第47話 手詰まり

「少し・・・時間を下さい」


雪華はそう言うと、


「地上の民を放棄して、岩戸に籠ったのは謝罪します。これからは・・・迷惑をかけた分、政務に、神事に、励みます」


雪華がぺこり、と頭を下げる。

・・・受け取ってはくれなかったが・・・ともかく、前進はした筈だ。


--


冷夏の原因を探るが・・・成果は上がっていない。

それどころか、ますます寒さは厳しくなっている気がする。


外の世界で、常時雪に閉ざされる様になれば・・・恐らく、日本は滅びるだろう。

この村だけ生き延びて、外の世界は全滅とか、洒落にならない。

今はどこまで影響が有るのか・・・


季節は移り、夏が終わった。

雪はますます深く、移動には特殊な板を履いて沈まないようにして移動している。

まさか、常に溶かしながら移動する訳にもいかず。


雪華は・・・精力的に色々やろうとしたのだが、引き篭もっていた期間が長過ぎたせいで、既に雪華無しで色々まわっていて、結局手伝えていないようだ。


美海みみ無垢くろ、子供達の遊び相手をしている。

・・・正直、美海みみ無垢くろが、雪華と子供達の面倒を見てあげてる気がしないでもない。


さく・・・


今日は雪華の案内で、綺麗なものを見に行く。

ついてきているのは、明菜のみ。

得意気な様子で、雪華が先頭を歩く。


「お兄様、何を見せて頂けるか聞いておられますか?」


明菜が尋ねる。


「いや、教えてくれない。この世のものとは思えないくらい綺麗、とは言っていたが」


「・・・禍々波ななみより綺麗なのでしょうか・・・」


禍々波というのが何か分からないが、恐らく黄泉比良坂の何かだろう。

そして、黄泉比良坂の現象はこの世のものではない。

・・・まあ、この村も正確には、人の世では無いのだが。


「龍生、着いたわ」


告げる雪華。

此処は・・・


「雪虫の巣・・・?」


雪虫。

正確には虫ではなく、冷の概念が凝縮した疑似生命・・・精霊や、魔物の一種だ。

黄泉比良坂とは別の異世界から稀に入ってくる。

魔物の餌となって早々に消える事が多い。

最近は結界が強化されたせいで、魔物が減り、見かける機会が増えた。


だが・・・


「繁殖しているのか・・・?巣を見るのは初めてだ・・・が・・・」


美しい。

非常に美しい光景だが、何かが引っかかる。


「どう、美しいでしょう。せっせと餌を運んで、お菓子をあげて、一気に増えたのよ」


「・・・結界の強化と・・・寒冷化の開始・・・そして今回の巫女様のお戻りと・・・寒冷化の激化・・・」


明菜が呟く。

そして、地面に呪紋を記し始めた。


「この子が、雪虫の女王種。美しいでしょう?」


純白の他個体とは異なる、虹色の個体。

大きさも少し大きい。

これが女王個体。

偶々この世界に紛れ込んだのか、後から変化したのか、分からないが。


ぽう


明菜が巣や、周辺の元素、雪虫の個体を調べていく。


雪華が、如何にして雪虫を餌付けしたか、増やしたか、自慢気に語っている。


「お兄様、黒です」


呆れた様な声音で、明菜が告げる。

さて・・・


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2019/01/13:

常に溶かしながらう移動する訳にもいかず→常に溶かしながら移動する訳にもいかず

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