第12話 少女鉄仮面伝説
「あなた新入生ね? ちょっと手伝ってもらえないかしら?」
俺が校内を探索しているとその態度から上級生と思われる生徒に突然声を掛けられた。
その顔は能面のように無表情だが顔立ちは整っていたので美人と言えなくもない。
身長は165cmの俺より高く顔を見るには目線を上にする必要がある。
スカーフの色を見ると確か3年生?
今朝HRの時担任にそう説明されたよな?
言葉には有無を言わせぬ迫力が有り、その圧力に大人しくその女性の後を付いていくことにした。
あれ?そう言えばこの顔って確か……?
――― 時は少し遡る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあ俺は先に行ってる。お姉さん、鍵お願い」
俺の入学式に保護者枠で出席する為に一旦俺の部屋に集合したお姉さん、涼子さん、黄檗さんの三人。
ばっちり準備が出来ている3名は俺のカレーを食べながら手を振る。
「いってらっしゃーい。私たちも食べ終えたら向かうから」
入学式は9時45分からだがクラス別け発表後に各教室で入学式の説明が行われるとの事で新入生は9時前に登校するようにと入学案内に書かれていた。
俺は逸る気持ちが抑えられず8時半を目指して早めに家を出る。
俺が通う高校は駅から離れた小高い山の中腹に建っている。
俺のマンションからは駅に行くのとほぼ同じ距離。
あぁ小高い山と言ったけど周りは開けていて住宅地が並んでいる。
小さい頃は山の方へは余り来た事が無く遠くから見える高校が何の建物か知らなかった。
周りを見ると真新しい制服を着た同年代の男女がそこかしこと歩いている。
他の高校だろうか? 同じ制服だけではなく幾つか違う制服も見受けられた。
中学生位の親子連れも居るな。
まぁ4月の最初の金曜日だもんなそりゃ重なるよな。
「えーっと、確か高校に行く為にはこの道をまっすぐ行った先にある坂を上っていくんだよな?」
俺の記憶が頼りになるのはここまでだ。
大開発が行われたのだろう、ここら辺でもかなり記憶と異なっていた。
この道もこんなに大きくなく、山までの道は幾つかの曲がり角の先だったと思う。
受験の時は親父に車で送ってもらったのだが、親父自身過去の変わりように驚いて道に迷っていた。
よく試験開始時間に間に合ったと思う。
「だから前日入りしてるんだから事前に道確認しておこうと言ったのにな」
今となっては笑い話だが当時はかなり焦っていた。
その焦りが試験に出なくて良かったと思う。
親父は『周りが開発されてても父さんの母校への道なんだから大丈夫任せなさい』と言ってたくせに、いざ当日になったらアレ? アレ? の連発であからさまに遠ざかっていくのを何度修正させた事か。
昔から俺に対しての『大丈夫』はあまり当てにならなかったんだよなぁ。
「まぁ所々見覚えがあるのが逆に迷うんだよなぁ」
以前堤防を歩いた際は抜け落ちた箇所に思い出のピースを填めていたが、この変わり様は真っ白なページに思い出の切抜きが無秩序に貼り付けられているスクラップブックようでまるで異世界に来た様な錯覚を受ける。
その時一陣の風が吹いた。
「うぉっ」
急に強い風を受けた為、周りの皆からも声が上がる。
その風に運ばれて桜の花びらがどこからとも無く流れてきた。
花びらの行方を目で追っていると前のほうから女の子が助けを求めるような声が聞こえてきた。
「すみませーん! それを取ってくださいお願いします。あぁ流されちゃう……」
必死な声の内容からすると横にある川に何かが落ちて流されているようだ。
川を見ると確かに上流から何やらマスコットのような物が流れてきているのが分かった。
おそらく先程の風で飛ばされたのだろう。
川といっても幅4m深さ2mのコンクリートで囲まれた用水路で水深はそれほど深くない。
壁に梯子が取り付けてありその下には足場も作られてあった。
どうしたものか悩んだが、脳裏に先日のお姉さんの『女の子には優しくしないとダメよ?』と言う言葉が浮かんできたのではしごに手を掛け急いで降りる。
「大切な物なの……お願い!」
上から必死に懇願する声が聞こえてきた。
その声に応えるべく流れてくるマスコットを取ろうと手を伸ばす。
少し遠いな、もうちょっと…、あっ。
バシャン!
滑って片足が川の中に入ってしまった。
水深が浅いとは言え、それでも脛までは余裕で水の中だ。
そのお陰ではあるがマスコットは何とか回収する事が出来た。
手にしたマスコットを見ると古いものらしく、かなりボロボロで幾つか補修の為か縫われている所があった。
一瞬ゴミ? と思ったがこれを追いかけていた女の子はこれを大切な物と言っていた。
今の俺には大切な物と言うものは思いつかないが、この子にはこの古いマスコットが大切なのであろう。
涼子さんなら食玩フィギュアかな?
この前あげたレア物を大切と言ってもらえると嬉しいな。
マスコットを見ながらそんな事を考えていると、ふとこれに見覚えが有る気がした。
何かのキャラクター物ではない何やら不思議な形の動物マスコット。
昔これを見た気がする……何処だったか……。
「ありがとうございます! ……あの足大丈夫ですか?」
記憶を辿ろうとした時、上から声を掛けられた。
慌てて上を見上げると……。
暗闇に浮かぶ? ピンク? の逆三角形?
声を掛けてきた女の子は梯子が取り付けられてあるガードレールの隙間から身を乗り出すように立っていた為、俺が上を見上げると……そら、もうね?
慌てて視線を逸らす。
「? 大丈夫ですか? ……え? こー? ……あっ」
顔を赤くして横を向きながら梯子を登る俺を見て最初は不思議そうに声を掛けていた女の子だったが、何かに気付いたらしく何も言わなくなった。
気まずい中、梯子を登り終えて女の子を見ると…。
その女の子は顔を赤くして涙目でこちらを睨む宮之阪だった。
「コーちゃ……い、いやマスコットを取ってくれた事は感謝します。あっ、ありがとうございました。でも……」
パーンッ
ほっぺたを思いっきりビンタされた。
そしてそのまま彼女は高校のほうに走っていってしまった。
俺もだが周りで見ていた生徒たちも何が起こったか分からず唖然としている。
周りの生徒は俺が逆三角形を見たことは分からないだろうから特にだろうな。
「いててっ、いきなりビンタって理不尽すぎ……なくはないのかなぁ?」
最悪の再会だな。
いや何度か会ったけども向こうはこちらの事を気付いていなかったようだし、ある意味初対面か。
不可抗力では有ったのだが見てしまったことに変わりは無いので怒るにも怒れない。
俺の高校の制服着てたよな~。
神様にせめて同じクラスにはならない様に祈った。
俺も高校に向かうのだが歩くたびにがっぽがっぽ音を立てる右足を見ながらどうしたものかと考える。
取りあえずスマホでお姉さんに連絡を取り靴と靴下を持ってきてもらうように連絡した。
ガッポガッポ言う足に周りから奇異の目で見られながらも何とかこれから入学する高校までたどり着いた。
私立 刻乃坂学園
親父、お姉さん、そして俺の母校となる高校の名前だ。
自由な校風と最新設備によるカリキュラムが評判のそれなりの偏差値レベルの進学校……のはずだけど、お姉さんお話を聞くとどうなのだろうか?
親父はそんな不良が闊歩している事なんて一切言っていなかったけど……。
周りを見てもそんな雰囲気の生徒は見受けられない。
それに私立で偏差値も高くそれなりに高い学費なので特待生で学費免除だったと言う親父はまだしもあまり変なのとか来ないと思うのだが……。
お姉さんの時代がそうだっただけなのか、それともお姉さんが呼び寄せたのか?
いまだガッポガッポ言う足を引きずりながらクラス別けの張り紙まで歩こうとしたした後ろからお姉さんの声が聞こえてきた。
「コーくーん! 靴と靴下持って来たよ~!」
大声で俺の元に走ってくる。
その後ろには隣人美人モードの涼子さんと口さえ開かなければ美人の黄檗さんが続く。
突然3人の美人が校門に現れたので周りの生徒が色めき立つ。
『お母さん? 若くない? 美人で羨ましい』と騒いでいる。
「ありがとうお姉さん! それにしても、早かったね?」
大勢の前で愛称を大声で呼ばれて恥ずかしい反面、いまだ水浸しで気持ち悪い足を何とか出来る方が大事なので素直にお礼を言う。
周りの男子からは『姉か? 姉なのか? 是非お近づきに……』と言う声が聞こえてきた。
「タクシーで飛んできたわよ。突然川にはまったと言うからびっくりしたわ。はいタオル。それよりどうしたの?」
取りあえず校門の真ん前ではなんなので目立たない校舎の横まで移動してから靴と靴下を脱いで受け取ったタオルで足を拭く。
「いや~はははは。女の子を助けた際の名誉の負傷ですよ~」
「へ~やるじゃない。でもそのほっぺは?」
目聡いですねお姉さん。
「いやちょっとした事故がありまして~」
「え~なによ~。なんか甘酸っぱい感じがする~。生体験聞かせて~」
涼子さんなんかその言い方ぎりぎりっぽいのですが。
それよりべたべたと纏わり付きながらそんな台詞を言われると周りの生徒からの注目が凄いのですが。
「先……、墨染さん! それはここではまずいです!」
黄檗さん何処でもまずいと思います。
なんか入学早々悪い方向で有名になっちゃったかな?
周りの男達の羨ましがるような視線に少し前途多難な学園生活を予感した。
「助かったよ。もう足が気持ち悪くて大変だったよ」
どうにかこうにか話を誤魔化して取りあえず靴と靴下を履きなおした。
「それじゃあたし達は入学式の席取りしておくわ」
「あたしはちょっと学校の取材するね~。許可取ってるってことだし~」
「とは言っても、あまり変な所に入り込んだりしないでね? 頼むわよ黄檗ちゃん」
「分かりました」
3人と別れた俺は気を取り直してクラス別けの張り紙の前まで来た。
「あっ数字じゃなくアルファベットなんだ」
クラスはアルファベットのAからDの4クラス有って、1クラス約30人と言う事は1年は120人程度か。
えーと俺のクラスは…?
「あっ有った有った。1-Aか。知っている名前とか無いかなぁ~……。げっ!」
その時少し神様を恨んだ。
並んでいる名前に宮之阪の名前を見つけたからだ。
うわぁ~気まずいなぁ~。
「ん? この男子の名前確か仲良かった奴の名前じゃなかったか? あとこの女子の名前は? いやこれは違うな。あいつがこんな所に居る訳無いし」
名簿の中には当時親友と言って良いほどの仲が良かった男の子の名前があった。
ありきたりな名前なので別人の可能性も有るし、それより幾度と体験した去る者と残る者の温度差の事が有ったので、いまいち嬉しさより不安感の方が強い。
それに女子の名前は特徴的だが彼女は俺が六年生の時に住んでた街で仲が良かった子の友達だった。
その子がこの高校に居る訳がないので別人の可能性が高い。
そんな事より今は宮之阪対策だな。
せめて席が離れてくれていると良いのだが……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺の願いも空しく、どうやら神様は抜群のフラグ回収のプロだった。
案内通りの教室に到着して黒板に書かれていた席表を見ると俺の席は窓際一番後ろであり、その反対の隣は宮之阪だった。
席は男女交互に配置され前後左右が異性になる様になっていた。
勿論先頭後尾に両端は違うんだが。
俺の席の隣を見ると宮之阪は既に座っていた。
目が合ったが……あっ露骨に逸らされた。
気が重い……。足に重りが付いているようだ。
色々と幸先悪い高校生活のスタートだな。
深くため息を付く。
「い、いやぁ朝はどうも。ははは」
俺は勇気を振り絞って挨拶をしてみた。
これからの高校生活が少しでも良くなる様にとの起死回生の一撃のつもりだった。
しかし彼女はこちらを少し見ただけで怒りによるものなのか羞恥によるものなのか顔を赤くしてプイッと背けてしまった。
俺の勇気がガラガラと崩れていった。
「うううぅ……俺の高校生活……」
その後担任がやってきてHRが始まった。
主に本日の入学式の進行説明や学校生活における注意事項等の話だったのだが隣の視線が気になってあまり耳に入ってこなかった。
俺が担任の方を向いていると視界の端には彼女がこちらを何故かガン見しているのが見えるのだが、彼女の方を向くとさっと顔を背ける。
短いHR中何度かそう言うやり取りがあり、胃が痛む思いだった。
親父も母さんとお姉さんを見てこんな風に感じていたのだろうか?
いや親父の場合は曲がりなりにも美女が自分を取り合っているシチュエーションなのだからこんな針の筵ではないだろう。
その後入学式が始まるので体育館まで向かう事となった。
入場して行く際に保護者席を見るとお姉さんたちが手を振っているのが見えた。
あぁ涼子さん立ち上がって手を振らないでください。
呆れた顔で涼子さんを見るお姉さんと慌てて座らせる黄檗さんを見て少し気が軽くなった。
事前に説明された入場の手順に沿って席についていく。
その後入学式が始まったのだが、在り来たりな進行で学園長の話、祝電の読み上げ等々睡魔召還の儀式が続けられた。
「私立なんだからなんかもっと凄いの想像してたなぁ。プロジェクトマッピングとか、SFちっくな映像とか」
なんて事を考えながら眠さに耐えながら壇上を見ていると、生徒会による祝辞が始まった。
「生徒会長、祝辞!」
アナウンスによって壇上の隅から生徒会長と思わしき人物が出てきた。
「女の人なのか……」
思わず呟くと、周りからも似た様な感想がこぼれているのが聞こえた。
佇まいは凛として背筋がよく歩く姿は流れるようだった。
しかしその顔は能面のように無表情だった。
顔立ち自体は整っていたので美人と言えなくもない。
緊張しているのだろうか?
挨拶が始まってもその表情は崩れず、声も力強さは有るのだがやはり表情と同じく感情を感じる事が出来なかった。
「姉さんに聞いたんだけど、あの生徒会長っていつもあんな感じで鉄面皮とよばれているんだって……」
周りの生徒からそんな話し声が聞こえてきた。
普段からああなのか……、鉄面皮とはよく言ったものだ。
……少女鉄仮面伝説、何故かそんな言葉が頭に浮かんだ。
その後、式は滞りなく終わり教室に戻り、担任から始業式の説明を受けその日は解散となった。
教科書を受け取りに指定の場所に向かう途中後ろから誰かに話しかけられた。
「あの、こー……」
ん? 誰だ?
突然背後から聞こえて来た女の子の声に振り返ろうとした瞬間、少し離れたところか涼子さんの呼んでいる声が聞こえてきた。
「牧野くーん! あたし達これから保護者説明会があるから出席してくるね~。終わるまでどこかで待ってて~。じゃ~」
え? 保護者説明会? 涼子さんも出席?
止めてください。いやまじで。
止める間も無く、足早に3人で嬉しそうに会場と思われる場所に歩いていくのを呆然と見送る。
そう言えば誰かに呼ばれたんだっけ?
あまりの内容に涼子さんの方に気を取られて忘れてた。
声を掛けられた方を慌てて見たのだがそこにはもう誰もいなかった。
「あれ? 今の誰だったんだろう…?」
俺は首を傾げながら歩き出す。
その後教科書を受け取り集合時間までの間校内を散策する事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こっち側の校舎の一回は実習棟なのか。えーと、1Fは理科室に工作室?に家庭科室かふーん」
工作室ってなんだろう? 美術室とは違うのか?
窓ガラスから教室を覗くとボール盤や電動ノコギリ等の大きな工作機械が並んでいた。
「あぁ、工作ってこう言うこと……」
図画工作のことかと思ってた。
そんな感じで入学式も終わり人気が無くなった校内を散策する。
そろそろ集合場所まで戻ろうかと考えていた時に突然後ろから声を掛けられた。
「あなた新入生ね? ちょっと手伝ってもらえないかしら?」
そして話が冒頭に戻るのだが、入学式の式典の際に生徒会室から持ってきていた生徒会旗を運んでほしいとの事だった。
どうも副会長が病気で休んでおり他のメンバーも片付けの仕事をしているとのことで人手が足りないらしい。
そこに校内をフラフラしている生徒を見かけたので頼んだとの事だ。
「生徒会に旗なんて有るんですね」
知らなかった。生徒会の旗って何に使う……、ああ今日使ったね。
「ええそうよ。わが生徒会に代々伝わる神聖な物よ。大切に扱ってね」
相変わらず力は有るのだが感情が篭ってない口調でそう説明してくれた。
生徒会長の先導で生徒会室を目指す。
生徒会長は何も持っていない。
本当は一緒に持つとの話だったが女の人に持たすのも悪いと思い、俺が一人で持つ事にした。
教科書も重かったがこの旗も重い。
スタスタと流れるように歩いていく生徒会長についていくのがやっとだった。
「この階段を登って3階に生徒会室があるわ」
3階まで登るのか……。
少し一人で持つと言ったことを後悔した。
生徒会長はお構いなしに一人登っていく。
遅れまいと階段を登ろうとした瞬間。
「あっ……」
階段の上から生徒会長の気を抜けた声を聞いた。
なんだろうと思い階段の上を見る。
そこには足を滑らせて今にも落ちてきそうになっている生徒会長がいた。
あっこれやばい! このまま階段から落ちると大怪我する。
でもこの段差じゃ下で受け止めようにも加速度的にこちらも大怪我する!
そう考え自分の荷物と旗を廊下に投げ出して階段を駆け上がった。
落ちてくる差が短ければ短い程、更に運動エネルギーを持っている方が打ち負けない!
落ちてくる生徒会長に近付き何とか受け止める。
ふぅ、思ったより軽くて助かったよ。
もう少しこの人が重かったら、下手したら二人して共倒れだったな。
落ち着いてから気付いたけど、この受け止めた体勢は何故か所謂お姫様抱っこと呼ばれるものになっていた。
う~ん、無我夢中で受け止めたんだけど、なんだか凄い絵面に……。
いや、今はそんな事より怪我が無かったか聞かないと!
「大丈夫ですか!? 怪我とか無いですか?」
生徒会長にそう声を掛ける。
生徒会長の顔は相変わらずの鉄面皮……? あれ?
その顔が見る見る赤くなり今までの無表情は何処に行ったかと言う程、分かり易い普通の女の子の照れ顔になった。
「かわいい……」
そのギャップに思わず、そう口から零れ落ちた。
「……降ろしてください……」
生徒会長は更に顔を赤くし目を瞑ってしまい、恥ずかしそうに小さい声で呟く。
「あっすみません。直ぐに降ろします」
「あっ、あの……ありがとう」
俺の腕から降り自分の足で立った彼女はもじもじとしながらそう言った。
あっなんか本当にかわいい、これがギャップ萌って奴なんだろうか?
彼女のテレ顔を見ていたら……? あれ? どんどん鉄面皮に戻っていくぞ?
俺の後ろの階段の下を信じられないものを見たような目で見下ろしている。
何事だろうと俺も後ろを振り向くとそこには廊下に放り出された俺の荷物と……生徒会旗が転がっていた。
「あなた……! あれがどれだけ大切な物か分かっているの……?」
この言葉には怒りが篭っているのが分かった。
しまった! あの旗は生徒会長が神聖な物とか言っていた!
「すみません! 直ぐ拾います!」
慌てて下まで降りて生徒会旗を持ち上げる。
破れてはなさそうだった。
多少埃が付いてたが払ったら取れたので安心した。
「今度そんなことしたら許さないわよ。丁寧に運びなさい」
特に問題が無かったのが分かったのか怒りの感情は無くなったが、酷く冷たい口調でそう言った。
ううぅ助けただけなのになぁ…。
なんか今日は厄日だなよ、助けた事が裏目に出る日だ。
自分の不幸を恨みながらも生徒会室まで辿り着いた。
生徒会室の中に入り、指定の場所に生徒会旗を置く。
生徒会長は入り口で仁王立ちしながらこちらを睨んでいた。
「お礼だけ言っておくわ。しかし神聖なる旗を投げ捨てた事は許せません」
これは理不尽と言っても良いんじゃないんだろうか?
「その内この責任は取っていただきます。……それにさっきの……」
「え? 最後の方聞こえなかったのですが?」
そう聞くと生徒会長の顔は見る見ると赤くなりまたあの普通の女の子のテレ顔になっていった。
なにやらあうあうと口をパクパクさせている生徒会長。かわいい。
しかし気を取り直したのか、またキッとこちらを睨んだかと思うと、
「覚えておきなさいよーーーーー!」
と悪役のような捨てゼリフ叫び走り去ってしまった。
一人生徒会室に取り残された俺。
「なんて日なんだ今日は……」
誰も居ない部屋の中で途方にくれた。
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