第3話死にたい人ととある殺人
カシュ
カン、カラカラ……。
カシュ
コンッ、コロコロ……。
「っはー……」
缶ビールを飲んでは放り投げを繰り返した水上は、1つため息をついた。
金曜日の品川との酒盛りのあともこうやって日曜日の夕方まで飲み続けたのだ。
ウォッカ1本。ワイン2本。缶ビール13本。焼酎プラスチックボトル2本。それが今の今まで飲んだ総量である。
「あーあ。また休日が台無しだ。何か生産的な活動をしたかったものだが……」
そう言って水上は部屋に散らばったビンやら缶やらを集めてはゴミ袋に捨てる。ここ最近の水上の週末のいつもの光景である。部屋の中のゴミ袋は4つにまでなっていた。全て月曜日に捨てる"つもり"ではいる。
飲みはじめの学生の頃は酒を飲むたびに痛かった肝臓が最近は痛くないなあ、そう思いながら水上はなんとなく肝臓あたりをさすり、パソコンの前へと座る。
スリープモードを解除してまずはSkypeに何かメッセージが来ていないかチェックする。
「やあ、今通話しないか?」という品川からのメッセージが5分前に来ていることに気がつく。水上はコールのアイコンをクリックする。
「やあやあ、水上。テレビを見てくれないか」
着信に応じるなり挨拶もなしに品川はそう言った。
「んー、テレビか。リモコン、リモコン……」
散らかった部屋からリモコンを見つけると水上はテレビへ向けてスイッチを押す。
「……ーー多摩川河川敷で見つかった少女の死体は頭が無く四肢は切断され、身元不明。現在身元を捜索中です」
ニュース番組がやっていた。番組のアナウンサーは淡々とした口調でニュースの内容を読み上げる。
「ひゃー、いきなりなにこの物騒なニュース」
「どのチャンネルもこの話題ばかりさ。まあ、しばらく見ててくれ」
酔冷ましにはちょうどいいか、と思って水上はしばらくテレビ番組を見ることにした。
画面を見ると、アナウンサーがまだ話していた。
「頭部と四肢を切断した死体が発見されるのはこれで4件目。警察では同一犯の犯行とみています」
「物騒だねえ、水上」
本当は全くそうだとは思ってないような口ぶりで品川は言う。
「だな」
なんとなく机の上にあったビールをちびちびやりながら品川は言う。
「こんな犯人、早く見つかって死刑になればいいのにと思わないか」
「あ、ああ……。そうだな…… 」
それはそうだが、なぜそんなことを俺に言うのだと水上は思いながらビールを一口飲んだ。
「僕もこの犯人に殺されたい。この犯人が見つかって死刑になる前に会いに行かなきゃ」
「………………!! っ、ゴホゴホッ!」
突然の告白に、水上は飲んだビールがむせてしまった。
「ねえ、水上、この犯人見つけようよ。警察が見つけちゃう前にさ。僕、この犯人に、殺されてみたい」
放課後にゲームしようぜ、のほのぼのとした気軽さと似たような口調で品川はしれっと言う。ただ、殺されてみたいという言葉だけがそれと不釣り合いだ。
「なーに馬鹿なこと言ってんだ。警察だって4人も殺されて手こずってんのにシロートの俺らがどうするんだよ」
場に漂ってきた緊張のせいか、へらへらした口調でへらへらした台詞を水上は言った。
「大丈夫。最近、名探偵さんと友達になったから」
「は……? 名探偵……?」
水上はそれを聞いてポカンとする。なんだ名探偵って、小説の中だけの職業だろうそれは?
「今日は名探偵さんさっそくその調査で忙しいみたいだから、明日紹介するよ。予定ちゃんと空けておいてね」
「なんだかよくわからんが、まあ、空けとく……」
急な展開に頭が追いつかずとりあえず水上はそう答えた。
「あーあ、はやく殺されたいなぁ。今日の言いたいことはそれだけ。じゃあ、明日」
品川はそう言ってSkypeの通話を切断した。一人残された水上はふぅ、と息をつくと壁に背中を預けた。
品川の希死念慮、連続殺人犯のニュース、犯人探しの提案、謎の名探偵、それらがぐるぐると水上の頭の中を回っていた。
「っ……はー、今日はなんかダメだなダメダメ。寝よ」
そう言って水上は布団へぼふりとダイブし目を閉じる。酔いと思考がぐるぐると頭の中で混ざり合いながら水上の意識は闇へ落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます