6-7警察署①
大急ぎで残りを食べ終え会計を済ませて店を出た俺たちは、その足で目白警察署へ向かった。
目白警察署は寿司屋と同じ目白通りに面している。と言っても道を挟んで逆側だから横断歩道を渡る必要がある。俺たちはとりあえず西門前まで戻ってきて、そこの横断歩道を使って対岸へ渡ろうとしている。このあたりは横断歩道の数が多いせいか、時差式信号になっている。直観的じゃない信号は逆に信号無視をする歩行者が増えて事故りやすい気がするんだけどなぁ、なんて考えてるそばから一人のおっさんが赤信号を無視して横断歩道を渡り始めた。いや、厳密には横断歩道上じゃないんだが、信号無視するときは横断歩道を渡ってないことにして罪悪感を薄めようとする愚か者は少なからずいて、あのおっさんはまさしくそれだ。ああいう風に、ちょっと信号を待つだけの時間と心のゆとりもなく、それをごまかそうとするような恥ずかしい大人にはなりたくねぇな……。
ようやく信号が青に変わり、俺たちは再び歩き始めた。
横断歩道を渡った先の目の前には、幼小中高大院とフルコースそろった女子校・河村学園の校舎ビルがある。たまにゾロゾロとセーラー服の女の子たちが目白駅へ向かっているのを見る。子供らしく
「ほぇ〜、このマンションおっしゃれだね〜」
そう言って水野さんが指を差したのは、河村学園の隣に建つおしゃれな高級マンション……にしか見えない豊島区立目白小学校だ。
ちなみに俺は最初にこの学校を見たときに水野さんと全く同じ感想を持った。
「水野、これはマンションじゃないぞ」
「豊島区立目白小学校よ」
不知火と香子の訂正が入った。
「そうなの⁉︎」」
水野さんは目を丸くして驚いている。ちょっと進むと校門が見えてきて、
「ホントだ! 豊島区立目白小学校だって! 東京ってすっごいね〜」
ははっ、まあ、ここが特殊なだけだと思うけどな。
さらに進むと、件の目白小学校の校庭がある。その先の横断歩道を渡ると、やっと目的の目白警察署がある。
「小学校の隣が警察署だと児童たちも安心よね」
香子はそう言うが、実際はどうだろう。警察官の犯罪って意外と多いし、何より息苦しそうだけどな。それこそ文常と運常の部室がある部室棟三階に
俺たちは警察署に足を踏み入れた。こんなところ初めて来たからどうするのかわからなかったが、通い慣れた場所であるかのように香子が先陣を切って受付の婦警さんに話しかけた。
「学桜館での窃盗事件についてお話があります。捜査三課の
「はい。少々お待ちください」
婦警さんはすぐにどこかへ呼び出しの電話をかけた。
「…………あ、雨海巡査部長ですか。ちょうどよかったです。受付に風岡さんがいらっしゃってます。また窃盗事件についてお話があるそうです。…………はい、お待ちしております」
受話器を置き、こちらへ向き直った婦警さんはにっこりと笑って、
「すぐ来るそうです。このままお待ちください」
どうやら二人のやりとりを聞く限り、香子はここへ相当な回数通っているようだ。まさか顔と名前まで覚えられているとは。
数分後、言われた通り受付で待っていると、スーツ姿の三十代くらいのガタイのいい男性が現れた。
「あぁ、どうもお待たせしました、風岡さん。今日はどうしました?」
刑事らしくない
「犯人を見つけたわ」
香子は挨拶もなしにそう言った。
「は、はい?」
困惑する雨海さん。無理もない。俺は見かねてフォローに入る。
「俺たち、窃盗事件の犯人を見つけたんです。証拠となる物も持ってきているのですが――」
ここまで言ったら、雨海さんの目つきが変わった。俺は思わずギクッとしてしまう。それに気づいたのか、雨海さんはすぐにまた柔和な表情を作り直した。
「それじゃあちょっと、別室で詳しく話を聞かせてもらえますかね?」
「えぇ、もちろん。そのために来たのだから」
香子が全く物怖じせずに答えた。こいつの神経の太さは東京スカイツリーの柱より太いんじゃなかろうか。不知火もそんな香子の様子に苦笑いしている。
ちなみに水野さんは署内に入った頃から顔が
「ふむ。では、私についてきてください」
雨海さんが先頭に立って歩き出すのを見て、香子、俺、不知火、水野さんの順に、俺たちはゾロゾロと一列で追った。
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