第2話 りんご飴
「何なのだこれは……」
街のカフェから数分————
待ち合わせしていた彼女の第一声だった。
彼女が疑問を向けたモノについて答える。
「それはりんご飴だ」
「りんご飴だと?」
「シロップや生のリンゴ果実をコーティングして……棒を突き刺した生菓子だ。欧米文化圏では古来から秋の収穫祭の時期に振る舞われていたらしいよ」
Wikipediaのリンクをひたすら踏んだ時期に覚えた知識の1つ。こんな場面で披露するとは思わなかった。
「なんと! 熟れた甘い果実を更に蜜と糖をあつらえるというのか!? 人間はやはり欲深いものよ」
眼を瞑り、何かを納得したかのような表情をしつつ飴をほむほむと食す。
「まるで自分が人間じゃない、みたいな言い方だな」
「しゃしゃしゃ。まるで、などつまらない冗談を。気でも触れたのか?」
確かに、会話の流れの勢いで適当なことを言った。
彼女が何者なのかは、今となればよく知っている。
そんな彼女の外見を敢えて表現するならば。
女性らしさを強調させるロングヘアの色は漆黒。
透き通るほどの肌の白さは、青白い、と言えるほど。
そんな白に追い打ちをかけるように、彼女を纏う、純白で簡素な白い衣はどこか遠い国の巫女、神官を連想させる。
小さな口元から覗く八重歯。
なぜか時折不敵な笑みを作りだす。
その表情を作る瞳の中央には————縦に綺麗なヒビが入ったかのような、爬虫類のような眼。
「かような贅沢な果実をりんご飴と称するには控えめに過ぎる。それっぽい名はないのか?」
「ポルトガルやフランスでは『愛の林檎』という名前で……あと、ドイツだと確か『天国の林檎』とか『楽園の林檎』と呼ばれてるらしいけどな」
「楽園の……か」
彼女が意味深に発言するので何かと思ったが、すぐに気づけなかった自分に腹がたつ。
「楽園の果実。本当に欲しかったそれを手に入れることが出来なかったわけだが」
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