第45話 特例中の特例

ドンッドンッ


太鼓の音が鳴り響く。

溢れ返る笑い声。

準備が終わり、宴が始まったのだ。


さて・・・これで出て来てくれるか・・・


--


パチッ・・・パチッ・・・


組んだ木が天高く燃える。

夜。

宴は終わり、皆自分の家に戻った。


飾り付けは、そのままになっている。

明日やればいいだろう。


「出てきませんでしたね・・・」


明菜が困った声で言う。


「天照大御神よりも気難しいようだ・・・」


俺は、溜息混じりに呟く。


この場に残ったのは、俺、明菜、火林、そして俺の従魔。


「少し開けば十分なんだけどね・・・」


火林がぼやく。

天の岩戸は流石に神代の遺物。

天照大御神縁の者が完全に岩戸を閉めると、開けることはかなわない。


隙間が開けば、封印が解けるので、こじ開ける事ができる。

無論、火林の様な圧倒的な力があって初めて可能なのだが。


朧湖がくっくと笑う。


「何だ、お主ら。何をしているかと思えば、あの娘を岩戸から出そうとしておったのか」


「・・・そうだ。雪華には出て来て貰わないと困る」


「であれば、龍生よ。明菜と接吻を交わせば良い」


何故?!


「朧湖殿。それは不可能です。私はこの仮面を取れませぬ」


明菜が困った様に言う。


「なに、真にはせずとも良い。空気だけでも伝わるものよ」


ふりだけって事か。

どうせ万事休す。

試してみるのもありか。


「明菜」


俺は明菜を抱き寄せ、


「お兄様・・・?」


寒空の下。

明菜の体温が、手のひらから伝わる。

温かい。

柔らかい。


「明菜・・・」


そっと顔を近づける。

仮面が──無ければ──


ぎゅ


明菜が、俺を強く抱き返す。


う唇が仮面に触れ。

そして──


ギギギ・・・


岩戸が──開いた!

今だ、火林・・・おい。


火林が俺達を見ていて、岩戸に気付いていない。


「馬検の魔女殿!」


明菜が叫ぶ。

雪華が、火林が、我に返る。


そして・・・火林の方が僅かに早い。


ガッ


火林が、岩戸の隙間に手を入れ、岩戸を閉じようとする雪華を阻止。


「離しなさい、火林!」


「離しません、巫女様!」


雪華が、霊力を高める。

岩が徐々に・・・閉じる・・・。


「い・・・痛い・・・」


火林が悲鳴を上げる。


「かしこみかしこみ、我が氏神たる須佐之男命すさのおのみこと、我が手に宿り給え!」


氏神への祈念。

これは本来、巫女たる白谷家にしか許されていない事だ。


家の格が、氏神に祈念するに値しない、そんな説も有るが。

普段から祈念しない事により、特例の時に大きな力を得る為、という説も有る。

第二位の馬剣家、第三位の黒森家でさえ、一生に一度祈念するかどうか、という程だ。

例えば、彼女の家に行って、ちょっと火の球を出してみるのに神の力を借りるとか、そんな気軽にやって良い行為では無い。

我が黒森家からそんな輩が出れば、俺の剣でその首を落としてやっても良いくらいだ。


何にせよ、特例中の特例、その奥の手を使ったのだ。

岩戸は・・・ゆっくりと動き・・・そして・・・


あぐ


火林が開けた岩戸の隙間から、朧湖が雪華の首根っこを咥えて取り出す。

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