第46話 神の定めたもう伴侶
「離し・・・離して下さい!」
「雪華!」
呼びかける。
「龍生・・・見ないで!」
別に、雪華が裸とかそういう訳では無い。
何時もと変わらない姿だ。
「私・・・私・・・」
「巫女様、どうされたのですか?」
明菜が懇願するような声で問う。
「魔女・・・魔女め・・・私に・・・あの様な・・・」
明菜が渡した物・・・火巫女が・・・明菜のお菓子を食べた途端・・・と言っていたな。
お菓子に何かが?
いや、そんな事は考えられないが・・・
「あの様なお菓子、生まれて初めて食べた。今のままでは・・・あの様なお菓子は私には作れぬ!」
・・・
「・・・巫女様・・・まさか・・・その様な理由で・・・?」
明菜が呆然と問う。
「そうだ!私が岩戸の行で霊力を高めれば・・・きっと私にも、美味なるお菓子や美麗な細工が・・・!」
出来るようになる訳が無かろう。
「・・・巫女様・・・あのお菓子は・・・材料が特殊なのです・・・」
黄泉比良坂産の物を使ってるからなあ。
「特殊・・・卑怯な・・・!」
雪華が唸る。
「ですが、あの材料を簡単に入手できるよう、慣らしております」
豊寿に頼んでやった事だ。
既に量産に入っていて、収穫も始まっている。
まだ貴重で、人気も高いが・・・雪華の立場であれば、優先的に入手するのは容易い。
「勿論、作り方もお教えさせて頂きます・・・ですから、どうか地上に戻って下さい。地上の民には、巫女様が必要なのです」
明菜の懇願。
「でも・・・でも・・・龍生は・・・私より魔女、貴方を!」
・・・?
「私を、どうかなさいましたか?」
明菜も困惑した様に問う。
「龍生は・・・私より、魔女、貴方に惹かれている。私は・・・愛しい人の気持ちが誰に向いているかくらい・・・分かります・・・」
「・・・お兄様の気持ちは、巫女様に向いておりますが・・・」
明菜が困惑した声で言う。
「そもそも雪華はいつ求婚してくれるんだ・・・?もう俺から求婚すれば良いのか・・・?」
俺も雪華に問いかける。
「なんで・・・?!妹がそんなに大事なの?!神の定めたもう伴侶・・・妹・・・でも・・・それでも、私は選ばれたい!私の方が・・・ずっと・・・龍生の傍にいたのに・・・!」
「・・・聞いてくれよ」
俺はがっくりと膝をつく。
「巫女様、お兄様を信じて下さい」
・・・ああ、もう・・・
俺は雪華に歩み寄ると、雪華を抱きしめ。
そっと、唇を奪った。
「雪華、俺が大切なのは・・・お前だ。俺と・・・一緒になって欲しい」
本来、天上の存在たる雪華にやって良い事では無いのだが。
話が進まない。
雪華を抱きしめたまま・・・そっと、勾玉のペンダントを握らせる。
もしもの時の為に用意しておいた物だ。
明菜に貰った虹水晶を加工して作ってある。
神儀式を用いず、霊脈のみで編んだ術紋。
氏神に関係無く、ある程度の防護術式が発動する筈だ。
「龍生・・・」
雪華が、潤んだ目で俺を見上げ・・・
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