第3話 ディストピア

 世界の話をしよう。日本に於いて、平成という元号を終え――目に見える形で、「大衆」の生活・経済状況はどんどん悪くなっていった。


 人口は更に増え続け、食料や資源は枯渇していく。

 そんな先に待ち受けているのは、奪い合い。


 結果勝ち残ったのは、国の概念を超えた上位5%の人間。95%の人間は大衆と呼ばれる奴隷に堕ちた。


 強制される不妊薬による出産の抑制。特定オートミールの奨励。科学技術は進歩しているはずなのに、寿命は縮まった。


 ひと昔前は、幼児の腕に必ず注射を打つように、現在は超小型ICチップ、ナノマシンを混入し、そこから生体情報を管理する。

 現在位置、健康状態、『マイナンバー』による決済情報の紐付けに用いられる。いわば、極端な管理社会。


 ディストピア。

 大衆は自覚のない奴隷なのだ。


 その社会構造を壊すのは不可能……に思われた。


 その支配構造を破るには、とにかく暴力、圧倒的パワーが必要、とされた。


 現実世界でこれらに対抗するには限界がある。

 テロリストとして扱われ、重火器の餌食にされて、終わる。


 では、どうするべきか。

 それは電脳世界の舞台にて『救済』は試みられた。


『目覚めよ。お主が主人公となる時が来たのだ』


 自分が、奴隷化された大衆の1人であることを自覚しつつ同時に世の中に対抗するにはあまりに無力であることを自覚していた。


 そんな、20歳の大学生だった自分にとって、パソコン越しから語りかけられたその蛇の「女神様」の言葉は、シンプルながらも刺激的だった。



 この大衆の管理・運用を可能としてるのは、スパコンの性能を超えた、量子コンピューター。


 人類はついに作り上げたのだ。


 その中でも優秀だった量子コンピューター。通称「エディン」。


 楽園を作るために人類を良い方向に導く、とされる高度なコンピューター・システムとしてもてはやされた。


 ただ、弱点もある。

 どういう理屈か分からないが、歪み、リスクを孕むことによって、全人類を管理するという膨大なタスクの処理を可能としている、らしい。


 その深部に存在する、生命の樹というデータオブジェクト。


 ここに生える果実を手に入れることで、既存の管理システムの制御を越えた存在になることができ、破壊つくせる、唯一といっていい方法だ。


 しかし、それはもとより禁断の実だ。

 当然、容易なことではない。


「……」


 目をつむる。

 思い出される光景。


 周囲には守護プログラム、「ケルビム」が置かれる。

 彼らが手にするのは、近づく外敵を焼き尽くすファイアウォールソード。


 エディンを守る4体の「ケルビム」。

 案の定、奴らは強敵だった。


 3体を倒し、最後の4体目のところで――失敗した。


 こちらとしても、その果実を手に入れるため、最高の戦力を揃えたはずだったが、仲間はたぶん全滅し、辛うじて生き残った自分と「女神様」もケルビムによる強制退去のプログラムを止めることが出来なかった。

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