第2話 寄り道の理由

 三次元空間へ回帰した。


 正面に見える赤い小さな星がプロキシマ・ケンタウリだ。まだ距離は50au程あり、現在の速度では数日かかる。

 元々、地球とは反対方向へと出発した。大きく迂回しながら太陽系方面へ向かう算段だったが、何故か連合宇宙軍に追跡されてしまった。本来ならばあり得ない状況だった。

 欺瞞行動のため地球ではなく別の惑星へ向かう事への承諾を取る必要があった。

「鳥頭、しばらくこのまま巡航だ。何かあったらすぐに知らせろ」

「船長は何処へ?」

「状況の説明だ。彼女たちの所へ行ってくるよ」

「了解です」

 いつも明るいこの男は鳥頭とりあたまと呼ばれている。体形は人間そのもの、手足には鳥のような硬い皮と長い爪を持ち、全身に白い羽毛が生えている。そしてその顔にはくちばしがあり赤いトサカが目立つニワトリ人間なのだ。名前はジェイド・ボーダー、腕の良いパイロットだ。

 ちなみに船長は鮫肌さめはだと呼ばれる魚人である。青白いささくれた肌を持ち、それは鎧の様に硬化している。古代の甲冑魚ような外観と言われるのだが、これでも人間の範疇にいる。体形は人間と同じであり手と足と指もある。指の間に水かきはついているのだが大きい事ではない。分類上は魚人となっている。

 鮫肌の名はカーマイン・ルゾデナル。今、荷物である彼女たちのいる客室へ向かっている。


 鮫肌がドアをノックして客室へ入る。そこにいるのは黒髪の美女、金髪の女児、そして黄金の女鹿。それは皇室の姫君と帝国の女神。彼女たちを地球へ送り届けて欲しいと依頼されたのだ。依頼主は元上官のエリザだった。彼女は現在もアルマ帝国軍に所属し、特殊艦ケイオンの艦長を務めている。

 彼女たちはそのケイオンで帝国から脱出した。このケイオンは皇帝直属で隠密性の高い特殊艦だったのだが、それでも中央から情報が洩れる事が危惧された。民間船に移動する事で敵の眼を欺いたハズだったのだが、しっかりと追跡されていた。

 鮫肌はこの事実を説明している。

「……こういう状況です。理由は分かりませんが、連合宇宙軍の巡洋艦に追跡されております。また、直接射撃を受けました。この船を皆さんと共に消し去るつもりのようです」

「事情は理解しています。恐らく、魔導士を使ってクレド様の位置情報を取得しているのだと思います」

 そう返事をするのは黒髪の美女ミサキ・アルマ・ホルスト。アルマ帝国の第三皇女様だ。

「心配ならその巡洋艦に接舷しろ。私が乗り込んで皆殺しにしてやる」

 そう言って右手の拳を握るのがアルマ帝国の第四皇女ララ・アルマ・バーンスタインだ。親衛隊の隊長で白兵戦では無双の強さだとか……。この小学生のような女児がそんなに強いのかは疑問だが、事実その実力があると判断されたからこそ隊長に就任していると聞いた。霊力使いの多い帝国内ではそう珍しい事でもないという。

「ララさん。そんな物騒な事は言わないように。カーマイン船長が誤解されますよ」

「はい姉様。気を付けます」

「ところでカーマイン船長。アイボールアースへ向かう欺瞞行動なのですが、何か策がありますか?」

「はい。一旦惑星上に降り立ち連合宇宙軍の巡洋艦を引きつけます。そこで破壊工作を実施し、相手が出航できない状態にします。その上で地球へ向け出発するという段取りです。この船はアルマ帝国軍の特殊艦ケイオンと同等の次元潜航能力があります。反応炉に魚雷を撃ち込めば行動不能にできます」

「そうですか。しかし、魔導士の存在はどうされますか。それが恐らく最大の障害かと思います」


(確かにその通りだ)


 鮫肌の不安もそこにある。

 正体不明でその能力も定かではない。手掛かりが無い状態でこのストライクを追跡せしめたその力は侮れないのだ。しかし、鮫肌にはその対処法が無い。

 

「その魔導士。引きつけていただければ私とララで何とかしましょう。よろしいですわ。そのアイボールアースへ向かいましょう」


 怪しく微笑むミサキ皇女だった。

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