第13話 違う、そうじゃない
「なんでお前もついてくるんだよ」
『俺がいないと、あんた戦えないだろ?』
「そりゃそうだけどさぁ」
あの後アンナとバルトロメウスに何度もゴブリン退治を止められた。
でもよ、ゴブリンだぜ?
異世界やゲームで最初に倒す敵なのに何を恐れる必要があるのか。
おばちゃんが「ラスがいるから余裕のよっちゃんよ!」って言ってくれてホント助かった。
『それに、俺はあんたをほっとけないんだよな』
問題はこのプリンだ。
確かに彼がいないと戦えないだろう。
でも俺には戦うことより、はるかに重要な使命がある。
俺はチラッとラスの方を見た。
ドワーフとは思えない透き通るような肌。
ギルドを出てから一度も話しかけてこない奥ゆかしさ。
そう、俺にはこのラスちゃんと仲良くなるという使命がある。
この至高のツンデレロリドワーフといちゃいちゃしたい!
なのに! 俺がラスちゃんに話しかけようとするとプリンが邪魔をする!
それにしてもラスは歩くのが早いな。
まるで俺から離れようとしてるみたいだな。
『それでどんな内容のクエストなんだ』
「オンセーン村ってところを占拠したゴブリンを倒してくれってさ」
『ほう』
「知ってるところか?」
『いや、知らないな。道はこれであってるのだろうな?』
「う~ん。ラスちゅわぁ~ん、道あってるでちゅかー?」
ラスはチラリとこちらに目をやると、そのまま何を言わずにまた歩き出してしまった。一瞥ってこういうことを言うんだろうな。好き。
「ラスが魔法で地図を投影してるらしいんだが、俺に見せてくれないんだよな」
『嫌われてるんじゃないのか?』
「は? そんなわけないだろ。控えめに言って好かれてるだろ」
『その自信はどこから出てくるんだよ』
そんな他愛もない会話をしていると、ラスが急に立ち止まった。
左腕を横に広げて俺たちを制止させる。
「ん? もう着いたのか?」
「来る」
何が来るんだ?
ラスは主語がなくて良くわからんな。
前方を見ると遠くに緑色の小鬼のようなものがいる。
なるほど、あれがこの世界のゴブリンなんだろうな。
『しかし初めてのクエストでゴブリン退治を選ぶとは、よほどの自信があるか大バカ者だ。何か考えがあってのことなんだろうな?』
「俺とラスで囲んでぶっ倒す!」
『……大バカ者の方だったか、あれを良く見ろ』
改めて視線を前方に戻す。
ゴブリンは右手に棍棒、左手に丸い盾を持ち、上半身を鉄の鎧で覆っている。
身長は百二十センチくらいだろうか。やや痩せ型でBMIで言うと十七と言ったところだ。
「ふむ」
こちらに向かってくるゴブリンを見ているうちに俺はあることに気がついてしまった
なぜ俺がクエストを受ける前に、アンナたちはこのことを教えてくれなかったのか。
「プリンの言う意味が良くわかった」
ゴブリンの後ろにものすごい土煙があがっている。
その土煙の中からゴブリンが続々とあふれ出てくる。
『昔から言うだろ、ゴブリンを一匹見たら百匹いると思えって』
「この世界の常識なんて知らねえええよおお!」
プリンの頬を指でつまんで左右に引っ張る俺。
にゃにするんだよぉーと抵抗するプリン。
「しかしこの数はやばいな、出直すか?」
「ラスにまかせて」
そう言うと、ラスは羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。
地を蹴り飛ぶように跳ねてゴブリンの先鋒に急接近していく。
「ギャギャギャ! ニンゲン! マヌケ!」
単身で突っ込むラスを見たゴブリンが棍棒を振りかぶる。
しかし、そんなことをまるで気にも留めない様子で彼女は突っ込む。
そのまま棍棒の攻撃範囲に入るか否かというところで、俺は呪文の詠唱を聞いた。
「クロスファイアー」
ゴブリンの鉄の鎧が凄まじい金属音を立てて吹き飛んだ。
鎧の持ち主はその場で膝をつき、何も言わずに倒れ伏した。
一変だ。
明らかに空気が変わったのがわかる。
さっきまで棍棒を掲げて前進していたゴブリンたちがひるんでいる。
「ギャギャ! カコメ! カコンデツブセ!」
ゴブリンたちはラスを四方から取り囲んだ。
その数およそ十体。あいつらそんな知恵があるのか。
「ラス! あなたのマサオちゃんが今から助太刀に行くぞ!」
「こないで、邪魔だから」
そんな、冷たい。俺もラスちゃんと一緒に戦いたいのに。
ラスは大地を軽く蹴ると、正面のゴブリンとの間を瞬時に詰めた。
虚をつかれたゴブリンが棍棒を投げつけるが、ラスは身体を軽くひねってそれをかわす。
「アイシクルトルネード」
呪文の詠唱と同時にゴブリンの身体が吹っ飛ぶ。
背後で様子をうかがっていた仲間たちを巻き込んで、軽く五メートルは飛んだように見える。
「ウィンドスラッシャー」
ラスがゴブリンたちの隙間を風のように駆けながら詠唱する。
ある者は、すれ違いざまに何が起きたかわからず崩れ落ち。
ある者は、攻撃を試みようとしながら無様に倒れ伏し。
ある者は、逃げようとしたその背中に致命傷を負った。
そのあまりの早さに俺は言葉が出なかったが、同時にある違和感に気づく。
「うーーーん」
『どうした、マサオ』
「俺が思ってた強さと違うんだよなぁ……」
『どういう意味だ? 俺にわかるように言ってくれよ』
そう、確かにラスは強い。
★5クラスの冒険者を引いたら序盤の敵なんざこんなもんだろう。
だが、そうじゃない。
強さのベクトルというか方向性が違うのだ。
「俺あいつは魔術師だって聞いたんだよな」
『えっ? ウソだろ?』
ラスは逃げ惑うゴブリンの首根っこをつかみ乱暴に引き寄せると、高々と釣り上げた。
ゴブリンは何とか逃げ出そうと足をジタバタさせている。
「ライトニングボルト」
しかし、ラスは無慈悲にも強烈な右ストレートを背中に叩きこんだ。
だらりと動かなくなるゴブリン。かわいそう。
「完全に物理じゃん」
『魔法とは何か考えさせられるな』
ラスの修羅のごとき強さにゴブリンたちは退散していった。
後に残されたのは風に髪をなびかせるラス一人。
「ラス、良くやったな。ご褒美に俺がハグしてやろう」
俺はラスの元に駆け寄り満面の笑みを浮かべて両腕を広げた。
ラスはそんな俺の顔を見ると、そのまま腕の中に倒れこんできた。
あれ?
俺殴られるの期待してたんだけど?
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