第8話 名も無き英雄の墓標
「なぜこんなところに鋼鉄人形があるのか疑問に思われる方も多いでしょう。この鋼鉄人形は我らの国の救世主だったのです」
「救世主か、過去この人形がここで戦ったのか?」
「ええそうです。空を埋め尽くす悪魔をその霊気で焼き払ったと言い伝えられております」
「これで勝ったのか……。
「戦いの後、命を落とされたと伝えられております」
「やはりそうか」
「ララ様はこの鋼鉄人形の事をご存知なのですか」
黒猫の質問に頷くララ。
「これは、2000年前の皇帝機だ。名をジニアと言う。当時の皇帝がこのアルゾンデ防衛の為に派遣されたのだ」
「記録が残っているのですか?」
「公式ではないがな。派遣されたドールマスターがどうなったのかは不明だった。ここに墓があったのだな」
「はい。墓地はこちらです」
鋼鉄人形の左に石で作った剣と墓標が設置してあった。
『救国の士アリオン・バーンスタインここに眠る』
墓標にはそう書かれていた。
「私のご先祖様だな」
ララはそう言って跪き頭を垂れる。
一同は合掌礼拝をした。
「ところでテオラ。この鋼鉄人形をどうしたいのだ?」
「2000年前の紛争以来、アルマ帝国とは交流が無くなってしまいました。我らとしてはこの鋼鉄人形とアリオン様のご遺骨を帝国へお返ししたいと思っているのです」
「それもそうだな」
「もう一つ重要な理由があります。それは、この鋼鉄人形を戦争の道具として活用し、このアルゾンデをサリスタスの盟主とすべしとする一派がいるのです」
「サリスタスとは目玉の事です」
鳥頭の説明に頷くララ。
「つまり、信仰を集める対象であるが故、戦争の道具にされるのは困るという話だな」
「ララ様のおっしゃる通りです」
「なるほど。アリオンもそう考えて此処に移動したんだろう。こんな地中ではテレポートするしか移動手段が無いからな。高名なドールマスターがいなければただのオブジェだ。その、過激な連中はどうやって鋼鉄人形を外に引っ張り出すつもりだったんだ?」
「それは、表にあるマリナス神殿を破壊し、この洞窟まで岩盤を掘削して運び出すつもりのようです」
「ふむ。鋼鉄人形がここにある事が切実な問題になっているのだな」
「おっしゃる通りです」
「信仰の対象が無くなっても良いのか?」
「問題ありません。そもそも信仰とは己の心と神を結び付けるもの。神像は信仰の対象たる神を心の中に描く手段にすぎません」
「そうか」
「はい。この機会に故郷へとお帰り頂くことが我々にとっての最大の感謝だと認識しております」
「わかった。その意は受け取った」
「ありがとうございます。ララ様」
恭しく礼をする神官テオラ。それを見ながら鳥頭はララの耳元でささやく。
「安く請け負ってよろしいのですか? こんな代物、誰が運ぶんですか?」
「ストライク運送店に決まってるだろ。報酬は弾むぞ」
「鮫肌船長と相談します。正式な返事は船長から伝えます。まだ受けたわけじゃないですからね」
そう言ってこの場を後にする鳥頭だった。
「あのボロ船で大丈夫なんですかね?」
「心配するな。いざとなれば私がバラバラにしてやる。使えなくすればいいんだろ?」
「それはそうですが、やはりご神体をバラバラにするのはどうかと思います」
「そうよ。ララさん」
「悪いようにはしないから文句を言うな。あ、ミサキ姉様はこれを魔改造しようなどと考えないようお願いします。歴史的遺物ですからね」
「分かってますよ。黒猫さん。これを調べましょう。まだ動くのなら貴方に外へ出してもらうのが良いでしょうから」
「分かりました」
黒猫が早速鋼鉄人形を調べ始めた。それを見守る神官テオラとミサキ。
「クレド様。退屈でしょうから、私達は外へ出ましょう」
ララの言葉に頷く黄金の女鹿。二人は神官に目配せをし外へ出ていく。
神殿の中でサユナと出会い、三人で外へ出る。
赤く暗い太陽に照らされる大地。この星では薄暮のような情景が一年中続いているのだ。
「サユナ。ここは退屈ではないのか?」
「そう感じる事は少ないと思います。ただ、帝国の方と違って時間の感覚に乏しいかもしれません」
「日が上らず日が暮れず、常にこれでは時間の感覚は我々とは大違いなのだろうな。時間はどうやって計っているんだ?」
「村の中央に大きな水時計があります。それで時間を測っています。昔はこれしかなかったのですが、今は帝国からもたらされた精密な時計がありますから、時間の管理はきちんとできてますよ」
「それで鮫肌は村長に時計を渡してたのか」
「そうだと思います。時計は高価ですので、皆持っていません」
「なるほどね。ここでは四季もないのだろう?」
「四季というのが分からないのです」
「だろうな。サユナ。帝国に留学してみないか?」
「帝国にも行ってみたいのですが、私は地球に行きたいのです。できれば日本に」
「日本に行きたいのか。私と同じだな」
「ララ様もですか?」
「ああ、あの国は自由で色々な娯楽がある。帝国の化石のような娯楽とはわけが違うんだ」
「噂でしか聞いたことが無いんです。眩しい太陽に青い空。色とりどりの花や小鳥たち……」
「私と大分次元が違うな……」
(純粋な気持ちはお二人とも同じですよ。どうやら例の者が来たようですね)
クレド様がララに精神会話で話しかけてくる。
薄暮に紛れて目の前に現れた女が一人。やや横幅の広い体形で頭から黒いローブを羽織っている。
「あなた方がコウ少尉を救助される事は分かっていました。私の予知にはっきりと出てましたから。この場所もです」
「先回りしていたのか?」
「勿論です」
ララは、この魔導士は地雷どころではない危険人物だと判断していた。そして、その怪しい容姿に「結構可愛いらしい」と言った黒猫の神経が信じられなかった。
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