【短編】秋と林檎と蛇と終ワリ【三題噺】

くりふぉと

第1話 カフェシーン

 秋は好きだ。

 理由は複数ある。過ごしやすい気候、ほどよい大気の涼しさ、紅葉、なんともいえない哀愁感。


 上手く説明できないけれど、なんだか秋は自分にとって心に余裕が持てるような。

 そんな気がするのだ。


 逆に冬は嫌いだ。

 寒いし、着替えが面倒だし、朝は起きるのが億劫だし、体調を崩しやすいし、そういった自分の弱さに直面することになる。そして陰鬱な気分になる。


 春夏秋冬の一番最後。終わりというのが何より嫌なのだ。


 そういえば、何でこんなに終わりを嫌ってたのだろう?


 いや。

 もうその自己分析は終えていたはずだ。

 先日の件のせいで、うっかり忘れていた。


 小学生の頃。

 大好きな父親がいた。


 職業はジャーナリスト。

 笑顔を向けてくれていたことは間違いないが、どこか疲れた表情も幼いながら感じていた。


 そして死んだ。

 いっときの幼い頃に楽しい時間を提供してくれていた父が急にこの世界からいなくなった。お父さん、と呼ぶと喜んで頭を撫ででくれた父が。


 あの時から、僕の中の世界観ががらりと変わったと思う。

 どんなに楽しい時間を過ごしても、親しい中になっても必ず終わりが来る。


 そんな、悲しい事実を知り、葬式を行なった冬を過ごしてから、冬は嫌いになった。

 逆に、秋はそれが来るまでの猶予期間のように好むようになったのだった。


 とはいっても、笑うことを忘れたように、それ以降ずっと一人で過ごす日々が続いた。本やPCモニターの前で知識を吸収することは楽しかったし、知的欲求を刺激できたが——ただ、それだけなのだ。


 いくら知識・情報をインプットしたところで、それを活用できなければなんの意味もない。父が死んだ原因を追い求める中で、この世界のことも深く知るようになったわけだが——知れば知るほど自分は無力で、なんの取り柄もない非力な学生である事実が突きつけられるだけだった。


「ふぅ」


「今日のブラックコーヒー」を飲み干す。

 茶色を基調とした某カフェチェーンの内装、流れるクラシックピアノのBGM……そんな空間で愛読本を読むこの時間は至福のひとときだ。


「さて」


 ここで過ごす時間の終わりが来た。

 椅子を後ろに引いて立ち上がる。


 この後のことを、しっかりと記憶に刻もうと決心する。

 店員すら存在しない、無人のカフェを後にしながら————




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