4-2部室棟視察①
学校に着いた俺は、とりあえず部室棟を見て回ることにした。入学当初は何度か出入りしたが、もうあまり記憶にはなく詳しくはわからないからだ。一昨日、
入学当初から思っていたがこの建物は不思議な構造をしている。
説明が難しいんだが、五階建てなのに、他の建物よりも一階分低い土地に建てられていて、しかもメインエントランスは、二階と名付けられている部分にある。なぜ「と名付けられている」なんて
さて、まずは一階から見ていくか。
これは各階共通だが、二つの階段を一直線に結ぶ一本の通路を挟んで両側に部室が並んでいる。一階は、各部室の表札から察するに運動部の部室が多いようだ。なるほど、臭くて汚いわけだ。グラウンドの人工芝が千切れたものが、そこかしこに散乱している。また、一階は血洗いの池と呼ばれる池のある方へ出る出口もある。そっちは学桜館大学の自然の姿を残したゾーンで、そっちから泥や落ち葉がやってくるようだ。それもここが汚い理由の一つだろう。
特に見るものも無いし、あんまり長居するようなところじゃないな。
俺は視察もそこそこにさっさと階段を上がった。
さて、次は二階だ。
ここはメインエントランスがあるせいで、他の階よりも部室の数は少なくなっているようだ。入り口とは逆側の端から見ていって、メインエントランスに出ようかというところで俺は気づいた。一番端、つまり、メインエントランスと壁一枚挟んで隣の部室が、女子ラクロス部のものであるということに。女子ラクロス部は小川さんが所属していて盗難の被害にあっているのだ。犯人はこんな目立つところでも犯行に及んだってわけか。香子に話を聞いた時も感じたが
そんなことを考えていると、女子ラクロス部の部室のドアが開いてラケットをもったウインドブレーカー姿の女の子達がぞろぞろ出てきた。俺は通路の端にささっと避けて道を譲った。すると、そのうちの一人に声をかけられた。
「あれ、土橋さん……でしたっけ?」
その声には聞き覚えがあった。声の主は小川さんだった。
「あぁ、えぇ。そうです。どうも」
他の部員たちの視線が集まった。
「
「うん。まあ、ちょっとあってね」
一人の部員の問いかけにゴニョゴニョと小川さんが答えた。知り合いといえば知り合いだが、出会った経緯も含めて説明の難しい関係だ。
すると別の部員がニヤッと悪い笑顔を浮かべて尋ねた。
「彼氏?」
「いや、それはない」
小川さんは真顔で若干食い気味に否定した。声の温度もドライアイスくらいまで落としていた。
いや、まあ、全く違うのはそうなんだが、その否定の仕方に俺がちょっとだけ傷ついたのは誰にも内緒だ。
「ははっ、だよね〜。まあ、ウチらは先行ってるわ〜」
だよね〜、って……。
俺が彼氏かどうか尋ねた部員はラケットを担ぎ、空いている方の手をひらひらと振って、他の部員たちとともにグラウンドへ向かった。
「す、すみませんね、うるさくて……」
「いえいえ、全然大丈夫です」
俺は愛想笑いを浮かべて答えた。うるさいのが問題だったわけではないからな。
「あの、土橋さん。本当に犯人探ししてくれているんですよね……?」
「え? あぁ、まあ、そうですね」
なんでそのことを知っているんだろう。一昨日はとんでもない論理を展開した香子に呆れて、俺を見捨てて行ってしまったのに。
「本当にすみません。こんな面倒ごとに巻き込んでしまって」
面倒ごと、ね。確かに面倒ごとだ。しかも本来俺には無関係の。でもな、
「いいんですよ。俺もいやいや付き合ってるわけじゃありませんから」
これが本心だ。香子の言葉に突き動かされ、俺は本気でこの事件を解決してみたいと思っている。
「そうなんですか。あの、私に協力できることは何でもしますから。女ラクの盗品リストはすでに香子に送ってありますので、どうかお役立てください」
あぁ、なるほど。香子が連絡してたのか。
「ありがとうございます。あとで見させてもらいます」
「はい。じゃあ私も練習に行きますので、これで」
小川さんはそう言って駆けて行った。
そうか、土曜日も練習があるのか。大学生でも部活に入ると大変だな。
それはそれとして、小川さんから盗品リストを送ってもらってるってことは、他の団体の人たちにも同じようなお願いをしているだろう。回答率は不明だけど、それなら手間が省けていい。いきなり訪問して盗品リストを見せてみろなんて言ったところで、門前払いを食らうのが関の山だ。仮に話くらいは聞いてくれたとしても、向こうが手元に用意していなかったら、出直さなくちゃならず二度手間だからな。
香子の根回しに感心しつつ、俺は三階へ向かった。
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