第5話 アイボールアースへ向かって

 小型戦闘艇を船体に固定する作業を済ませた鮫肌船長が帰って来た。

 しかし、船内の異様な雰囲気に首をかしげる。

「どうしたんだ?」

「いえね。黒猫が漂流した理由ってのが傑作でして」

「人間の女には注意しろと言う話だ」

 ララの一言にも怪訝な表情をする鮫肌船長だった。

「と言われましても、我々魚人は人間の女には見向きもされませんけれども」

「俺もです。ニワトリ系は人間の女にちやほやされた記憶はないです。獣人でも黒猫や狐は人気なのに……」

「魚と鶏は見向きもされないのか。この船はモテない野郎二人組なんだな」

「返す言葉もございませんが……ララ皇女殿下。その話はお終いにしましょう」

「分かった!」

 ララの元気のよい返事に鮫肌船長が頷く。鳥頭は面白くないのだろうか、そっぽを向いている。

「ではジャンプします。鳥頭カウントを」

「了解。跳躍30秒前……29……28……」

「目玉の周回軌道に入り、その後着陸します。宇宙軍の動きを探りつつ対応します」

「ええいいわ。そうして頂戴」

「25……24……23……」

「ところで姉様、その黒猫を嵌めた魔導士とクレド様追跡に関わっている魔導士は同一人物なんでしょうか?」

「さあ。黒猫さんのこの不幸っぷりを見ると、同じ人物かもしれませんね。不幸っぷりがもうね。強烈過ぎてね。信じられないわ」

「なるほど。超絶物凄い魔導士ってことだな。黒猫、良かったな。帝国ではめったに出会えない高等魔導士だったみたいだぞ」

「良く無いです。自分脱走兵になってたらどうしよう」

「不幸の腕輪で脱走兵か? そりゃ傑作だな!!」

 大笑いするララだった。

「5……4……3……2……1……ジャンプします」


 眩い高次元空間をくぐり三次元に回帰する。


 正面に赤い恒星プロキシマ・ケンタウリを捉えている。距離は距離は0.05 AU(1AUは概ね地球と太陽の距離)であるにもかかわらず明るくない。赤色矮星と呼ばれる天体だ。この距離で直視しても全く眩しさを感じない。左前に目玉と呼ばれる惑星が見えている。すでに楕円軌道に乗っており、着陸点を捜索しているところだった。

 輸送船ストライクは今、惑星の夜の部分から昼間の部分へと移動しつつある。この目玉、プロキシマ・ケンタウリbは主星と非常に近い距離にある為、潮汐力によって常に同じ面を主星に向けている。昼間の部分は常に昼、夜の部分は永遠に夜なのだ。その為、夜は氷海、昼は赤黒い液体の海となっている。その姿は正に目玉、アイボールアースと呼ばれる所以である。


「着陸できそうな場所はあるのか」

 ララの質問に鮫肌船長が頷く。

「ここには知的生命体が生息していて限定的な交流があります」

「ほー、知的生命体ね。海が多そうなので魚人かな?」

「いえ、人間タイプですよ。アルマの人と同タイプの遺伝子だとされています」

「そうなのか」

「ええ。文明の程度は産業革命以前の状態。中世に近いと思います。機械化はされていませんが、魔法や呪術の文化は発展しているようですね」

「帝国と近い感じだな」

「そうですね」


 昼間の部分には広大な海が広がり、その中に陸地と島々が点在している。限定的な交流があるとされている国へと降下するのだという。


「この星には大きい大陸が一つ、後は無数の島によって構成されています。その島で大きい方から三番目の島へと行く予定です。そこでは星間連合と限定的な交流があります」

「なるほど」

「もう一周してから降下します。座標の確認は済んだか?」

「確認済みです。ところで船長、背中に積んでいる戦闘艇はどうするんですか?このまま積んどくんですか?」

「捨てていくわけにもいかんだろ。補給して、なるべく黒猫が帰還できるようにしてやるつもりだ」

「無事帰れれば脱走兵にならなくて済むかもな。良かったな黒猫さん」

「そうですね」


 浮かない表情の黒猫だった。


 そして輸送船ストライクは三番目に大きな島へと降下していった。

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