閑話2 Side S Part.2 ~腹ペコモンスターなまんがかのおしごと~
「あの子、いい子だったわね~」
隣に引っ越してくるってあの子、牧野くんだったっけ?
本当にとってもいい子だったわ~。
あたしの大好きな商店街のケーキ屋さんのお菓子をくれるなんて。
ちょっと失敗しちゃったけど大人の女性を演じきれたよねぇ。
あの袋の中にまだまだお菓子有ったけどうちのマンション全部に配る気なの?
余ったら貰えると嬉しいんだけど……。
今度会ったら余ってるか聞いてみよっと。
今回も前回と一緒のエスニック風の居酒屋よ!
ここって結構珍しい料理が有って大好きなの。
そう言えばこの前カエルって初めて食べたわ。
鶏肉と似ているって言うけどカエルは肉が少なくて全然食べ応え無いんで食べるのならやっぱり鶏肉の方が好きねぇ。
さぁみんなに明日からのヘルプにお礼を言わなくっちゃ。
「「「「ごめんなさい」」」」
「え?」
「あたしの漫画って舞台にした町があるんだが、そこの町長が是非タイアップを企画したいってんで急に明日から一週間そこに行かなきゃならなくなった。本当にすまん」
「ええ?」
「ごめんなさい! 実はタニーズアイドルの"DANDY AREA"全国ツアー北海道公演が明後日有るの! 全国分応募したんだけどチケットがそこしか当たらなくて明日から現地入りしないとダメになったのごめんなさい。この前の電話の時言おうかと思ったんだけど直接謝罪したくて……」
「えええ?」
「先輩すみません! さっき父が入院したって電話があってすぐにでも実家に帰らないとダメになりました。本当にごめんなさい!」
「ええええっていや、それ大変じゃない! そっちの方が大事だわすぐにでも行ってちょうだい。お父さんにお大事にって言っておいて。あとこれで何かお見舞でも買って渡してもらえる?」
「あっありがとうございます。本当にすみません。では」
「うちは急にお見合いの話が来て明日実家に戻らなあかんくなってん。ほんまごめんなぁ」
「「「「えええええ?!」」」」
「おい独身同盟脱退か?」
「それは聞き捨てならないですね」
「ちょっちょっそんなこと断ってあたし手伝って!」
「唐橋先輩! ショタっ子と添い遂げる野望はどうしたんですか!」
「鈴ちゃんまだ居たの?一刻も争う状況だと思うんだど……?」
「それはそれ、これはこれですよ」
「うちだって嫌やけど本家からの話なんで会うだけでもしないと先方も顔が立たないんよ。相手は30越えって聞いてるから勿論断るつもりなんやけどね」
「「「「それを聞いて安心した」」」」
「じゃあ先輩! 私はこれで!」
「ええ気をつけて」
ガーン凄くまずい~!
他にあまり知り合いの先生居ないし、先生たちのアシさんも臨時休暇で各々用事を入れちゃってて無理って言われてしまったわ。
黄檗さんに救援要請しようかと思ったけど昨日『絶対大丈夫だから任してて』って大見得切っちゃったところなのよね~。
それに『寸前で何かあっても知りませんからね?』って言われちゃったしどうしよう……。
すぐに帰って作業を始めなくちゃだめっぽい。
これは久し振りに真剣な缶詰作業! 略してマジ缶よ。
駅前のショッピングモールで買出ししなきゃね。
ふぅギリギリセーフね、電車一本乗り遅れたんでやばかったわ。
目の前で閉まったのに駅員さん開けてくれないなんて意地悪よね~。
無理矢理手でも突っ込んどけば良かった……ってさすがにそんなことしないわ。
あたしは大人の女性だもん。
しかしこのショッピングモール、食品売り場は11時まで開いてて良かったわ~。
結局あの後現実逃避して9時過ぎまで飲んでたら穴太先生が『さすがにまずいだろ』って強制でお開きになったのよね。
みんなも明日早いらしいから仕方無いか。
それに今回は奢ってもらっちゃった。
それより鈴ちゃんのお父さん無事だといいんだけど。
う~ん缶詰中は料理なんて出来ないし、いちいち冷蔵庫へうろちょろするのも面倒だから机の周りに置いとける物が良いわね~。
……まぁ料理なんて元からしないけど。
最近暖かくなってきたから置いといても腐らない物にしないとね。
以前食パンにした事があったんだけどいつのまにか青かびだらけになってた事があったわ。
ブルーチーズも買ってたかな?って気付かずそのままパクパク食べてたら様子見に来た黄檗さんがそれを見て悲鳴上げて気絶したのにはびっくりした。
気絶しちゃった黄檗さんの介抱が大変だった。
それにカビって色んな色があったのね知らなかったわ。
カップ麺とかの汁物はこぼして大惨事になった事があったのでパスね。
保存食と言ったらカンパンが鉄板だけどネット掲示板で買ったは良いけど味見したら全部食べちゃったって笑い話が有ったわね。
……本当になりそうで怖いわ。
他に栄養があって保存が利く物といったら……、そうそう"熱量友達"が有名ね。
え~っと、どこかなぁ~あっ有った有った。
結構種類が有るのね、普段こう言うの食べないから知らなかった。
う~ん締め切りまでの日数考えると……全種類5個づつくらい買っとこうかな。
あとはチョコ玉子! うっ、残り4つしかない。
あと飲み物も幾つか買っておきましょう。
やっぱりイケてる大人の女性としてはジュースよりお洒落にミネラルウォーターね。
あら2リットルでも結構安いわ。
お、重い……。
しまったぁ~調子に乗って買いすぎた……。
駅前からマンションまで結構距離があるのよねぇ~。
2リットルのミネラルウォーター3本は流石に失敗ね。
それに良く考えたら水なら水道水でよかったじゃない。
これならジュースの方が良かったわ。
そうだ! 喉が渇いてきたしこれ飲みながら帰ったら軽くなるし乾きも癒せて一石二鳥じゃない。
コップないからそのままラッパ飲みね。
ごくっごくっ、ぷはぁー! おいしいわ~。それにこれでアルコールも抜けるわね。
ん?なんか周りの人がジロジロ見てくるわね。何かしら?
ふぅ、やっと着いたわ。
途中何故かおまわりさんから2回も職務質問されたわ。
こんなうら若き乙女を不審者みたいな目で見てくるなんて見る目無いわね!
さーってとやりますか。
その前に軽く腹ごしらえね。
"熱量友達"を味見してみましょうか。
まずはプレーンからね。
そう言えばプレーンってプルーンと響きが似てるから昔勘違いしてたわ。
プレーンヨーグルトをプルーンが入ってると思ってわくわくしながら蓋を開けて中を見た時の失望感は筆舌に尽くしがたい嫌な思い出ね。
パクッ、あっ結構おいしい。ちょっと硬いけどスコーンみたいな感じね。
次はチョコレートね。
パクッ、う~んおいしいけどちょっと喉が渇くわ。
次はフルーツ。へぇ~ドライフルーツが入ってるんだ。
パクッ、あっこれはおいしい。ドライフルーツがちょっと歯にふっつくけど。
ああぁ~あんなにあった"熱量友達"が気付いたら半分くらいになっちゃった。
締め切りまでもつかしら?
まぁいざとなったら出前取ればいいしまぁいっか。
掲示板のように全部食べなかっただけでもえらいわね。
気を取り直してデザートにチョコ玉子ね。
パクッ、うんやっぱりおいしいわ。
中身はっと、あっあっやったぁぁぁーーー! シークレット出たぁぁぁーーーー!
密林で5000円で買わなくて良かったーーー!
この大変な状況の私を見て哀れんでくれた神様からのプレゼントね。
しかしツチノコって珍獣カテゴリーなのね。実在してたなんて知らなかったわ。
しまったー! 昨日シークレット当たった喜びでそのまま寝てしまってた!
ちなみに残りはゼンジュナマコとジャイアントパンダだったわ。
密かにジャイアントパンダも1ダース居るわ。
ツチノコもそうだけどジャイアントパンダって珍獣なのね?
有名すぎてなんか違和感あるわね。
締め切りは3日後の午後6時って行ってたけど、黄檗さんっていつも2時間以上サバを読んで早く言ってくるから8時過ぎまでは大丈夫なはず。
何枚かペン入れ終わってるけど残り30ページね。
いつもよりまだまだ多いわ……増ページ許すまじ!
あたしそんなに線が多くない画風だから楽だけど仕上でトーンとかベタとか有るから……。
うん、これは死ねるわ。
1日目
うん順調ね。さくさく作業が進むわ。
この分なら間に合うと思うでしょ。
しかし"熱量友達"っておいしいけど喉が渇くわね。
あと余り空腹が癒されないから結局たくさん食べちゃうわ。
2日目
"熱量友達"が無くなったわ。
他に何も無かったかしら?
隣の子に貰ったお菓子は部屋に置きに戻った時に我慢できなくてその場で食べちゃったからもう無いのよね。
残しとけば良かったわ。
出前でも取るか。
出前はダメね! いつ届くかそわそわして全然集中できなかったわ。
まぁそれでも作業は順調よ。
もうすぐペン入れが終わるわ。
ひぃふぃみぃ…………。
あれ?あれあれ?枚数が合わない……。
えっ? どういう事? あら最終ページってこんな内容だったっけ?
なんかぶつ切りの場面ね。
確か最終ページって防水靴が売れて工房のみんなと良かった~って感じの見開きだったと思うんだけど。
これって靴のアイデアを思いついたシーンじゃない。
今回の承から転へ続く場面だから真ん中から少し後ろらへんのページだった筈。
あっ……、忘れてた……。初日に原稿枚数が多いからって適当に二山に分けてたんだった……。
残りの奴は……あれか……。気が遠くなってきた……。
何枚かなぁ……。ひぃふぃみぃ…………10枚か、あぁまだ良かった。
こう言うのって怪我の功名? 違うわね。
肉を切らせて骨を断つ? 今回断たれるのもあたしの身なんだけどね。
しかもここから主人公の攻撃パートだから結構凝った構図とか効果とかが多いのよね……。
死ぬ気で頑張らないと……。
3日目
アァ……オワラナイ……。
タベルモノモナイ……ヒモジイ……。
キノウカラ……ナンジカンモ……スイドウスイダケダ……。
シアゲガアト……イチマイ……ニマイ……サンマイ……イッパイ……アァヒモジスギテサンイジョウノカズガカゾエラレナイ……。
……カユ……ウマ……
アトモウチョット……。
マイスウハ、カタテノユビノカズトダイタイオナジ……。
アァ……ナンカソト……イイニオイ……。
コノニオイニ……アラガエナイ……。
ドコカラ……?
アァココハオカシノコノヘヤダ……。
イイニオイ……。クワセロ……。
『後は落し蓋が具に乗っかり水位がそれ程度になるまでじっくり煮込むだけ~』
……チッ……カンセイチガウ……
……カンセイスルマデ……マンガカク……
アトイチマイ……オワリガミエタ……
デモ……モウガマンデキナイ……
コンナニオイヲサセヤガッテ……
デキテナカッタラ……オレサマオマエマルカジリ……
『よし完成! あ~この匂い反則だわ』
……ソウダ……ハンソクダ……
マドガアイテル……ココカラコエ……カケル
デモ……アタシハ……オトナノジョセイ……キチント……オネガイ……
「イイニオイ……ソレチョウダイ……ソレタベサセテ……」
……ナンカオオゴエアゲタ……ソンナコトバハモトメテナイ
「オナカスイタ……オネガイ……ソレタベサセテ……」
ショクタクニスワレイワレタ……
『スパゲッティでいい?』
「……ナンデモイイ……」
ハヤククワセロ……
イシキガ……トオノク……ドレダケマタセル……
「どれだけあたしを待たせりゃ気が済むんだこの野郎!」
アァ……(ノウナイ)アノウセンパイガ、スゴクゴリップクダ……
センパイオチツイテ……。
『はいお待たせ、粉チーズはお好みで』
アァ……ウマイ……カラダニシミワタル……。
ウマイウマイウマイウマイウマイウマイウマイウマイウマイウマイ。
モウナクナッタ……。
「オカワリ……」
ウマイウマイウマイウマい……うまい……うまい……おいしい。
このこってたしか……まきのくんだったっけ?
おれいいわなきゃね。
「ありがとう」
はぁ~食った食った。
「ご馳走様~! 凄く美味しかったよ! ここ最近ずっと部屋で缶詰状態で仕事してたらつい食べるの忘れてしまっててね、気付いたら飢え死にしそうになってたのよ~」
あら牧野君なんかびっくりした顔してるわね?
「そしたら隣の部屋から凄く良い匂いが漂ってきて居ても立ってもいられなくなって来ちゃったのよ」
大人の女性としてちゃんと言い訳……いえ事情を説明しないと。
あっ年頃の男の子の前でこの格好はちょっとまずかったわね。この三日お風呂入ってないし。
「……墨染さんって本当に人間ですか?」
人間ですかってひどいわね。
でもなんかこの子に苗字で呼ばれるのってよそよそしくて背中がムズ痒い感じがする。
そうだ助けてくれたお礼に下の名前で呼ぶ事を許してあげましょう。
そう言えば人間ですかって今までも言われたこと何度もあるわね。
悲鳴上げられたことも……結構あるわね。
ちょっとお腹がすいたときに辛さが顔に出やすい体質なだけなのに本当にみんなおおげさよね。
「そうなんですか……。そんなになるまで缶詰状態で仕事って涼子さんは何している人なんですか?」
あっなんか年下の男の子に名前で呼ばれるのちょっとぞくぞくする。
でも何してるかやっぱりそこが気になる?感の良い子ならこの袖についたトーンカスとか服のインク染みとかで気付くわよね。
大体中高生ってマンガ好きだからあたしが漫画家ってしったらびっくりするでしょうね。
尊敬の眼差しで見てくるに違いないわ。
サインちょうだいとか言われるかも!
まぁあのお土産のお菓子と交換なら考えなくもないわね。
「ふっふ~ん、知りたい?実は実は私~漫画家なの」
びっくりするでしょ?尊敬するでしょ?あれ?
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