レアガチャスキルで異世界無双と思ったら「コスモス」だった

たまり

コスモスよ永久に


「あなたは死んだので転生しまーす。よかったですね」

 アニメ声の女神様が言った。金髪のツインテール女神様の背景はキラキラだ。

 名前は女神アテネーというらしい。微妙。


 俺――余命月留よめい つきるは死んだ。

 周りはフワフワの薄いピンク色の雲。ここが黄泉の国か?


「良くねぇよ。トラックに轢かれたんだぞ。運転手とそのご家族に申し訳ないわ」

 よくある異世界転生の最大の犠牲者は、主人公を轢き殺してしまったトラックの運転手さんだと思う。こんな気遣いの出来る俺が死ぬなんて、世の中理不尽だ。


「ご心配には及びません。あのトラックは某グゴール社のAI無人実験車両でした。責任の所在は法的にも実に曖昧なものになるでしょう」


 女神アテネーが投げやりな眼差しを俺に向ける。


「なんだか納得できねぇ!? けど、まぁいいか」


 誰かが不幸にならないだけマシだ。


「けれど天上の神々は見ていました。あなたの優しさと勇敢な……プッ振る舞いを」

「今笑っただろ!?」

「いえ、全然」

「ぐぬぬ」

 確かに俺の死因は200円ガチャチャチャのプラ球を落とし、追いかけてたら道で轢かれた事だった。女神に笑われても仕方ない、思い出したくもない黒歴史だ。

 薄れゆく意識の中で見た、血まみれのガチャの中身も、狙っていたキャラの景品じゃなくハズレのモブキャラだったというオチつきで。


「というわけでツキル。あなたには転生に際して素晴らしい恩恵ギフトを与えます。それで異なる世界に転生し、世界を救うもよし子孫を増やすもよし」

 子孫を増やす……辺りで女神がニタリとほくそ笑んだ。なんかゲスいな。


「マジか!? ありがちだけど、やったね!」


 俺は思わずフワフワの雲の上で飛び跳ねた。勢いで雲をパンチしたらコインが3枚も出た。ラッキー。


「いいですか? 転生時に天界から与えられる能力は、異世界では『スキル』と呼ばれ、様々な活躍のチャンスを授けることになるでしょう」


「あるある! だいたい理解できたから、はやく!」


 説明は不要。アニメとか「」カクヨムとかで知っている。

 超絶な魔法を気楽に使えたり、スマホでチートしたり、時間をループして問題解決したり。とにかく異世界にさえ行けば何でも叶う。絶対に夢を諦めない! いっそ日曜朝8時の女児向けアニメのように変身するやつでもいい。


 異世界転生への夢と希望で、ワクワクが止まらない。はやいところスーパーな能力でも武器でも魔法でもいい。なんでもいいから授かって、異世界でヒャッハー無双してやんよ。


「では、あのガチャを回しなさい」


「なぬ!?」


 雲の隙間から、赤い四角い自動販売機のようなものが出現した。


 俺が知っている「ガチャ」と形は違うが、景品マシーン。つまりガチャの一種らしい。

 真っ赤な筐体の横には白抜きで「コヌモヌ」と書かれている。読みにくい字体フォントなのはここが天上だからだろう。


「今日び天界でも『ガチャ』でスキルを与えるのが普通です。レアなスキルが出るかもしれませんよ?」

「なるほどな。で、コインは?」


「さっき雲から出たでしょう?」

「伏線だったのかよ!?」


 金貨は3枚しかないけど。


「では、3回どうぞ。ヒヒッ」


 女神アテネーは駄菓子屋のババアのように笑った。


 俺はゴクリと唾を飲み下してから慎重にコインを一枚挿入。ガチャッ……とレバーを回した。(正確にはレバーを下げた)


 ゴトン……と出てきた景品は大きめの箱に入っていた。

 紙の箱はプラモ的だが、かっこいいイラストとスキル名も書かれている。


『聖剣エックス・カリバーン』


「おぉ? 聖剣か……!」

「よかったですね」


 箱を開けてみると、ちゃちい。まるでプラスチックのような一色成形の剣が入っていた。しかもバリが残っていて質感が酷い。


「軽ッ!? 安っちい!? ほんとに聖剣なのかよ!?」

「……そう書いてありますね?」

「疑問系かよ!?」

「『異世界ではすごい力を発揮するぞ、セイーバも使っている』って書いてます」


「パチモン臭しかしねぇよ! つか、誰だよセイーバって」

 ゼニーバだともっとヤバイだろ。


「ですから、異世界に行けばわかるでしょ?」

 女神アテネーは投げやりにそう言った。手元のスマホ(?)みたいな天上アイテムを指で操作しながら退屈そうに。


「……まぁいい」


 まだコインは二枚ある。

 次こそいいやつを引き当てればいい。


 ガチャッ……。ゴトン。


『宇宙戦士ダンガーム』


「うおぃコラ!?」

 超合金シリーズ・ダイキャスト。箱はそう描かれている。

 どっかでみたようなトリコロールカラーの三色のロボットが描かれている。手にはトゲトゲのハンマー。「G」のマークが危ない商標ギリギリのイラスト入りだ。


「あ、すごいじゃないですかぁ!? 宇宙パワードスーツですよそれ。異世界いったら無敵の鎧になりますよそれ、いいなぁ」


「おま、女神……」


 クソ女化してきたが、パチもんかこいつも。


 もう、ガッカリ感がハンパない。

 だが……剣に鎧。そう考えれば異世界でもなんとか活躍できそうだが。となれば……あとは魔法の何かアイテムか能力的なモノが欲しい。


 コインは最後の一枚。

 

 頼むぜ、俺の右腕……! うぉおおお! ガチャッ!


 ゴトン。


「来た!?」 

 今度は箱に魔法のカードに似たイラストが描かれている。


『ロッチ ビックリ・シール 登場! 天使VS悪魔』


 メーカ名も書いてあるが、ロッチってなんだ。中岡か。


「わぁ!? ついにでましたね! スーパーレア。ガチャでもなかなか出ませんよぉ!?」

 女神が笑顔でぱん! と両手を下の横で打ち鳴らす。


 期待しつつ箱を開け、中にはいっていたピラピラのシールみたいな魔法カード(?)を指先で持ち上げる。……安っぽい。シールと言いつつ、水で剥がして貼る「水シール」だし。

 問題は描かれた女神様だ。

「サムゲタン・マリア……?」

 中身は、下手くそな悪魔女のイラストが描かれたシールみたいなものだった。顔色は悪くつま先も尖っている。

「……韓流みてぇな女神だけど、何に使うんだこれ?」


「天使と悪魔の力を暗黒ゾーンに満ちた六聖球ゾーンで、パワーアップ。天界山脈に湧き出る温泉ツアーで敵を騙し討ちにしたり、謝罪と賠償を無限に要求したり出来るスーパーレアカードです」


「意味がわからねぇ!? ダマされた、こんなんで何ができんだよ!?」


「はいはい、コインも無くなったことですし、恩恵ギフトも得たのですからさっさと異世界へおいきなさい」

 急に事務的になるクソ女神。見れば向こう側の門には次の魂が待っている。


「おのれクソ女神、おのれコヌモヌ……!」


 急に身体が重くなった。雲の中にズブズブと沈んでゆく。俺の人生はガチャに翻弄されていたのかも知れない。

 何が出てくるかわからないワクワク感と、安い景品。お気軽に得られる能力や夢なんてたかが知れているというのに……。

 ハッ、まさかこれが俺が背負った「ごう」なのか。

「異世界へ、レッツゴー!」

「しょうもな!?」

 女神アテネーが腕を振り上げて片目をつぶる。


 意識が薄らいでゆく。

 どうやら――


 俺の異世界転生は今始まったばかりのようだ。


<おしまい>

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