4-3部室棟視察②

 階段を上がり三階へとやってきた俺の目が最初に捉えたのは、天城さんが委員長を務める文化部常任委員会の部室だった。

 通路を挟んで左側に二部屋、右側に一部屋の計三部屋に、文化部常任委員会の表札が出ている。昨日の天城さんの話からなんとなくわかってはいたが、かなり大きい団体のようだ。

 またその奥の、通路を挟んで左側に一部屋、右側に二部屋の計三部屋には、運動部常任委員会の表札が出ている。なるほど、文化部と運動部の元締めがここを占拠しているのか。でもこの配置、変だよな。左側三部屋と右側三部屋で分かれればよかったのに。なんで鉤括弧状に分かれたんだろうか。

 まあそれはおいておくとして、この階に部室がある団体は息苦しそうだな。修学旅行で行った旅館の部屋が教師の部屋と同じ階にあるようなもんだ。かわいそうに。

 勝手に同情を寄せつつ通路を進み、部室の表札を見ていったが、この階には盗難被害団体は無いようだった。

 そりゃそうか。二つの元締め団体がある階だもんな。

 というわけで三階の視察を終え、俺はまた階段を上がった。



 四階には盗難の被害にあったゴルフ部、音楽部、ダイビング部があった。あ、音楽部は盗難じゃなくて部室が荒らされてただけか。

 なんで音楽部だけ何も盗られなかったんだろうか。

 ゴルフ部はゴルフクラブやボールなんかが換金できそうだし、ダイビング部も様々な装備が換金できそうだからそういうのが盗まれるのはまあわかる。しかし、なんで高く換金できそうな楽器のある音楽部は無事だったんだろうか。まあ、荒らされているから無事ではないんだが、普通楽器を盗るよな。

 楽器が高く売れると知らなかったのか……? いや、そんなわけないよな。しかもそれなら盗みに入る意味もわからない。

 謎は深まるばかりだが、盗品リストを見てから考えることにして、俺はまた階段を上った。



 さて、ようやっと五階だ。一応階段は屋上階まで続いているようだが、階段の途中のところで重厚な錠前じょうまえがかけられた鉄格子がふさいでいて、許可無く立ち入ることができないようになっているから、ここが最後の階だ。

 五階に上がってすぐの一番端っこの部屋は、部の表札が出ていなかった。空き部屋なのだろうか。他の階では見ない例だったから少し気にはなったが、その隣の部屋が自転車競技部の部室だったことで俺の興味はそちらに移った。

 二回も盗みに入られたんだよな、ここ。特に他の部室と変わったところは無いようだけど、なんでここだけ二回も被害にあったんだろうか。隣が空き部屋であることが何か関係しているのだろうか。

 考えても答えは出るはずもないのでとりあえず先へ進むと、残りの盗難被害団体の男子ラクロス部、囲碁部、フットサル部、社交ダンス研究会、児童文学研究会の部室も発見した。

 なんか、やけに五階に被害団体が集中してるな。気のせいなのだろうか。

 まあ一応、これにて部室棟はとうしたことになるので、一旦学食へ行ってかなり早めの昼食をとりつつノートにまとめてみることにした。



 学食で一番安いメニュー、ラーメンを注文して、俺はテキトーに席を取った。そしてノートを広げて図を描いてみた。と言っても、一ページを目一杯使ってフリーハンドで雑に長方形を描き、五分割して一階から五階まで割り振って被害団体名を書き込んだだけ、なんだけどな。

 しかし、図にするとやはり、露骨に被害団体が五階に集中しているのがよくわかる。

 マンションなどの集合住宅の場合、盗難の被害に遭いやすいのは最上階だと聞いたことがある。それは屋上からベランダに降りて窓から侵入する、という手口を取りやすいからだそうだ。

 しかし、さっきも言ったように、部室棟は屋上へ続く階段が塞がれているから、屋上に侵入するというのがまず難しい。それに、警察は犯人が普通にドアから入っている可能性が高いと見ていることからも、最上階である五階に被害が集中しているのが、その階に侵入しやすいからという理由ではないんだろうと推理できる。

 じゃあなんでエレベーターもないこの部室棟で、わざわざ五階まで上がって盗みに入ったんだ。二階のメインエントランスから入ったとしても、五階まで上がるのは結構体力を使うはずだ。それに盗品を持って部室棟内を移動する時間が増えるのは、犯人にとってリスクなんじゃないだろうか。

 この辺が事件を解く鍵になりそうだな。

 ピコン。

 スマホが鳴った。

 どうせ香子だろうと思ってスマホを見ると、やはり香子だった。メッセージを読むと、

『桂介、気が急いてもう学校に来てしまったわ。あとどれくらいで来れる?』

 いや、まだ十一時にもなってないんだが……。

 でもまあ、俺ももう学校にいるしな。それにちょうど、香子が握っているであろう盗品リストの情報が欲しかったところだ。合流したほうがいろいろと都合がいいか。俺は返信した。

『俺ももう学校に来てる。学食でラーメン食ってるところだ。合流しよう』

 既読はすぐついた。

『あなた、いつも一人でそんなもの食べてるの? 一人で?』

『二回も一人でって言うんじゃない。一人暮らしっていうのはそういうもんなんだよ』

『学校に来た時くらい友達……、いや、これを言うのはやめておくわ。とりあえずそっちに行くわね』

 やれやれ。やめておくなら全部削除してから送ってほしいものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る