1-6すき焼き、そして別れ
寒さに耐えてなんとか家に帰り着いた俺は、さっそくすき焼きを食べる準備を進めた。具材は先ほど買った芳賀牛のロースの薄切り肉、昨日のサラダの残りである水菜と細切りダイコン、そして俺の常備食品豆腐、以上!
サラダの残りも消費できるしいいことづくめだ。最高だぜ。
牛肉のサシの入り方から見て、もらってきた牛脂は必要ないな。今度カレー作る時にでも入れてコクと旨味の足しにしよう。
それで、だ。ご飯は今朝の残りがあるし、溶き卵はもう用意したから、あとは割下を作れば準備オッケーだな。俺が試した中で一番良かったのは、醤油二〇〇CC、みりん一五〇CC、砂糖一〇〇グラム、水五〇CCを混ぜ合わせたものに、はちみつを大さじ一杯だけ入れたものだ。
「さて、割下も作ったし、あとは焼いて食うだけだな」
と言っても焼くというよりは煮る感じだけどな。
準備は万端だった。カセットコンロはないからキッチンで立ち食いだ。まあ行儀は悪いが俺一人しかいないのだから、誰に気を使う必要もないだろう。俺は一人すき焼きを開始した。
まずは、鍋に割下を注いで煮立たせることでみりんのアルコール分を飛ばすとともに、砂糖とはちみつを完全に割下としてなじませる。そして最初にダイコンを投入。細切りとはいえ硬いし、味が染み込んで欲しい食材第一位(俺調べ)だからな。
しばし待ちダイコンが柔らかくなってきたところで、水菜を投入。そしてお待ちかね、肉の出番だ。
想像しただけで出てくるよだれをゴクリと飲み下し、俺は肉を広げて投入した。
ジュワ〜〜、パチパチッ。
肉が煮焼け、脂の
「はぁ……」
ため息の出るような匂いが立ち込める。肉の色が変わり始めた。若干赤身の残る今が食べごろだ。まずは肉だけで食おう。
俺は肉を取って卵に絡ませ口に運んだ。
「うめぇ!」
和牛じゃなくても充分旨い。とろけるような脂、弾力のある肉質、甘めの割下、そしてそれらを包む卵。全てが旨い。
俺は次から次へと肉を投入し、野菜とともに、あるいはご飯とともに、どんどん食べ進めた。
三〇〇グラムも買った肉をあっという間に食べ尽くした俺は片付けもそこそこに、余韻に浸りながら、リビング兼寝室となっている部屋に行き、ベッドに転がった。
最高だったな。やっぱり牛肉は正義だ。たまには食べなきゃならない。国民の義務に追加すべきだな。
なんてことを考えながら、音楽でも聞こうとイヤホンをつけ、スマホにつないでお気に入りのプレイリストを再生する。
やっぱり二〇〇〇年代のアニソンってのはいいな。
俺はノリノリで心を躍らせ、風呂の湯を汲むためにベッドから転がり出ようとしたその時、ポケットに入れたと思い込んでいたスマホが床に落下した。イヤホンからの音が崩れる。まさか……、と思いスマホを拾い上げると、イヤホンの根元の辺りが折れて内部の電線が剥き出しになっていた。
「うああぁぁぁぁ……」
俺は悲嘆の声をあげる。
ダメだよなぁ、これ……。
無残な姿になってしまったイヤホンを目の当たりにして、俺のテンションは急激に下がった。とはいえ、もう四年も使ったイヤホンだ。最近は接触不良で音が聞こえづらくなることもあった。そろそろ買い換えようかなんて考えてもいた。
予定外の出費だが、明日、香子との用事が終わったら買いに行くか……。
俺は寿命
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