二
職業と云ふのは大変人の生活を造るもので、勿論其は手に於いても例外では無い。
例へば僕なんぞは
兎も角、次に記すのは
国木田の武蔵野を読んだから、似た場所へ行きたいと思つた。此処で僕が武蔵野を散歩せむとしなかつたのは、
然しながら、詳しく思い出せと云はれると、地名さへ思い出せない。
僕は其処で、一面の
僕が彼の、夕方の海を振り撒いた位の金色を漸く再現せしめた頃、背後から呼ぶ声が聞こえた。
振り返つてみると、一人の男が立つてゐた。背は180
男に返事をするより早く、男の声は飛んで来た。
「
なのでどうだろう、俺の絵を描いてくれまいか。」
あまり覚へてはゐないのは先に記した通りであるが、
僕は描きかけの芒野の方を処理してから、直ぐに何時ものに取り掛かつた。
さて、彼の右手はまるで戦場帰りのやうに古傷が刻まれてゐた。
手の
然し、奇体な事に
「大工を、してゐるのでありますか。」
すると男は、
「解るのかい、
此処より先の大工の言は失念して了つたけれども、あまり取留めの無い会話であつたと思う。
だが彼は、今日は休みだと云ふ。さう聞くと、貴重な大工の休みを、増してや彼の誕生の日を、僕なんぞが邪魔して了ふのは忍びないと思つた。
思つたので、僕は
「
勿論、此は僕からの
さうして出来上がつた似顔絵を、彼のケヱスのやうな木造り鞄に仕舞い込んでから、近くの甘味処に寄つたのであつた。
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