5-2底値ドットコム

「まあ、それでですね。とりあえずCOWOLFカウルフに盗品が出品されてないかどうかを調べるところから始めようかなと思ってまして。まずそれに人手が必要だったんですよ」

 ちょっと不満げな不知火は放っておいて、俺は天城さんと水野さんと不知火の三人を巻き込んだことの理由を示した。

「でも、それをするには盗まれた物の正式名称っていうかさ、何て検索すればいいかがわからないとじゃない?」

 水野さん、今日は本当にいい働きをしてくれる。

「そうだね。だから、それは香子に確かめてもらう」

「えっ、私?」

 急に話を振られた香子は目を丸くした。

「そう、お前だ。お前だけだろ? 各被害団体の被害状況がわかる立場にある人たちと繋がってるの。だから大まかとはいえ、盗品リストを手に入れられたんじゃないか」

「そ、そうね。じゃあすぐに取り掛かるわ」

 香子はスマホを取り出し、被害団体に連絡を取り始めた。

「あ、できれば、何て検索すればいいか、だけじゃなくて、色とか形もわかるような画像とか、傷やもうの大体の状態とかも送ってもらってくれ。むしろそっちの方が大事だ。判別するのに必要だからな」

「わかったわ。任せてちょうだい」

 というわけで、詳細調査は頼もしい返事をしてくれた香子に任せることにして、俺たちは出品されてるかどうかの確認をするための準備に取り掛かろう。

「じゃあ我々は、待ってる間にCOWOLFカウルフをダウンロードして、アカウントを作りましょうか」

「は〜い!」

 水野さんはいい返事とともに手を挙げた。なんとも楽しそうな人だ。



 二十分後。詳細情報を送ってくれるように連絡していた香子もすぐに合流し、全員がCOWOLFカウルフアカウントを作り終えた。

「いやぁ、何度やっても思うんだけど、新しいアプリの初期情報の入力っていうのはめんどくさいよね」

 天城さんもそんなこと思うんだな。なんかちょっと嬉しい。

「ほんっとに肩こっちゃいそうですよね〜」と水野さん。

「代金の支払いのために口座情報とかクレジットカード情報とかが必要とされるのはしょうがないとは思うんだけどね」と香子。

「あぁ、理解はできるんだが、一つ入力するたびにページを進めなきゃならなくする意味がわからん。もうちょっとなんとかしてほしかったな」と不知火。

 ははっ、みんな不平を鳴らしてるな。まあ、かくいう俺も同じ気持ちだがな。

 さて、盗品の詳細な情報が届くまではさすがにまだまだ時間がかかるだろうし、この先のことを話しておくことにするか。

「これからやることについて、できる限り簡潔に、通して説明しますね。質問は後でお願いします。まず、盗品が出品されてないかを調べます。一つでも見つけたら、奴らの利用しているアカウントだと特定できるので、そのアカウントの他の出品から、さらに盗品を探します。そのうち、三つを落札して、手渡しでの受け取りにします。日時は同日・同時間帯を指定しましょう。そして、奴らに面が割れていない人物三人が受け取りに行き、その時の会話をグループ通話モードで飛ばして、本部で録音します。面が割れているメンバーは遠目から写真なり動画なりで取引の瞬間を記録します。その後は帰って中身をあらためて、本当に盗品で間違いないということを確認したら、全ての証拠を持って警察に行きます。その先は警察の仕事です。こんな感じですがどうでしょう?」

 今年の前期と後期に見城以外の大学関係者と話した量の倍くらいは一気に喋った気がするな。これだけ喋ると結構疲れる。

「はいはいは〜い!」

 水野さんが元気よく挙手した。みんなの視線が彼女に集まる。

「似たような商品がいくつもあった時って、どうやって見分ければいいの? たぶんだけど、あの人たちの載せる傷とかり具合とかの状態は、被害者の証言とは微妙に違うだろうし、そもそも載せてないかもしれないよね。そんな時、どうすればいいのかなって気になったよ?」

 さすが、いい質問だ。

「その場合は出品日や値段で見分けましょう。盗まれた日以降に出品されているはずですから。それに、犯人はできれば早く売ってしまいたいと思っているでしょうから、値段は底値かそれに近い値になっているはずです。それでもリサイクルショップで買い叩かれるよりは高いでしょうしね。とすると、底値ドットコムってサイトも併用すると見つけやすいかもしれません」

 ここでも役立つ底値ドットコム。素晴らしい。

「なるほど。しかし、もう全部売り切れてて、削除されていたら?」

 天城さんは腕を組み、俺に尋ねたが、答えたのは不知火だった。

「それはもう、どうしようもないんじゃないでしょうか。しかし、これだけ連続で犯行を重ねていれば、まだ捌ききれてない可能性は充分にあります。特に、ダイビング用品は完全にシーズン違いですから、残ってる可能性は高いと思います」

「ふむ。確かにそうか」

 どうやら納得してくれたようだ。

 続いて口を開いたのは不知火だった。

「それより俺が気になるのは、どうやって会話を飛ばすのか、だ。グループ通話モードにするのはいいんだが、スマホのマイク部分をあいつらに近づけるって無理があるんじゃないか? スピーカーモードにすればポケットに入れていても多少は拾えるかもしれないが、逆に他の場所の会話が聞こえてきてしまってまずいよな?」

 よくぞ聞いてくれたな、不知火。俺は嬉しくなって満面の笑みを浮かべた。

「桂介、その笑顔、気持ち悪いわよ。早く説明して?」

 うるせぇ、ほっとけ!

 失礼千万な香子には抗議の視線を送っておき、俺は不知火の疑問に答えることにした。

「一応それにはマイク付きイヤホンを使おうと思ってるんだ」

「ほう。よく街中で中国人が無駄に大声で電話するのに使っている、あれだな」

 そう。そして俺も昨日ついに手に入れてしまった物だ。まさか何の気なしに選んだ物が、昨日の今日で犯人逮捕作戦に使えるとは、自分が恐ろしくなる。

「で、手順としては、音楽でも聞いて待ち合わせているふりをして、犯人と接触できたらイヤホンを外す。そしてイヤホンのマイク部分を会話が拾えるあたりまで持ってくる。手にイヤホンのコードを軽く巻くようにして持っておけば、自然に見えるんじゃないかと思うんだ。

「うむ。確かにそれならいけそうだな」

 不知火も納得の様子で、うんうんと頷いている。

「土橋君、よく思いついたね。すごいよ」

 天城さんにそう言われるとなんかくすぐったいな。しかし、俺は表情をあまり緩めないようにした。香子に何を言われるかわからないからな。

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