第4話 黒猫と魔導士

 鮫肌船長はその小型戦闘艇に乗り込み、コウ・エクリプス少尉を救出して戻って来た。二人がコクピットに入る。

「いやあ助かったよ。ありがとな」

「久しぶりだな。黒猫」

 ララの一言で凍り付く黒猫。

「……まさか? ララ皇女殿下であれせられますか?」

「こんな美少女は他にはおらんぞ」

「いえ、失礼しました皇女殿下?? あ、ミサキ皇女殿下までいらっしゃるとは……」

「何だお前、皇女様方とお知り合いなのか?」

「あ、俺はかつて帝都防衛騎士団に所属してたのです。二軍でしたけど。その時からご挨拶させていただいてます」

 船長の質問に小さくなって応える黒猫だった。

「私と試合もしたな。皇帝陛下の前で」

「ララ様、そのようなお話は」

 消え入るように縮こまる黒猫。それを揶揄するように鳥頭が突っ込む。

「どうしたんだ黒猫。御前試合に出場出来るだけで普通じゃない。ララ様との対戦などこの上ない名誉ではないか。何故恥ずかしがっているんだ?」

「いや、開始12秒でKOされたんだ。師匠は1分戦ったのに」

「うむ。まあお前は優秀な方だぞ。10人と戦って3秒未満だったのが7人だ。10秒以上立っていたのがお前を含めて三人だけだったからな。自慢しろ」

「姫様、勘弁してください。恥の上塗りですよ」

「なるほど。鳥頭、進路このままで。俺は小型艇を固定してくる。終わったらジャンプだ」

「了解」

「ところで黒猫。お前その腕輪は何だ? 禍々しいオーラを放っているぞ」

「え? そうなんですか?」

 ララの一言にビクッとする黒猫。ミサキが笑いながら黒猫の手を取る。

「ちょっと見せて……これは……呪われてるわね、不幸の腕輪よ」

「不幸の腕輪? 呪いですか??」

「その呪い解いてあげるわ」

 ミサキはその腕輪を撫でながら目を瞑る。すると、その腕輪はパキンと折れ黒猫の腕から外れた。

「ミサキ皇女殿下。助かりました。これどうやっても外れなかったんですよ。ヤスリ使っても金属カッター使っても切れないし、もう困ってました」

「金貨十枚(金貨一枚は約十万円)ね♡」

「え?」

「嘘よ。お金は要らないわ。ところでこの腕輪どこで?」

「これはですね。帝都のカフェで貰ったんですよ。席が空いてなくて仕方なく同席させていただいた女性に」

「ふーん。そいつが魔導士ね。不細工だった?」

「そういうのは失礼じゃないですかね。確かに太めで地味で暗い感じはしましたし、モテないオーラ全開って感じでしたけれども。自分の見た目はどうって聞くから結構可愛いらしいと答えました。その時貰ったのがこの腕輪だったんです」

「地雷。踏んだわね」

「踏んだな」

 頷きあうミサキとララ。

「地雷……ですか?」

「ええ地雷。多分それ、その不細工ちゃんにとっての幸福の腕輪。つまり、あなたが不細工ちゃんに素っ気なくしたら、それはあなたにとって壮絶な不幸を呼び込むの」

「あ、その何日か後にまた食事する機会があって、その時にデートしないかって誘われたんですよ。でも俺はやんわり断ったんです。宇宙軍で忙しいからって」

「なるほど。で、不幸事は起こったの?」

 その一言に頷く黒猫。

「ええそうです。こんな所で漂流する羽目になりましたから。原因はワープカタパルトのあり得ない誤作動なんですけど……」

「それを引き起こしたのがその腕輪。外れて良かったわね」

「そうですね……」


 がっくりと肩を落とす黒猫だった。

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