第42話 心に染みる甘さ

雪華が差し出した贈り物は・・・


爪の先程の大きさの、黄金色の水晶がついた、白金製の指輪。

少し形は歪だが、十分な美しさ。

洗練されたとは言い難いし、氏神でも無い為効果は薄いが・・・天照大神の加護を織り込んである。


うん。


超一級品の贈り物だ。

水晶は、黄金色の在り様かたちをとる物は、極めて稀。

観賞用としても、装飾用としても、術具としても、極めて貴重だ。


その金色を遥かに超える価値を持つのが、虹色の水晶。

そもそも、存在すら伝説の存在だったりする。


嬉しいんだが・・・

それより遥かに高価な物が、ごろごろ蔵に転がしてあるせいで・・・

一瞬微妙な表情を浮かべてしまった。

明菜を一瞥すると、やらかした感をにじみ出している。


雪華が違和感を覚え、


「・・・龍生?」


俺の袖をひっぱる。


ころん


袂から、拳大の虹水晶が転がり落ちた。


あ、後でしまおうと思ってた奴だ。


・・・


雪華が目を見開いて固まる。

ですよね。


「・・・はは・・・何・・・これ・・・?」


唖然とした声でそう言うと、つん、つんと、宝石をつつき・・・


・・・


俺は雪華から死角になる位置で、腕輪をそっと外そうとするが・・・


「・・・龍生・・・何・・・それ・・・?」


虚ろな目で、俺の腕にはまった腕輪──虹水晶で作られ、細工は精巧、そして俺と相性の良い月の加護を幾重にも織り込んだ物──を凝視する。


「・・・腕輪・・・かな・・・?」


俺が応える。


明菜が、仮面で見えないけど・・・滝の様に汗を流している気がする。

何となく。


「創る・・・」


ぽつり、雪華が呟く。


「・・・え?」


俺が聞き返す。


「その腕輪を超える物を、絶対に創ってみせます!求婚の儀は・・・それまで延期します!」


無理だよ?!

雪華がマジ泣きしている。

そもそも贈り物とかいらないくらいなんですけど?!


「おい・・・雪華・・・?」


「私・・・負けませんから!」


きっ


雪華が睨んでくる。


何に?!

雪華は何と戦っているんだ?!


「あの・・・巫女様・・・お菓子です、どうぞお召し上がって下さい」


明菜が、雪華に、俺の好物の茶色いお菓子を渡す。

甘い物を食べると、頭がすっきりするよな。

色々考えもまとまるし、気分も楽になる。


「お菓子なら、私も得意なんだから・・・今度、また龍生に作ってあげます!」


雪華のお菓子は、確かに美味しい。

明菜のお菓子の次に好きだ。

明菜は、地上の材料だけを使っても、非常に料理が上手い・・・最初は俺が教えてたのに、あっという間に料理の腕が抜かれてしまった。

俺もそれなりには腕に自信が有るのだが、この2人には勝てない。


「ああ、楽しみにしてるよ」


というか、求婚の贈り物、お菓子でも良いんだぞ?


--


翌年の夏。


まだ雪華からの求婚は無い。

それどころか──


「おい、防人の責任者を出せ」


外の世界から、使者が乗り込んできた。

何事だろうか?

何故か俺が呼ばれ、応対する。


「申し訳有りません。責任者はこの村を放棄して外の世界ヘ・・・現在は、責任者が不在の村となっております」


「長老の事は把握している!代理の者を立てているだろう?!」


把握してるなら長老に言えよ。

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