんまたね」
「今度遊びにおいで~」
「はい! 是非伺わせて頂きます! 今日は本当にありがとうございました!」
暫く話しこんだ後、そろそろ帰ろうかと言う事になりポックル先輩と別れ校門に向かって歩き出す。
「しかし、お姉さんの写真にはびっくりしたよ。生徒会長押しのけて真ん中に写ってるんだもん」
多分あれ知らない人が見たらお姉さんを生徒会長と思うんじゃないか?
「あれは若気の至りと言うか、あの時の生徒会長と親友だったのよ。彼女の頼みを断れなくてつい……」
お姉さんは顔を真っ赤にして自分の黒歴史を誤魔化そうと必死だ。
「そ、それよりなんでコーくんは生徒会室に居たの?」
「えっ? い、いや」
強引な話の方向転換だったのだが
「え? もしかして本当にいかがわしい事をしようとしてたの?」
「え? 生スクールラブは本当だったの? 詳しく聞かせて貰えないかしら?」
俺がうろたえているのを好機と見たのか一気に攻めてくるお姉さんとただ単に興味が有るだけの涼子さんの援護射撃により反撃の糸口が見えない俺は正直に話した。
勿論ギャプ娘については内緒のままだ。
「校内を歩いてたら生徒会長に手伝いを頼まれたんだよ。なんか親父が作ったと言う生徒会旗なんだけど、それを途中で廊下に落としてしちゃって、生徒会長にこっぴどく怒られて生徒会室に一人残されたんだ」
説明はこれで良いよな?
「千林ちゃんとイチャイチャしてた件は?」
「イチャイチャなんかしてませんって! 説明したじゃないか!」
抱きつかれて嬉しかったけどもさ。
「冗談よ。まぁ旗を落としたのなら生徒会長なら怒っても仕方無いわね。生徒会の象徴みたいなものだし。あたしの親友も大切にしてたわ。今度会ったらしっかり謝っておくのよ?」
「うん、分かったよ。しかし親父は何処でも伝説作ってるね」
「まぁね、光にぃは歴代最高と謳われた生徒会長でもあるわけだし。ただあの旗なんだけど実はその前にも旗はあったのよ」
? まぁ何十代と続いて来た訳だしその前に旗が有ってもおかしくはないよな?
「うちの学園の文化祭って最終日に後夜祭として校庭でキャンプファイヤーをするのよ」
「あ~なんか聞いた事あるね、そう言うの」
「後夜祭の最後に生徒会長がキャンプファイヤーの前で旗を振って終了宣言するのが慣わしでね」
「え? まさか?」
「そう、そのまさかで3期目つまり生徒会最後の年の時にね、終了宣言で旗を振る際にバランス崩してあろう事か旗をキャンプファイヤーの中に突っ込んじゃったのよ」
あー俺の知っている親父ならやりそうだ。
「それ大事になったんじゃない?」
「それがね、光にぃはすぐに申し訳無い~って、その場で土下座をしてみんなに謝罪したら、まぁ今までの功績も有ったのもあるんだけどみんな光にぃの慌てふためく姿なんて見たこと無くて、大笑いして許してくれたって光にぃが言ってたわ」
「それはなんと言うか……」
「その後みんながね、どんな奴でも失敗はあるんだって、一度失敗したからと言って光にぃのやってきた事は無くならないって言ってくれて、それに感動した光にぃはみんなの前でわんわん泣いたんだって。そしたらもう生徒どころか先生まで全員がつられて泣いてしまったそうよ。そしてみんなで『失敗を恐れない失敗したからといって諦めない挫けそうになってもみんなで支えあう』と言う象徴を作ろうって事になって恥ずかしながらあの旗を作ったんだって」
「なるほど~。それはそれで伝説だわ」
みんなが校庭で大泣きしたのか。
まるで青春映画の一場面だな。
「あの時みんなと一つになれた。あれが僕の原点だって言ってたわ。あの旗は光にぃだけじゃない当時の学園全員で作った物なの。それであの旗が生徒会の、いえ学園の宝物になっているのよ」
そうかそんな大切な物だと知らず放り投げてしまったのか。
「…………」
助ける為とはいえもう少し丁寧に扱えば良かった。
物に執着が薄い俺でもそれがどれだけ大切にされて来た物かが分った。
「でもママには分っているわよコーくん? ただの不注意で落としたんじゃないんでしょ?」
落ち込んでいる俺にお姉さんは優しくそう言ってくれた。
「え? なんで……?」
お姉さんの言葉に驚いた。
「そらママだもん。コーくんの態度を見れば隠してる事なんてお見通しよ?」
俺って5歳からそんなに成長してないんだろうか?
何故かお姉さんは昔から俺の考えている事が分かるようで悪さをしたり悲しい事が有ったりすると何も言わなくても叱ったり慰めたりしてくれる。
まるで本当にお母さんみたいだ。
実際5歳まで母さんより一緒に居る時間が長かったかもしれないので育ての親と言ってもおかしくない。
本当にお姉さんには叶わないな。でもママじゃないですけどね。
「事情はまぁ有る事は有るけど、大切にしている事は聞いていたのに、それを放り投げたのは事実だし、次会った時はちゃんと謝るよ」
「コーくんがそう思うのならママはもうなにも言わないわ」
お姉さんはにっこりと笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おっ? そこに居るのは大和田じゃないか?」
離れたところから初老に入ろうかと思われるスーツを着た男性が声をかけてきた。
「あっ先生~! 今回はありがとうございました~!」
お姉さんがその男性に手を振っている。
先生? あっ入学式で学園長の次に挨拶してた人だ。
そう言えば校長に保護者の事を頼んだって言ってたな。
それを思い出して俺も頭を下げる。
「いやー、大和田は学生時代から全然変わらんな」
「先生は……色々変わりましたね……」
お姉さん目線が上過ぎます。
失礼だろと思ったら校長は気にしないどころか頭を叩いて笑っている。
「いや~年を取るとな、そりゃこうもなるわ」
こんなやり取りが出来るのはお互いの信頼関係が有るからかな?
「ところで君が牧野君の息子さんかい?」
校長は俺に親父を重ねてるのか懐かしそうな目をしながらそう尋ねて来た。
「はい、牧野 光一と言います。よろしくお願いします」
校長は何度か頷いて笑っている。
「よく似ているな。初めて君のお父さんと会った時を思い出すよ」
「似ているのは顔だけですよ。俺なんて親父と比べると……」
まだまだ所の騒ぎじゃないな。
「いやそんなことは無いぞ。俺は人の見る目は有る方だ。君を見た瞬間に君のお父さんと重なった」
「いえ、父は俺と同じ頃には色々と伝説残してるって聞いてますし、全然ですよ」
話を聞く度に気が滅入る。
「何言ってるんだ。君のお父さんだってここに入学してきた時はまだ何も成していないただの高校生だったんだぞ。君はやっとスタートラインに立ったんだ。父親の足跡に惑わされたりせず、自分が成したいと思う事を全力で取り組んで行ったら良い。結果なんて物は後からついてくるものだ」
そう言って笑いながら肩を叩いてくれた。
その言葉に少し心が晴れた気がした。
親父に届くか分からない、おそらく親父の様にはなれないだろう。
けど、校長のこの言葉で俺は俺に出来る事を探していこうと思った。
「しかし、この学校には校長の他に学園長も居るんですけどどう違うんですか?」
他にも理事長が居るんだよな? ややこしい。
「あぁ、うちの学園は学園長とそれに理事長に関しては創業者の親族が就く役職となっている。校長は雇われている教員のまとめ役と言う中間管理職みたいなものだ」
なるほど、雇用主側と従業員みたいな感じなのかな?
「しかし先生が校長になってくれて良かったわ。色々頼みやすいもの今後も何か有ったらお願いね?」
「まぁ、今回はそんなに難しい事でも無かったが、あまり無茶な事言われると俺も理事長達の顔色伺うのが大変なんだから自重してくれよ?」
「はぁーい。出来るだけ善処します!」
校長は苦笑いしながらお姉さんを見ていたが不意に俺の方に向き直って優しい顔で肩を掴んできた。
「しかし、生徒からの要望なら筋さえ通っていれば、どんな無茶でも理事長を説得してやるからどんどん言って来い」
その言葉に胸が熱くなる。
生徒と言っているがその目は俺に向けての期待が篭っていた。
過度な期待を掛けられている気もするがもしその期待に応えられる時が来たら是非頼らせてもらおうと思う。
……本当にそんな時が来たらなのだが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の夜、大和田不動産で俺の入学を祝うパーティーが開かれた。
そこには何故か涼子さんと黄檗さんもちゃっかり参加していたりする。
「いやぁーめでたい! 光也の息子の門出を祝えるなんて長生きはするもんだ!」
「お爺さん! まだそこまで年取ってないじゃないですか、大げさだなぁ」
まだ70歳前のお爺さんだが、俺と再会してからこれが口癖になっている。
「お前は俺の孫みたいなものだからな。そりゃ嬉しいさ。……本当の孫は諦めたからな」
「私は諦めてないわよ!」
お姉さん、俺の口から何も言えません。
「……別に俺は孫が息子になってくれても良いんだがなぁ」
ブフォッ!
あまりの内容にジュースが思いっきり気管に入り込む。
「ゲホッゲホッ……ななななな」
お爺さんは何てことを言うんだ!
「コーくん? ママその反応凄く悲しいんだけど?」
いやいやお姉さん! そもそもあなたはママなのでは?
いやママじゃないですけどもね!
「いや、あのそんな。そもそもお姉さんは親父の事が好きなんじゃ」
俺が言うのもなんか複雑ですけどね。
「そうだけど。コーちゃんも好きよ?」
あまりの発言に顔が真っ赤になってしまう。
お姉さんは美人だし俺の倍以上歳が上なんだけど若作りのせいで年齢よりもかなり若く見える。
そんな美人から好きって言われると親代わりだったとは言えドギマギしてしまう。
んん? よく見るとこの顔は俺をからかっているな?
口角が上がって目がニヤニヤしている。
くそー! 男の純情を弄びやがって!
「えっ? 年上有りなら私も立候補する~!」
涼子さん話をややこしくしないでください。
黄檗さんも控えめに手を上げないでください。
「涼子さんはご飯を作ってくれる人が欲しいだけだよね?」
「えへへ~」
涼子さんは手で頭をかいている。
あっ黄檗さんも頭をかいている。
本当にどいつもこいつも!
そんなこんなで楽しい宴の夜は更けていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日、黄檗さんは自宅へと帰って行った。
……勿論俺のカレーを食べてからだけどね!
「カレーも無くなっちゃったわね~」
そうだね涼子さん、あれだけみんなでガツガツ食えばね。
冷凍保存もする暇なかったよ黄檗さん……。
家族だけの頃はルー二つで3日は余裕でもって冷凍まで出来たのに。
恐るべし腹ペコモンスターズ!
「今晩はビーフシチューにしますよ」
明日は始業式前だからゆっくりしたいし今日頑張ったら始業式まで流石にもつでしょ。
「やったぁー! あたしビーフシチュー大好き!」
カレーの時も同じ事言ってませんでしたか?
「じゃ~、あたしそろそろ仕事しなきゃやばいから帰るね~。出来た頃にまた来るから~」
涼子さんはそう言うと帰っていった。
そう言えば最近毎日入り浸ってたもんな。
いつ漫画書いているのかと思ったら、全く書いていなかったのか。
さて、ビーフシチューなのだが基本カレーと変わらないな。
野菜は玉ねぎをペコロスに、ニンジンをミニキャロット、あとはルーが缶のデミグラスソースに替えるぐらいか。
肉はゴロゴロの肉は基本だし、ワインとチョコ玉子も忘れない。
そうだった、ちょっぴり酸味に無添加無塩のトマトジュースだな。
んじゃ買い物に行きますか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
十年振りとは言うけども、帰ってきてから早2週間は経っており、このマンションから商店街への道のりも今や自分の庭みたいなものだ。
5年しか住んでいなかったけどやっぱりここは俺の故郷。
何処かに居た時よりしっくりと肌に体にそして心に馴染む。
俺に故郷を作ってくれた両親に感謝だ。
春の日差しが暖かく風が気持ちいい。
うきうきと商店街への道を歩いていると前から宮之阪が歩いてくるのが見えた。
向こうも気付いた様で目線がそわそわして落ち着かない様子だ。
う~ん、同じクラスで隣の席だし今までみたいに素通りするのは状態悪化の一途を辿って俺の胃がゴールデンウィークまで持ちそうに無い。
ここは挨拶をしておこう、とびっきりの笑顔でね。
「やぁ宮之阪! こんにちは」
あれ? おかしいな? なんか目を丸くして固まったぞ?
「もしもーし? 大丈夫?」
いまだ固まっている宮之阪。
「こ、こ、こんふぃちわ」
あっ動いた! でも口がまだ回復してなかったようで空気が抜けちゃった感じになってるぞ?
「あ、あ、あ、」
恥かしかったようで口をパクパクさせながらどんどん顔が赤くなっていってる。
これは何かフォローをしないと二度と口をきいてくれなくなりそうだ。
何か無いか? 気の利いたフォローは? あっそうだ!
「大丈夫、とっても可愛かったよ」
ピリリリ! ズバババァーーン!
ん? なんかスカッとした手応えの効果音が聞こえたような気がしたぞ?
所謂改心の一撃と言う奴か?
とりあえず女の子には可愛いと言うと効果抜群だと親父が言っていたので宮之阪の反応を伺う。
しかし収まる様子どころか逆にいまや頭から湯気が出そうにまで赤くなっている。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
宮之阪は突然叫びそのまま走り去って行ってしまった。
「えぇぇぇ? なんで?」
あっれぅぇぇ? あれあれあれ? 親父? なんか全然ダメなんだけど?
……そう言えば親父って母さん一筋でプレイボーイって訳でも無かった。
もしかしてこれは"好きな"とか"付き合ってる"とかの枕詞が付く女の子にって事なのか?
うーんやってしまった……、これもしかしなくてもセクハラだよね?
始業式が今から憂鬱でならない。
「せめて無視される位で済みますように! お願いします!」
俺はそんな事を神に祈らざるを得なかった。
勿論フラグ回収のプロではない別の神様にね。
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