6-5勝利の宴①
学食を出て西門へ向かった俺たちは、体育館のあたりで後悔を始めた。
取り返した盗品が思ったより邪魔だということに気づいたのだ。
自分たちの荷物ではないし、なんなら証拠品となる物だから無下に扱うわけにもいかず。かといって昼飯時の混み合った店内でこんな荷物を置いておくスペースを取れるのだろうか。
「なあ、この荷物置くスペースがあるような店、誰か知ってるか?」
俺の問いかけに、香子は肩をすくめてわからないとアピールをし、水野さんは腕を組んで顎に手を当て考えこんでいる。たぶん、そもそもこの辺の飲食店を知らないのだろう。俺も知らない。基本的に俺は自炊をしているからな。……お茶漬けばっかりだけど。
「ふむ。寿司屋はどうだ?」
不知火の提案に三人でポカンとした顔をしてしまう。
「寿司屋?」と俺。
「た、高くない……?」と水野さん。
「学生がゾロゾロ行って大丈夫なの?」と香子。
目白は高級住宅街としても知られているからな。そんなところにある寿司屋って、学生が行けるような店なんだろうか。回転寿司ではないだろうが、だとすると場違いなんじゃないか。不安は尽きない。
「いや、大丈夫だ。心配するな。少なくとも昼のランチタイムは学生やサラリーマンも利用しやすい価格帯だ。数量限定でワンコイン丼なんかも出してるしな。カウンター席の他にもテーブル席や座敷もあって、座敷なら荷物を置くスペースもある」
へぇ、そんな寿司屋が。知らなかったぞ。
香子と水野さんも同じような反応を示している。
「お前ら、一年も学桜館に通ってて知らなかったのか……?」
不知火が驚いたような呆れたような、そんな表情で言った。
「あぁ、全く」と俺。
「あたしは学食のお弁当買っちゃうからな〜」と水野さん。
「私はお弁当派なのよ」と香子。
微妙な表情を浮かべたままの不知火は頷きだけ返しながら続けて尋ねた。
「じゃあ、そこで、いいか……?」
誰からも異論はなかった。
俺たちは不知火の先導で歩き出した。
西門から出て横断歩道を渡ったところで、不知火の後ろで横並びになっていた俺たち三人の列から水野さんが前へ出て、不知火と並んだ。
「ねぇねぇ、不知火くん。お寿司屋さんってどこにあるの?」
「目白駅前の緑の銀行の向かい側だ。交番のところをちょっと進むと中華料理屋があって、その隣に地下に続く階段があるんだが、それを降りたところにある」
「へぇ〜、意外と近くにあるんだね〜」
二人の会話を聞きながら、こっちの方はあまり来ないから俺にはよくわからないな、なんて思っていると、隣を歩く香子が急に顔を寄せてきた。
「あの二人、仲良いわね」
香子は耳打ちをするようにそっと呟いた。
それは俺も何度も思った。数日前に会ったばかりだと思うんだがな。
「相性がいいんじゃねえか?」
「そうね。まあ歩美自体の社交性の高さもあるんだろうけど、良いコンビだわ」
確かに、落ち着いた不知火と活発な水野さんの二人は
それはそうと、
「香子。お前、なんか、匂い変わった?」
さっき顔を寄せてきた時にふわっといつもとは違ういい匂いがしたのだ。普段はいわゆる女の子の匂いをさせているが、今日は何かが違う。というか今急に感じた。さっきまで被っていた帽子を取って髪を自由にしたようだからそれが原因だろうか。
「え、えぇ。変かしら?」
香子は後ろ髪を一束持ってきて自分で匂いを嗅いでいる。やはり髪か。
「いや、結構好きな匂いだ。いいなこれ」
「そ、そう? あ、ありがとう……」
香子は頬を緩めて目を伏せた。その美しさに思わずドキッとさせられて、そんなことになぜか俺は動揺してしまった。中学生か、俺は……。
「髪につける香水なんですって。ハチミツがベースの香りなんだけど、それにりんごを足しているらしいわ」
「へ、へぇ。りんごとハチミツか。なんか、カレーの隠し味みたいだな」
動揺を隠そうとして変なことを言ってしまったと後悔したが遅かった。
香子は一瞬だけポカンとした顔をして、すぐにムッとした表情になり、「もういい!」と言ってそっぽを向いてしまった。
「わ、悪かったよ……」
俺の謝罪は当然聞き入れられず、寿司屋の前に到着しても香子はまだムッとしたままだった。
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