第13話 妖精の尻尾

 

「覚えておけって言われてもな~」


 一人生徒会室に取り残された俺。

 一連の理不尽な出来事に正直なにがなにやらで頭が纏まらない。

 鉄面皮と呼ばれていたらしい生徒会長だが、その無表情の仮面の裏側に普通の女の子の顔を持っていることが分かった。

 こう言うのをツンデレと言うのだろうか? それともクールデレ?

 うーんなんか違う気がするな?

 そうだギャップ萌っ娘、略してギャプ娘ぎゃぷこで良いか。

 俺の中で生徒会長のカテゴリはギャプ娘だな。

 ギャプ娘の名前は確か、御陵 美佐都みささぎ みさとだったかな?

 確か生徒会長の祝辞の時にそう名乗っていたし、壇上横の"めくり"にも名前が書いてあった。

 入学早々トラブル続きでクラスメートだけでなく生徒会長にも恨まれるなんて本当に幸先が悪いなぁ。

 これも隠れシークレットとか言うのを2回連続で当ててしまった報いなのだろうか?


 改めて生徒会室の中を見渡す。

 上の方には歴代生徒会の写真が飾られている。


「凄い沢山有るな。確か今年で創立70年とか言っていたし、それだけ飾られているのか……」


 任期は半年毎のようで1年毎の額には2枚の生徒会写真が収まっていた。

 しかし既に飾るスペースがパンパンなんだがこれ以上増えたらどうするんだろう?


「あっ親父が写っているのが有る! 若いなぁ~」


 各写真の下には第何代生徒会と言う題目の横に生徒会長の名前も書かれていた。


「親父3期連続生徒会長やっていたのか……」


 親父の名前が3つ並んでいる。

 第86代から第88代生徒会長 牧野光也。

 その一つ前の生徒会、第85代生徒会にも親父が写っている。

 だけど生徒会長は『光善寺 御堂』とか言うお坊さんみたいな名前なので、役職は違うみたいだ。

 まぁ、1年生はなれないのかもしれないな。


「あれ? その前の生徒会にも親父が写っているぞ?」


 入学して半年後位に生徒会選挙が有るので親父はその生徒会に入っているわけがないのだが、当時の生徒会員が並んでいる隅の方に照れた仕草の親父が写っていた。


「親父生徒会好き過ぎね?」


 その他の写真も眺めてると一つ気になった写真を見付けた。


「あれ? この真ん中に写ってるのお姉さんじゃ?」


 生徒会役員が並んでいる真ん中の椅子に豪快に腕を組んだお姉さんがいい笑顔で座っている写真だった。

 周りのみんなもお姉さんの肩に手を置いてそれぞれ微笑んでいる。

 その位置は他の写真では生徒会長の位置だったのだが、その代の生徒会長の名前はお姉さんでは無かった。


「お姉さん何してんの……?」




「あなた! そこで何しているんですか!」


 写真を見ながら部屋をうろうろしていると急に誰かに怒鳴られた。


「はひっ」


 急に大きい声を出されたのでビクッとして変な声が出る。

 なんか今日は色々声を掛けられる日だなぁと思いながら声の主を見るとそこには……。


 ん? 小学生?


 いやここの制服を着ているから違うのか、何やら小さくて可愛らしい女子生徒が、まさしく"ぷんぷん"と言う可愛らしい擬音がぴったりな感じで胸を張り両手を腰に当てて立っていた。

 なんか頭に"=3"こんなぷんぷんマークが見えるようだ。


「あなた一年ね? 一般生徒が生徒会室に入るのは禁止されているのを知らないの?!」


 凄く怒っているんだろうけど可愛い外観にぴったりの可愛い声だった為、全然怖くないと言うか何だか微笑ましく感じた。


「すみません、生徒会長に荷物運びを頼まれてそこの旗を持って来たんですが、途中で俺が落としてしまって……、それに生徒会長が怒って俺を置いてどこかに行ってしまったので、ここで途方に暮れてたんです」


 色々と端折ったけど間違ってないよね?

 目の前に居るスカーフの色を見ると2年生と思われる少女はこの説明で状況を把握してくれたのか、ぷんぷんモードを緩めてくれた。


「あー、さっき会長が珍しく顔を真っ赤にして走っていたのはそういう事ね。会長その旗大切にしてたから……」


「本当にすみません。俺の不注意で大切な旗を落としてしまって……」


 ギャプ娘事件の事を言うと生徒会長に末代まで祟られそうなので内緒にする。


「いいのよ、まぁ大切な物では有るんだけど会長の入れ込みはちょっと異常な所が有るからね」


 俺の殊勝な態度で謝罪した事で先輩は警戒を解いてくれた。

 しかし本当に小さいなこの人、とても高校生とは思えない。

 小人? いや妖精……? あーコロポックルだな。確か北海道の小人の妖精。

 コロポックル先輩、語呂が悪いな……コロ? いやコロポ? あっポックル。

 よし俺の中ではポックル先輩と呼ぼう。


「私は生徒会書記の千林 千夏せんばやし ちなつです。あなたの名前は?」


 ポックル先輩は可愛らしい笑顔で自己紹介をしてくれた。


「俺の名前は牧野 光一って言います。よろしくお願いします」


 俺の名前を聞くと何か引っ掛かったのか少し考えたかのように眉を潜めた。


「牧野君……? 偶然ね、伝説の黄金時代って言われている生徒会を率いていたのが牧野会長と言う方で、その旗はその方が作った旗なの」


 また出た! 親父何処まで伝説作ってるんだよ!


「親父がねぇ……」


 旗を見ながらポツリと呟く。

 俺の前では何処か頼りない普通の中年なんだがな~。


「え? もしかしてあなた牧野会長の息子なの?」


 ポックル先輩は身を乗り出して聞いてきた。


「ええ、あそこに親父が写ってます」


 85~88代生徒会写真を指差す。


「すごい! すごい! それを知ったら会長喜ぶわ」


「止めて下さいお願いします。親父は凄かったかも知れませんが、俺には何も取り得が無いんで最近重荷にしかなってないんですよ」


 最近親父の話を聞く度に自分は何やってるんだろうと自己嫌悪に陥ってばかりなんだよな……。

 黄檗さんは慰めてくれたけど、それでもやっぱり気分は晴れないよ。


「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」


 ポックル先輩は俺の言葉に酷く落ち込んだ。

 本人に悪気が有って言った訳でもないのでこちらとしても申し訳ないと思う。


「ポック……いや千林先輩、そんな気にしないで下さい。そこまで気にはしていませんから」


 セーフ! 危なかった……。思わず心のあだ名で呼びそうになった。


「本当にごめんなさいね。……でもポックってなに? なにか失礼な意味合いに聞こえたのだけれど?」


 アウト! この先輩結構鋭いぞ?

 ポックル先輩は落ち込み反転少し怒った顔してこちらを見上げて来る。

 先輩、その上目遣いは反則です。


 ブブブッ、ブブブッ―

 再びぷんぷんモードなポックル先輩にたじたじになっていると、スマホのバイブが震え出した。


「すいません、ちょっと電話かかって来ました」


 これ幸いにとスマホ画面を見る。

 お姉さんだ! 保護者懇が説明会終わったのか。

 ポックル先輩は何か言いたそうだったが電話が掛かって来たという事で諦めた。


『コーくーん。終わったよ~今どこ~』


「すみません。色々有っていま生徒会室に居るんですよ」


『なんで? ! あ~でも懐かしいわね。分かったわ、今からあたしたちもそっちに向かうから。ガチャン―』


 了解取る前に切れちゃった。


「すみません。なんか俺の保護者が生徒会室を久し振りに見たいらしくて来るって言い出しました」


 事後報告だけどポックル先輩にそう告げた。


「え? 牧野会長が来るの?」


 ポックル先輩は嬉しそうにしている。


「あっいや親父は今ブラジルなんで別の人です。一応ここの卒業生であそこの写真に載っている人です」


 俺が生徒会長を差し置いて真ん中で笑っているお姉さんの写真を指差した。

 ポックル先輩落ち込んだかな? と思い顔を見るとそこには先程以上にきらきらと輝いている顔が有った。


「も、もしかして、あの伝説の影の風紀委員長と呼ばれた"嵐を呼ぶ者ストームブリンガー"大和田さんですか!」


 ポックル先輩は抱き付かんばかりに近付いて来た。

 だからその顔で下から見上げるのは反則ですってば。

 このはしゃぎようってお姉さんてそんなに有名人なのか。

 しかしお姉さん総番だけでなく、かなり痛い二つ名を付けられていますよ?

 涼子さんも影の風紀委員云々とか言ってたけど実際にそういう扱いだったのか。


「昔この街が荒れていた時が有って、近くの高校同士での喧嘩が日々絶えなかったらしいの。うちの学園もご多分に漏れずそれに感化されちゃってかなり荒れていたらしいわ」


 あーなるほどね。この学校に突然変異して湧いたんじゃなくて周り自体がそう言う状態だったのか。おっかねぇな。


「そこに颯爽と現れて次々と不良たちを改心させていった、スーパーヒーロー! 弱気を助け強気を挫く正義の化身みたいな人なのよ! 大和田さんは私の憧れなの! お願い! 紹介して!」


 いや凄いキラキラした目で語っている所悪いんですが、本人親父に置いてかれてむしゃくしゃしてたから喧嘩しただけって言ってましたよ?


「いいですよ。もうすぐ来ると思います」


 ポックル先輩はピョンピョンと可愛く飛び跳ねて喜んでいる。

 ……この人実は計算してやってないか? あざと可愛いってやつなんじゃないか?


「でもそんなにファンなら、お姉さん……いや大和田 幸子さんなら商店街の不動産屋に住んでるんで会いに行けば良かったのに」


 こんなに好きなら会いに行けばいいのにと不思議に思った。


「えーーー! そうだったの!? 私隣の県から来てるんで知らなかったの。それに生徒会に入ってから大和田さんの事を知ったんで、まだこの街に住んでるって知らなかったわ。牧野君ありがとう!」


 そう言ってポックル先輩は感極まったのか抱き付いて来た。


 ガラッ―


「ここよ。あ~変わってないわね。本当に懐かしい……わ?」


 あぁ、お姉さんタイミングが悪いです。


「コココココ、コーくん何してるの? 不潔だわ!」


 違うのですお姉さん。


「すごいわ! これが生スクールラブなのね! 眼福だわ~」


 涼子さん拝まないで下さい。

 生って言葉は生々しすぎますよ。


「ふむ、これはこれは良い資料に……」パシャッパシャッ


 黄檗さん何写真取っているんですか? 本当に止めて下さい。


「ち、違うんです! 誤解です!」


 俺は慌ててポックル先輩を引き離す。

 ポックル先輩は自分がした事に気付き真っ赤になっていたが、お姉さんの存在に気付くやいなや、今度はお姉さんに抱付きに行った。

 この人も抱付き魔なのか。

 いや端から見ると小さな女の子が無邪気に抱き付いている様にしか見えなくて大変微笑ましい。


「ななななな! 何この子?」


 お姉さんは突然の事にびっくりして俺に説明を求めた。


「なんか学生時代のお姉さんに凄く憧れている子らしくて、紹介するよって言ったら感極まったらしく抱き付いて来たんだよ。それでお姉さんを見たんで今度はお姉さんに抱き付いたんだと思う」


 その説明にお姉さんは困惑しながらもまんざらでも無さそうな顔をしている。


「う~ん、あの時代は自分的にはちょっと封印したいんだけど、でも慕ってくれるのは嬉しいわね。あなたの名前は?」


 お姉さんはポックル先輩の肩を優しく叩きそう尋ねた。


「私の名前は千林 千夏って言います。生徒会の書記をやっています。生徒会の記録で大和田さんのご活躍を知って凄く憧れの存在で、もう本当に嬉しくて」


 ポックル先輩は満面の笑みで自己紹介やいかに憧れていた事を怒涛の様に喋り始めた。

 ただ興奮し過ぎている様で何を言っているかめちゃくちゃになっている。


「分かった分かった。ほら落ち着いて、ね?」


 お姉さんは見た目は小学生だけど中身は高校2年生の彼女に対して幼稚園児をあやすようにやさしく話しかける。

 お姉さん見た目はアレですが流石にそれは失礼なのでは?


「はい、わかりました」


 ポックル先輩はお姉さんの言葉に素直に従って無邪気な笑顔をしている。

 その姿はまさしく妖精と言っても過言では無い。

 くっこの人反則過ぎるだろ!


「この子凄く可愛いわ~。お人形みたい~」


 涼子さんがそう言いながらポックル先輩をべたべた触ってる。

 ポックル先輩は迷惑そうにしている。

 流石に知らない人に子供扱いされるのは嫌みたいだ。


「すみません止めて下さい。あなたは誰なんですか?」


 ぷんぷんモードで涼子さんに突っかかる。


「あらごめんなさいね~。でもその顔も可愛いわ~。私は墨染 涼子って言うの。深草 京子って名前で漫画を書いてるわ」


 涼子さんは可愛いポックル先輩を見てニマニマしながらそう自己紹介をした。


「えええーーーー! あの『スクランブルスクール』の深草 京子先生! 私先生のデビュー作からファンなんです! 信じられない!」


 あっポックル先輩涼子さんのファンだったのか。

 そんな題名の漫画を描いてるんですね。あっ今は違うのでしたっけ?


「『お前みたいな豚野郎を愛せるのは俺だけだぜ』って台詞に痺れましたーーー!」


 え? それのどこに痺れる要素が有るのですか?


「それに急に体育館の上から怪物が降って来る展開にもう発売日が楽しみで楽しみで」


 え? 青春恋愛漫画って話でしたよね? 怪物って何ですか?


「あなたなかなか見どころが有りますね」


 黄檗さん何どや顔で頷いてるんすか? 少女漫画的にあなた達の見ている方向は真逆だと思います。

 ポックル先輩は二人の憧れの人に会える事が出来た喜びからまるで本当の妖精の様に今にも飛び上がらんと言う感じで喜んでいる。


「牧野君! ありがとう!」


 感極まって踊っているかのように、くるっと一回転して腰をきゅっと上げたポックル先輩。

 なびくスカートが一瞬尻尾のように見えた。

 妖精の尻尾をなびかせながら、そう笑う彼女を見て俺はこう思うのであった。



 この人、やっぱり反則だわ。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る