第50話 絶望

とりあえず頭を冷やす意味も兼ねて、自宅に戻った。


「・・・巫女様、ご説明致します」


明菜が説明役を買って出た。

助かる。


「うむ」


「まずは、雪虫の巣を掃討したのが、きっかけ、いや・・・」


「待って、あの子達どっか行ったって言ってたよね。掃討って何」


「いえ、全ての原因は、雪虫の増殖、あれがきっかけと言うべきですね」


「待って、あの子達と結界は関係ないと思うのですがっ」


「雪華、話が進まないから・・・」


俺が雪華の口を塞ぐ。


「結界の強化・・・更に、お兄様の率いる探索組と討伐組が優秀だった事もあり、魔物の数が激減・・・結果として、魔物に食べられる事で数を減らしていた雪虫が増殖を開始・・・餌付けした方もおられたかもしれませんが」


「んんー!」


「雪虫は、その数と、個体の力量によって・・・この世の属性を書き換えます。この世は霊気と瘴気、陰陽で言えば陽と陰・・・そういわれる属性で構成され・・・そして、ほとんどが陽で構成されています。黄泉比良坂よもつひらさかは、陽と陰が半分・・・黄泉国よもつくには大半が陰で構成されています」


「んん・・・?」


「雪虫が書き換えた属性は・・・この世に存在しないので、定義のしようが無いのですが・・・仮に『雪』、としましょうか。属性の構成が、『雪』、が増えた結果、謎の寒冷化現象が起きていました」


「・・・ひょっとして・・・私は・・・とんでもない事をしたのでしょうか・・・?」


雪華が青い顔で言う。

・・・いや・・・


「巫女様が餌付けした事が原因とは言えません。私やお兄様も、雪虫のこの世に与える影響には気付いていませんでしたし・・・そもそも、異変があるのに原因を調査しようともしませんでした。悪いのは、私達です」


「・・・うう・・・」


庇われた筈なのに、恨みがましい声を出す雪華。

・・・自分が許せないのだろうか。


「それに気付いて、お兄様達と、雪虫の駆除を行いました。結果、寒冷化現象は収まり・・・あり得ない属性である『雪』は消失・・・半分の確率で陽となり、半分の確率で陰となり・・・」


「・・・まさか・・・」


雪華が更に青い顔で呟く。


「この世の属性の、陰の割合が大幅に上がりました。黄泉比良坂程ではありませんが、魔物の活動しやすい世になったようです」


明菜が告げる。


「そんな・・・」


雪華が膝をつく。


「魔物の強化と、強い陽属性を必要とする結界の弱体化・・・これが、結界が壊された真相、と言うわけですか」


八幡が納得した様に言う。


・・・さて。


「結界を張りなおしたいが・・・黄泉比良坂の出口に張っても無駄だろうな」


雪華は目を閉じ・・・


「外の世界・・・寒冷化の影響もゆっくりでした・・・それなら・・・」


雪華が語り出す。


「この防人の村と、この狭間の世を放棄・・・此処を隔離世とし、出口に結界を張れば・・・」


雪華が告げるが、


「・・・伊邪那岐いざなぎが施し下さった封印の岩・・・あれと結界との相乗効果で塞いでいたのだぞ?結界単独では、防ぎきれるか・・・」


俺は頭を振って言う。


「封印の岩・・・あれを動かす事はできないでしょうか?」


明菜の提案。


「・・・伊邪那岐が封じたもうた黄泉比良坂・・・その口が開いたのが数百年前・・・この地が狭間の地となり、隔離世と隣接する地に・・・当時、あらゆる手段を試みて岩を戻そうとしたが・・・結界を張るだけで精一杯であったと聞いている」


出来る事ならやりたいが・・・あの岩は、伊邪那岐ですらぎりぎり施せた封印。

人の身でどうこうできるものではない。


「・・・うん」


雪華は頷くと、きっと顔を上げ。


「龍生、私は貴方が好き。龍生は私と結婚したい、ですか?」


今その話題?!

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