閑話3 Side S Part.3 ~まんがかのおしごとと少し未来の話~

  

 

「ふ~ん。漫画家ってそんなに大変なんだ」


 あれ? なんかこの子反応が淡白すぎない?

 普通子供の頃って漫画家と会うなんて食玩でシークレット当たった時レベルに喜ぶものじゃないの?

 あっそうかそうか。男の子だもんね少女マンガには興味無いか。

 それに少女マンガが好きでも年頃の男の子って好きなのがバレたら恥ずかしいって思うらしいじゃない?

 う~ん男の子の思春期の天邪鬼なところってかわいいよね~。

 そう言う事ならこの反応も仕方無いか。へへへ。

 しかしこの部屋ってちゃぶ台みたいな食卓の他には物の見事に何も無いわね~。

 あっあの紙袋はケーキ屋のお菓子が入っていたやつだ。

 折りたたまれてるって事はもう残ってなさそうね残念。

 引っ越してすぐだから? それとも男の子の一人暮らしの部屋ってこんなものなのかな?

 もうちょっとこうアイドルのポスターとか貼っている物だと思ってたわ。

 そうかここは客間みたいな物で趣味的な物は隣の部屋に置いてるのね。

 年頃の男の子の寝室って見てみたいわ~、漫画のネタになりそう!

 やっぱりベッドの下とかにいやらしい本とか隠してたりするのかしら?


 あ~独身同盟のみんなも羨ましがるわ~。


『お前抜け駆けしやがって! 許さないぞコラ!』

 (脳内)穴太先生ったら言葉が悪いですよ?


『タニーズJrの王臥君に似てるわ。紹介して!』

 (脳内)粟津先生は相変わらずのタニオタね。王臥君て誰かしら? それにしても"DANDY AREA"だけのファンと思ったらタニーズ全般のファンだったのね。


『せんぱーい! 年齢的に先輩だと犯罪臭がしませんか? 私の方が光一君と年が近いので話も合うと思うんですが』

 あらあら(脳内)鈴ちゃんは毒舌ね。ちょっと傷ついちゃったわ。それにもう下の名前呼びなんて思ったより大胆な子ね。でも残念ね牧野くんは既に私の事を下の名前で呼んでくれる仲なのよ?


『なんやねんそれ! ショタはうちの専売特許やでんがなまんがな』

 う~ん関西弁はこんな感じかしらね? (脳内)唐橋先生ってやっぱりショタコンね。でも高校生はショタって言うのかしら?


 …………ん? 男の子の部屋?

 え? あれ? あたしもしかして今男の子の部屋に一人で居るの?

 お腹すいて訳も分からず来ちゃったけどこれってマズくない?

 こ、高校生ぐらいの男の子って血に飢えた狼って言うじゃない?

 あたし襲われちゃったりしないかしら?

 こんなうら若き乙女を見て欲情しない男って居るの? いや居ない!

 やばいわ! 早くお暇しないと襲われちゃう!


 あの同人誌のように!


 ちょっとドヤ顔しちゃったわねふふふ。

 この台詞ちょっと言ってみたかったのよって違う違う。

 それにまだ原稿あと1ページ残ってたし巻末のもまだ手付かずね。

 ネタはツチノコ出たのを描けば良いわ。

 すぐにでも帰らなきゃ……。


 ん? あのカプセルってもしかしてチョコ玉子のカプセルかしら?

 あの色はそうよね? この子もチョコ玉子好きなのかしら?

 でも開けずに無造作に放置してるなんて。

 ダブりとかかしら? よく居るのよねダブったら興味無くして捨てる人。

 牧野くんもそうなのかしら? 勿体無いわね。

 中身が気になるわ~、持ってないのなら頼んだらくれるかしら?


「それより、あそこに有るカプセルが気になるんだけど~? あれチョコ玉子のオマケよね? 中身何だった? 開けても良い?」


 牧野くんチョコ玉子のチョコしか必要無いから中身見てないですって?

 どう言う事? このチョコ確かに美味しいけど同じ値段出せばもっと美味しいの買えると思うんだけど……ちょっと変わった嗜好なのかな?

 譲ってくれるって? やさしい子ね。

 年配者として後輩の鈴ちゃんから服を譲ってもらうのは気が引けたんだけど、チョコ玉子は単価低いし問題無いわよね。


「ありがと~今これのコンプリート目指して頑張っているのよ~。世界の珍獣シリーズ!」


 さぁ中身は何かなぁ~? あたしが買うとセンジュナマコばっかりだけど他の人が選んだんだから別の奴の可能性が高いと思うわ。

 元々世間では何故かセンジュナマコがレア扱いだし。

 ツチノコのお陰で回復したけど箱買いの時のショックはいまだにトラウマなのよね。


「持ってないのだといいですね」


 やっぱり牧野くんは良い子ね。ダブらないように祈ってくれるなんて。


「そうねぇ~っと、この開ける瞬間が堪らないのよねぇ~。あっヤッタこれ持ってない奴!」


 センザンコウだ! 確か昔当たりの紙が入ってたら金属製センザンコウが貰えるキャンペーンやってたわね。

 でも着色されて無い金属そのままだったんでぱっと見は松ぼっくりを半分に切ったのにしか見えなかったのよね。


 さてもう一つは~っとあれ? このパーツは見たこの無いわね?

 尻尾パーツがあるわ。体は茶色っぽいわね? クワッカワラビーかしら? あれ可愛いわよね~。

 取り合えず持ってない奴っぽいわねやったわ。

 えーと説明書に名前書いてるのが見えるわねぇ?

 あといつもの紙の色と違うのはなんでだろう?

 ちょっと豪華なんだけど。

 え~"む"、"か"、"し"? そんな名前から始まる珍獣リストにいたかしら?

 ……え? まさかまさか? あの都市伝説で語られてたあれの名前……。

 あれは確か"ム"・"カ"・"シ"・"ハ"・"ナ"……

 いやいやいやそんな筈は無いわ多分夢よね。

 そう、こうやっていい所で目が覚めてがっかりするのよ。

 多分作業に疲れて寝落ちしちゃったのね。

 だってこんな休みの日に一日かけて料理している一人暮らしの高校生なんて居るわけ無いじゃない。

 それも私が欲しがっていた超レアアイテムをプレゼントなんてちょっと出来すぎよね。

 いまどきハリウッド映画でもこんな在り来りなストーリーじゃゴールデンラズベリー賞の審査員もマジ殴りしてくるわ。助走をつけてね。

 そうよきっと。ほらもう目が覚めるわ。


 ……………………あれ? おかしい目が覚めない?


 もしかして本当に夢じゃない?

 これは現実?

 いやこれは現実なのね!


「こ、こ、これはぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!」


 なんてこと! すごいわすごいわ! この子凄い強運ね!

 これを引き当てるなんて神の手を持つゴッドハンドよ~。


「すっごーーい! 本当に有ったんだ! ネットに流れる都市伝説じゃなかったんだ! すごいぞ! ラピュタは本当に有ったんだ!」


 "ラピュタは本当に有ったんだ"


 この台詞も言ってみたい格好いい台詞上位に入るわね。

 今日2回も言ってみたいと思っていた台詞が言えたなんて本当にいい日だわ~。

 え? 深呼吸? 牧野くんいきなりどうしたのかしら?

 まぁ興奮しすぎてなに言ってるか自分でも分からなくなってきたから丁度いいわね。

 スーハースーハー


「それでどうしたんですか?」


 やっぱり牧野くんも中身に興味あるのね。


「これ超超レアの隠れシークレットなの!」

「なんですかその隠れシークレットって怪しい単語は?」


 あら牧野くんって食玩素人ね。

 大人として教えを乞いにきている子にはきちんと説明してあげましょう。


「だから通常のシークレットよりもっともっとレアなシークレットのことなのよ!」


 納得してもらえたようね。

 牧野くんも喜んでくれてるようね。本当にやさしい子だわ。

 テンション上がるわ~。

 説明に興が乗っちゃって色々話し盛っちゃったけど牧野くんもこれがどれだけ凄いかってこと理解してくれたようね。


 あっ……、し、しまったぁーーーーーー!

 なに馬鹿正直にこんな貴重品のことペラペラ喋っちゃったんだろう。

 これほどのレアアイテム下手したらアレよ? 刃傷沙汰よ?

 コレクターには過激な人とか居るみたいだしこんな貴重なアイテムを持ってるなんてバレたら殺されちゃう事も有り得るわ。

 牧野くんも譲ったのを惜しいと思って取り返そうとしてくるかも、無理矢理奪おうとしてそのまま襲われちゃうんだわ! あの同人誌のように!

 う~ん言ってみたかった台詞では有るのだけど2回言う内容じゃないわね。

 一応確認してみましょうか。


「こ、これくれたのよね?」

「ええさっき言ったとおりあげますよ……」


 なんてやさしい子! あれほど貴重なものって説明したのにこんなあっさり譲るなんてもしかして天使?

 いや神? 牧野くんは神? MAKINO is GOD? もううれしくて抱きしめちゃう!


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


 あ、あら? 無理矢理押し退けられたのだけど?

 そう言えば三日間お風呂入ってないから嫌がられたのかしら?

 ちょっとショック……。グスン。

 いや違うはこれは思春期男子特有の照れ隠しね、可愛いわ。

 え? これの名前? そうよね! 聞きたいよね!


「これはね~幻の鼻行類! ムカシハナアルキよ!」



 あれから暫く食玩について色々と講義したわ。

 しかしこの子聞き上手なのよね~、なんか喋りやすいわ。

 年下とは言え男の人とこんな喋ったことはあんまりないわね。

 ちょっと興味が沸いたから牧野くんの事も聞いてみましょうか。


「へぇ~牧野くんってずっと引越しばかりだったのね~。大変だったでしょう?」


 小さい時から色んな所にあちこち引越ししてたからちょっと変な嗜好になっちゃったのね。

 チョコ玉子のチョコだけ食すって人としてどうなの? と思うわ。


「この部屋何も無いけど全部隣の部屋に置いてるの? 漫画の資料として年頃の男の子の部屋って見てみたいのよ」


 さっきも気になっていたのよね~。

 見た目は無欲で淡々としてるけど実はムッツリって言う事もあるし、慌てて顔真っ赤にして恥ずかしがるかもしれないわね。


「えっ? 隣は机とベッドだけですよ。ほら」


 ガラッ

 あらこれも期待していた反応と違うわ?

 こっちの壁にポスター貼ってないのね。

 机の上には参考書や辞書だけか。

 ベッドの下は……高床なパイプベッドだから下が見えるけど何も置いてない。

 えっ? えっ? ここはプリズン? ここは囚人部屋?


「な、何にも無いのね……」

「えぇ、引っ越すとき荷物になるものは極力持たないようにしてるんですよ。一応本当に大事なものとかは家族のひっくるめて貸し倉庫に預けてたりしますけどね」


 まるで修行僧。

 ちょっと恋愛漫画の題材としては使い難そうね~。

 え~とキャラ設定すると"無欲"で"やさしく"て"強運の持ち主"で"料理が出来"て"そこそこ男前"か……。

 あれ? バリバリ恋愛漫画の恋人キャラっぽくない?

 設定だけ抜き出して見るとこうなるのよね?

 チョコ玉子のチョコだけ食べる嗜好の持ち主なのに? なぜかしら?


 あら? 外が騒がしいわね? 何事?

 誰かが叫んでるわ物騒ね。

 でもどこかで聞いた事が有る声ねぇ。


『センセー! フカクサセンセー! カクレテナイデデテキナサーイ』


「あっいけない! 忘れてた!」


 締め切り6時までだった。

 今は~っと、え? もう9時やばい~!


「黄檗さーん! ごめんなさーい! 今玄関開けるわね~、あっそうだそこから201号室を呼んでみて」


 あちゃ~黄檗さんの顔が般若みたいになってるわ。

 そんな怖い顔をしてると嫁の貰い手も逃げちゃうわよぅ?


「深草先生! そんなところで何してるんですか! 締め切り今日の午後6時までって言ってたじゃないですか! 今何時だと思ってるんですか!」


 あっ玄関が開いた。牧野くんナイス!

 説明しなくとも状況を理解してくれるなんてもう阿吽の呼吸ね~。


「せんせ~、そんな所で油売ってるってことは原稿はもう出来てるってことですよね~?」


 その顔怖いわ黄檗さん。


「えへへ~まだなの~」


 ああぁ崩れ落ちちゃったごめんなさい。

 でもあとちょっとなのよ本当に。


「すぐやるわ! それにもう後1ページの仕上げと単行本の巻末だけだから」

「先生……。巻末マンガっていつもネタが無い~てぐだぐだになるやつじゃないですか。何で最後まで残してるんですか勘弁してください。」

「一緒の締め切り日にした方が悪いのよ~。それに今回は大丈夫よ、色々と書きたいネタが出来たのでちゃっちゃと終わらせるわ!」


 今回は大丈夫よ! ネタは牧野くんのお陰でイッパイ仕入れる事が出来たわ。


「分かりました。夜中12時! つまり本日中に終わらせてください」


 え? あと3時間? 漫画巻末ネタ書きたいこと有り過ぎて~。


「………………ちょっと無理かな~?」

「え? なんですって?」


 黄檗さん本当に怖いです。

 その顔すると本当に婚期逃しますよ?


「ナンデモナイデス! ガンバリマス!」


 さて戻りましょうかね。

 えっ? 牧野くん何かな?

 あたしと離れ離れになるのが辛いのかな?

 へっへっへっあたしも罪な女よね~、でもそんなに安い女じゃないわって……。

 そのタッパは何? それにパスタの袋? くれるの? 夜食に?

 本当にいい子ね。


「あとこれ・・・」


 あーーー大切なフィギュア忘れてたーーー。

 やっぱりこの子天使だわ。


「ありがと~大好き~」


 って黄檗さん耳引っ張ったら痛いって。

 わかった! わかったから、部屋に戻るから~。


「ほら見て! 本当にあと1ページでしょ? 見開きだけど半分は終わってるわ」

「枚数は……揃っていますね。仕上げ忘れも……無いですね。今回正直ダメかと思いました。しかし変なところで油売ってなかったら私が来るまでに終わってたんじゃないですか?」


 いやあの時はあの匂いに抗えなかったから無理だったわね~。

 はいっと、これで原稿は完成ね。


「出来たわよ~。あと牧野くんの部屋は変なところじゃないわよ~。あの子お腹減って死に掛けてた私の恩人よ?」

「先生! 犯罪はダメですよ? 未成年と変な事して捕まったりするとわが社のイメージに傷が付くのですから止めてください!」

「ちっ違うわよ! そんなことしないわ」

「それになんですか、お腹へって死に掛けていたって。買い置きとかデリバリーとか周りに迷惑かけない方法なんて色々有るじゃないですか」


 それ全部試してダメだったのよねぇ。


「口で説明すると長くなるから、今回のこと巻末に漫画として書くんでそれを見て」

「わかりました。あっあの少年がくれたやつ温めますね。パスタ茹でるので鍋は何処です?」

「あキッチンの下の扉の中にあるわ。そうそっち側」


 さぁどこから書きましょうか?

 う~んそうね~始まりはあの日廊下で会って―



 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


  それから少しばかり未来のこと~


 Side A1 ~姉御肌先輩~


「おっあいつの新刊無事に発売されたんだな」


 4月中旬の頃、資料用の本を探しに書店に寄ったら新刊コーナーに後輩漫画家の新刊が陳列されていたのを見つけた。

 ちょっと抜けたところがあるがなかなか面白い奴だ。

 次から次に騒動を起こすがそれがまた楽しみでつい構いたくなる。

 しかしあいつ素材は良いのにファッションセンスが壊滅的だよな。

 あんな服何処に売ってるんだ?


「あの時は悪い事したなぁ~、あの後写真撮影やタイアップ企画で色々と大変で連絡取る暇もなかったからなぁ。今度また奢ってやるか」


 巻末にどんな愚痴が並べられてるのか楽しみだ。

 それともまた趣味の食玩のはずれ報告でも書き連ねるのか。

 新刊を手に取り今回必要になった資料本と共にレジに向かう。


「あいつの話って結構無軌道だよな。最初学園物でネタが競合するかと思ってたけど教室でクサヤ焼いたりとか告白の台詞にブタ野郎って言葉が飛び出るラブコメ初めて見たわ。途中からバトル漫画になった時は腹筋がねじれそうになったな」


 今回の話はふむふむ中世ヨーロッパ風の世界観に靴職人の少女の恋愛物か結構まともだな。

 あたしは単行本派なんで掲載時は読まないんだよな。

 アシ達はたまに話題にしてるけどあたしは今回が初見だから結構楽しみだ。

 主人公は心優しくてって、こいつ天然で毒吐きまくってるな。

 笑顔で相手の心を抉ってくるぞ? しかも自覚無しとか悪魔かよ。

 これがライバルか、ほうほう意地悪してくるっていうテンプレだな。

 ん? おぉう? え? ……な、なんかこのライバルキャラいっつも悲惨な目に会ってないか?

 なんか結構努力家だしちょっと同情するな。

 大体主人公妖精付いててチートなんだよ。

 ここで続くか。なんかライバルキャラが画期的な靴を考えた所で1巻終了。

 うんライバル頑張れ!

 巻末は案外あたしらに対する恨み言とか愚痴かもな。

 さてさて―


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


 Side A2 ~タニオタ先輩~


「今日はあの子の新刊発売日ね。買いに行きましょうか」


 プレゼントしてくれるって言われてるけどちゃんと書店で買って売り上げに貢献しなくちゃね。

 といっても私一人が買っても単行本が再版されないとあの子には何の恩恵無いけど気分的なものね。

 あの時は本当に申し訳ない事をしたわ。

 でもあの日ライブは最高だったわ。

 タニーズの現在絶賛売出し中アイドルグループ"DANDY AREA"略して"ダンア"!

 私タニーズアイドルは全部好きだけど今は断然"ダンア"よね。

 Jrの王臥くんも最近気になってるけどまだメジャーデビューはしてないのよね。今から楽しみ。

 "ダンア"の中じゃカリギュラ君も可愛いしカンティ君も捨てがたい他にも居るけどやっぱり私のイチオシはヴィクトリー君よね。

 彼かっこいいわ~。俳句が得意なのよね~。

 ファンサも貰えたし本当に夢のような一日だったわ~

 あらいけない。妄想に浸ってたわ。

 あの後あの子に謝罪の連絡したけど『何とか乗り越えました~』って言ってたので安心したわ。

 それに『巻末ページがおススメです』って言ってたのでちょっと楽しみ。

 あっこれね。

 鈴さんがシュール系って売り込みだけどもどっちかと言うとこの子の作品の方が天然でシュールなのよね。


 雑誌掲載時から読んでるけど、ここのコマ差し代わってるわね。

 あら? 元は主人公の発言に頑固なおじいさんが少し凹む感じだったけどコミックでは膝を付くほど絶望してるわ? ここまでする必要有るのかしら。

 他にも何箇所か変わってるわね。でもこれじゃあ主人公側に悪印象を持ってしまうのだけど。

 本当にこのライバルキャラが健気で涙を誘うわ。

 ああコミックはここまでなのね、

 しかしこの後スニーカーが出てきたのにはびっくりしたわ。

 ファンタジー世界だからといって時代考証無視よね。

 ええとあの子があんなに押していた巻末はどうなのかしら。

 さてさて―


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


 Side s ~世話好き後輩~


「お母さん! お父さんの入院理由が尿路結石って先に言ってよ!」

「だって凄く痛がってて今にも死にそうだったしお母さんパニックになっちゃって」

「そうそう死ぬ病気じゃないわよ。先輩に頼まれてた仕事をキャンセルして飛んできたんだから」


 お父さんが入院したって言う連絡を聞き昨日行われた女子会からそのまま故郷に帰ってきたら病名は尿路結石でその日の内に音波で砕くとか言う治療をして念のための一日入院だという事だった。

 痛い痛いとは聞いてるけれど致死率も低いってのも聞いてる。

 お父さんが心配では有るけれど先輩の手伝いを終わらしてからでも遅くなかったし、それこそこの結果じゃ戻る必要も無かったと思う。


「じゃあ私これで戻るから」


 今から帰れば先輩のお手伝いに間に合うと思う。


「鈴ちゃんちょっとまって。ほら鈴ちゃんわかるでしょ。今イチゴの収穫期なのよ。お父さんも年で最近腰痛めてるのよ。今回のも最初はぎっくり腰かと思ってたくらいだし。昨日一日私も作業出来なかったしお父さんも昨日の今日で無理は出来ないのよ。お願い! 収穫手伝って」


 お母さんが鈴と読んでるのは、私の本名は直木 鈴と言うからなの。

 ペンネームは本名のアナグラムで鈴 直子にしてるの。

 う~ん収穫作業の大変さは分かるし、音波の治療も治療後痛みや血が出る事も有るらしいし副作用も無くは無い無理はさせられないか。

 仕方無い先輩ごめん!

 一応お父さんが大丈夫って言うのは連絡入れてお見舞いのお礼と手伝えなかった事の謝罪もしなきゃ。

 電話じゃなくメールじゃないとダメなんだよね。

 以前本当にぎりぎりの時に間違って電話したら地獄の亡者の様な声で『ニククワセロ』って言われたから。


 先輩はちゃんとした時は凄く綺麗ですばらしい人で、初めて雑誌の忘年会で会った時思わず見とれてしまったのを覚えている。

 もうこの人に一生付いていくって気持ちになった。

 でも何回か会う内に素の先輩が分かってきてこの人は大きな子供だっていう事が分かった。

 でもそんな子供みたいな先輩の事も大好きで放って置けなくて私が面倒を見なくちゃって思うようになった。

 だって先輩のころころ変わる行動が昔飼っていた犬とそっくりで凄く懐かしく感じるからだ。

 先輩の突拍子も無い行動を見ると死んでしまった愛犬が今でも元気に走り回っているような錯覚を覚えて自然と笑みがこぼれてしまう。

 今回大変なさなか手伝ってあげれなかった事が残念でならない。


 締め切り後に頃合を見て先輩に電話をしたら、無事に乗り越えたとの事で安心した。

 凄くうれしそうな声だったので何があったか聞きたかったのだけれど新刊の巻末を見てと言われ教えてくれなかった。


 先輩の作風はファンタジー恋愛物という事だけれどどちらかと言うと私以上にシュールギャグマンガだと思う。

 いくら私がシュールな展開を考えても先輩は天然で斜め上を突き抜けていく。

 私が目標として何時までたっても追いつけない尊敬する大先輩。

 って言うか今回のお話も靴の妖精と言う事なのにモチーフが手袋は無いと思う。

 まだまだ追いつく事は出来そうも無いと痛感する。

 あれだけうれしそうに自慢していた巻末ページが楽しみだ。

 さてさて―


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


 Side K ~ショタ同輩~


「では、今回縁がなかったという事でご辞退させてていただきます」


 ふぅなんでうちがこんなおっさんとお見合いせなあかんのや。

 いくら本家からの紹介って言っても勘弁ならんわ。


かつらさん? 先ほどの態度はどう言うことえ? 本家の顔に泥塗るおつもり?」

「いえいえそんなことおまへんよ? 会うだけでも会ってみろ言われたさかい、その通りさせてもらっただけです?」

「なっ、あんたがええ年にもなってぶらぶらしてはるさかい、いい縁談もってきましたんやで?」

「そんなお節介はけっこうです。それにうちは仕事に誇り持ってやらさせてもらってるんで、ほなこのへんでしつれします。」


 うしろでなんか言ってるけど無視や無視。

 勝手に縁切りしてくれたらええんや。


 あのおばはんがかつら読んでたんは本名やからや。

 うちの本名は七条 桂しちじょう かつら

 本家分家と古い仕来りで縛られたこの名前を捨てて今は母方の姓である唐橋をつこうてる。

 下の名前は離れられへんけど言の葉だけでもと変えてけい、合わせて唐橋 桂からはし けいとして漫画を書いてる。


 まぁそんな事はどうでもええんよ。

 こんなしょうもない事でうちを呼び寄せよってからに。

 外で勝手やってる分家の娘を押さえ込もう思うてるんやろけどそうはいかへんわ。

 うちは自分の力で稼いで生きていくんと決めたんや。

 だから結婚とかは家事しろアレしろ言わん、逆にうちのこと支えて頼って家事洗濯してくれるような男しか興味ないねん。

 年上はあかん、うちのこと年下や思てなめてかかる。

 やっぱり年下やわ。そしてうちに頭上がらんで甘えてくるみたいな子が理想やね。

 みんなショタ趣味とか言うてるけどただ若い子が好きなんとは違うわ。


 はぁ今回同輩のあの子の頼み断ったのは悪かったわ。

 結局縁談断るのに3日もかかってもうたし、今から帰っても間に合わへんわ。

 折角やしこのまま母の墓参りしてそのまま母の実家に泊まらせてもろて明日にしよか。


 次の日電話したらあの子えらい上機嫌で拍子抜けしてもうたわ。

 聞いても答えてくれへんしなんなんやろな?

 新刊の巻末見ろなんて今まで言うたことないわ。

 いっつもなんかおもちゃの話とかただの愚痴とかぐたぐたやのにどなんしたんや。

 まぁ楽しみにしてるわ。


 しかしあの子は面白い子やわ。初めて会ったのは出版社に持込したときやな。

 うちも初めて東京に来て緊張してガチガチやったときに隣に亡者みたいな顔してやってきて凄く肝冷やしたわ。

 カバンからパン取り出してムシャムシャ食い出した思たら見る見る血の気取り戻すんやもん。

 妖怪変化の類かと思たわ。

 そのあと何も無かったかのようにうちに普通に話しかけてくるんやからおかしゅうて噴出してもうたわ。

 それでガチガチやった緊張が解けてうまい事持込が出来たんや。

 あれからずっと親友でいてる。


 あの子の新刊はこれやね。

 うち思うんやけどこの話途中で主人公とライバルの立ち位置が変わってこの健気な子が最後に主人公になるってストーリーとちゃうやろか?

 コミック版で主人公サイドの黒さが増えてる気がするんやけど。

 あぁでもあの子の事やから違うんやろなぁ。

 これで普通に主人公してるだけなんやろなぁ。

 1巻はここまでか。

 巻末はどんなんなんやろ?

 さてさて―


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


 Side A1&A2&s&K ~4人それぞれの場所で~


『『『『なんだこれー』』』』

『これ作り話だろ、こんな話出来すぎだ』

『え? どう言う事? 私がライブに行っている間にJr位の男の子の手料理を食べた?』

『先輩これ犯罪臭いですよ。条例とか大丈夫なんですか?』

『どう言うことえ? これは妄想やわ……うちが言うた理想に対する当てこすりやわ……』


『『『『これは緊急女子会を開く必要があるな』わね』すね』るわ』

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