第7話 神殿の奥にいたもの
着陸してしばらくすると着飾った民族衣装の人々が集まって来た。正面に整列して合掌拝礼する。彼らはこの宇宙船がまるで神であるかのように頭を垂れていた。
見た目は帝国の人間と変わらない。帝国でよく見かける獣人はいなかった。
「さて皆さん。降りましょう」
鮫肌船長が促し宇宙船から降りる。鮫肌と鳥頭と黒猫、そして少女二人と黄金の女鹿。
「空から来たお方。ようこそアルゾンデへ」
恭しく礼をする。この集落の村長といった風の老人であった。
「宇宙船の修理をしたい。三日程度滞在したいのだが大丈夫かな?」
「ええ、問題はありません。ただし、部品やエネルギー系の供給は無理でございます」
「承知している。水と食料を分けてくれればいい。対価は帝国金貨で支払うが良いか?」
「結構でございます。ところで宿をお求めでございますか」
「ああ、二部屋用意して欲しい。黒猫とこちらの姫お二人と女神クレド様だ」
「はい、承りました。後程ご案内いたしましょう。ご用意できるまでこの周辺のご案内をいたしましょうか?」
「ああ、お願いしたい。それと時計だ。これを貸すので時間通りに頼む」
そこへ一人の少女がやって来た。
「サユナと申します。今から神殿とその周辺のご案内をさせていただきます」
「よろしく頼む。私は村長と打ち合わせをするから皆は見学に行ってきたらいい。ミサキ様、よろしいですね」
「ええ構いませんよ。サユナさんよろしくお願いしますね」
「はい。こちらへどうぞ」
昼間であってもうす暗い空。太陽は輝いているものの、赤く弱い光しかここには届かない。
その薄暮の中を一行は歩いていく。集落の山側にひときわ大きい石造りの建物がある。そこがこのアルゾンデの神殿だという。
「ここは、マリナス神殿です。女神マリナスを崇め奉る神殿でございます。異国の方にお願いがございます。信じる神が違えどもこの神殿は私たちの聖なる場所、信仰のよりどころでございます。どうか、我らが女神マリナス様にご無礼の無きようお振舞ください」
「心配ない。我ら帝国も信仰の篤い国だ。神に対する敬虔の心を忘れる事は無い。それは異教の神であっても同じだ」
「ありがとうございます。もう一つお願いがあります。ここはあなた方にとって大変暗い国でございます。神殿の中も暗く中も見えにくいかと思います。懐中電灯をお持ちでしたら、そのご使用を控えていただきたいのです。中にいる神官や巫女たちはその明かりに大変弱く、目を潰してしまうのです」
「分かっている。そんなものは持っていない。安心しろ」
「ありがとうございます」
尊大な受け答えをするララに対して深く頭を下げるサユナであった。
その神殿は直線基調で作られ、壁や柱の装飾に乏しい。帝国の豪勢な神殿を見慣れている一行にはそれがむしろ新鮮に映る。一行が通過するたびに足を止め拝礼する巫女。そして遠くから拝礼する神官。その態度から、彼らが歓迎されていることがよくわかる。
中央のホールを抜け、礼拝室に案内された。
そこには美しく微笑む女神の立像が安置されていた。
「あれがマリナス様ですか?」
「ええ」
「礼拝の作法を教えてもらえますか?」
「帝国とほぼ同じです。合掌し、そのまま深く拝礼します」
皆でマリナス像の前に立ち合掌し拝礼する。
傍ら神官が拝礼をし歩み寄って来た。
「アルマ帝国の方々ですね。お待ちしておりました。私はこのマリナス様に仕える神官、テオラと申します」
「お父さん。どうしたの?」
「サユナ。私はこの方たちに大事な話がある。お前は外で控えていなさい」
「はい。分かりました」
「娘が失礼いたしました。ではこちらへどうぞ」
女神像の横に扉があり、その奥へと案内された。
暗い通路を数十メートル進んだところに大きな空間が開けていた。
山肌の岩盤をくりぬいて作られた空間のようだった。照明が備えて有り、かろうじて見渡せる程度の明るさであった。
「ここに、アルマ帝国の皇族の方がみえられることは数年前から予言されておりました」
「そうなのですか?」
「ええ。この村で一番の巫女が予言したのです。その者はすでに亡くなっております」
「それで、私達に何か頼み事でもあるのかしら」
「そうです。ここには2000年前から安置されているご神体があるのです。我らの信仰の源、空からの使者であるカーン・アルマ神の代理である鋼鉄人形です」
そこには古い鋼鉄人形が擱座していた。表面にはコケが生え、所々腐食しているものの、それは紛れもなく帝国の鋼鉄人形であった。右肩に天使と龍をあしらった帝国の紋章が確認できた。
何故ここに鋼鉄人形があるのか?
それは皆がもつ共通の疑問であった。
※鋼鉄人形とは、アルマ帝国内で使用されている拠点防衛用の大型ロボット。
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