2-3土橋桂介の休日②
油そば屋は都合よく電器屋の近くにあったわけで、となると次の目的地は必然的にその電器屋になる。今日のメインイベントはイヤホンを買うことだからな。
その電器屋にはこの一年で散々お世話になった。今うちにある家電は全てそこで手に入れた。「どこよりも安く」とテレビCMでも言っているように、他店価格と全力で戦ってくれる。しかも店舗価格だけではなく、ネットで調べただけの価格にも対応してくれる。俺は底値ドットコムという、この世のあらゆる商品の底値を検索できるサイトでテレビ、冷蔵庫、エアコン、炊飯器、電子レンジなどなど、あらゆる家電の底値を調べて店員と交渉した。その店員は親切丁寧な対応で何度も裏へ行って上司と交渉してくれて、結局調べてきた全ての底値よりも安い値段にしてくれた。さらに全てを一括現金払いにすると言ったらポイントを上乗せしてくれたのだが、そのポイントがまだ四万円相当くらい残っている。大学四年間でこのポイントを使い切ることはおそらくないだろう。
そっか、あのポイントで買えば金使わなくていいんじゃねぇか。
昨日はイヤホンが折れたショックで思いつかなかったがポイントを使ういい機会だ。しかも四年使ったイヤホンが新しくなるのだから悪いことなしだ。
唐突に発生した予定外の出費がこれまた唐突に無くなると、プラスマイナスゼロのはずなのになぜか得した気分になるもので、電器屋に入ろうとする俺の心はスキップしそうなほど浮かれていた。
一応断っておくが、実際にはスキップはしてない。俺はちゃんと人目を気にするタイプの人間だ。
さすが日本総本店池袋と
まあそんなことはおいておくとして、イヤホンの売り場は二階だ。とりあえず俺は中央にあるエスカレーターを使い、二階へ上がった。
二階へ上がったところで、二階全部がイヤホン売り場じゃないのは前述の通りだ。やたらとこの広い売り場を無闇にさまようのは利口じゃないので、俺はエスカレーター
なんだよ、すぐそこじゃねぇか。
考えてみたらイヤホンを買う人は結構多いはずだから、エスカレーターから近くてわかりやすい場所に売り場を作るのは当然だった。
さて、イヤホン売り場にたどり着いた俺は早速イヤホン選びを始めたが、正直種類が多すぎて何がなんやら……。
そういや、今は壊れてしまったあのイヤホンを買った当時もどうやって選ぶか迷ったな。
とりあえずインナーイヤー型は左耳の形に合わなくて使えないから、カナル型にするしかないというのは決まっているんだが、それ以外は全く考えていなかった。音質の違いはわからないことはないが、雑音の多い外で使うことの方が多い俺は音質にこだわるつもりはない。今流行りのハイレゾ音源なんかには対応してくれなくて全然構わない。しかし、あまりにも安いものだとスカスカというか音が遠い気がして、それは嫌なんだよな。
まあ、五千円くらいでテキトーに選ぶか。それか前のと同じのでもいいな。
そんなことを考えながら売り場を見ていると、マイク付きイヤホンに目が留まった。
よく中国人とかが街中でこれ使って通話してるよな。最初見たときは、なんでデケェ声で独り言喋ってんだこいつは、って思ったもんだ。
そう思って以来、マイク付きイヤホンにはあまりいい印象は持っていなかった。しかし、以前普通のイヤホンを使ってスマホで音楽を聞きながら学食で昼食を食べている時に、電話がかかってきたことがあった。通話モードにすると、向こうの声はイヤホンから聞こえるが、イヤホンをさしたままだとスマホのマイクにこちらの声が入らないようになっているらしく、俺はイヤホンを外して通話をした。そして、話が済んで電話を切った瞬間、まあまあの音量で直前まで聞いていた音楽が流れてしまい、周りの人間に聞かれてしまったのだ。別に聞かれて困るようなものじゃないが、周りからすれば迷惑だったろう。俺はその苦い経験から、マイク付きイヤホンに少し興味を持つようになっていた。
「マイク付きにするか」
俺はそう呟きながら、最初に目に留まった五千円弱のわりとシンプルなデザインのマイク付きイヤホンを手に取った。細かい性能の違いはあるんだろうが、前述の通りイヤホンにあまりこだわる気はないので、この程度の価格帯なら性能も大丈夫だろうと信じて会計を済ませた。もちろん全額ポイントで。
「いやぁ、金を使わずにいい買い物をしたな」
俺はホクホク顔で電器屋を後にした。
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