第44話 冷夏

「我が軍全てを動員しても、この男1人倒せぬだろう。この防人の村とは、そういう場所だ」


常に瘴気に触れているからな。

霊力が成長しやすいらしい。

純粋な霊力の濃さで言えば、外界の方が濃いのだが。


「それに・・・村人の誰に聞いても、この村の代表は龍生殿と答えていた。人選として妥当であろう」


それはたまたま特定の人達に聞いたからだと思うよ!


「では、本題に入ろう」


ばっ


朧麿が、扇子を開ける。


「ここ数年、徐々に夏が短く、冬が長くなってきておる。易者によれば、異界よりの影響との事。心当たりが無いとは言わぬな?」


・・・


確かに、ここ数年、冷夏だ。

夏でも常に雪に閉ざされるなんて、ここ数年が初めての経験だ。

外の世界ではその現象がゆっくり進行しているとすれば・・・確かに、この世界が最初に影響を受けた可能性がある。


「冷夏である事は、勿論認識しております。その為、結界等を用い、食糧確保の対策等を進めておりました」


何も、手をこまねいていたわけでは無い。


朧麿は首を振ると、


「それでは困るのだよ。此処は、異界からの侵攻から外界を守る為の隔離世、防人の村。魔物だけを防げば良い、という訳では無い。此度の件、異界からの侵攻と見て間違いない筈だ・・・というか、真夏に大雪が降っているのだから、おかしいな、と思って欲しい。異変の解決、それがこの村の役目なのだから」


勝手な言い分な気もするが、その通りだとは思う。

外の世界を護る為の村、もしその役目が嫌なのであれば・・・ただ、出て行けばいいのだ。

長老達の様に。


それに。

確かに、今はこの村の民だけは、結界のお陰で食料も確保出来ているが・・・だからといって、異変を放置して良いわけでは無いだろう。

他の異変が生じたり、更に極寒になる可能性もあるのだから。


「分かりました。異変の件、早急に調査、解決致します」


俺は、素直に頭を下げた。


--


ともかく、岩戸に引き篭もったお姫様を引きずり出さないと。


岩戸周辺の雪かきを行い、その後、周囲に薄く結界を張る。

そして、内部の気温を上げる。


俺の従魔、八幡達も村人に混じって準備に参加している。

最初は品種改良の為に豊寿に手伝ってもらっていたのだが、気付いたらなし崩しに村に来るようになった。

村人も気にしていない様だ。

一応、八幡は目を2つに減らすなど、ある程度力は抑えさせている。


「お兄様、飾りの取り付けは7割終わっております。御馳走の準備は4割、舞台の準備は完了しております」


明菜の報告。

神話にならい、岩戸の前でお祭りをして、雪華が覗いた瞬間に岩戸をこじ開ける作戦。

こじ開ける役は、勿論火林だ。


「魔女殿、飾り付けで相談が」


飾り付け係の者が明菜を呼びに来た。

明菜がそちらへと向かう。


ずるずる・・・


飾り付けを、八幡が手伝っている。

器用だな。


かさかさ・・・


高い所の飾り付けは、豊寿や朧湖ろこが活躍している。

従魔達もすっかり馴染んだ。

美海みみ無垢くろなんて、子供の良い遊び相手になっている。

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