第41話 求婚

常人なら入ろうとすら考えない領域・・・だが・・・瘴気を霊気に変換できる明菜であれば、俺達よりは遥かに安全に入る事が出来る・・・無論、魔物の強さが尋常ではない為、危険な場所なのは変わりないのだが。

そのあたりの危険回避も熟知しているのだろう。

なにせ、黄泉比良坂で暮らしていたのだから。


その為、時々明菜は黄泉比良坂に単独で出かける。

地上ではあり得ない品を時々持ち帰っては、俺にくれるのだ。

有り難いのだが・・・心配ではある。


「素材ってさ・・・それ、地上では作れないのか?」


明菜が採りに行った物・・・それは、術具の素材では無い。


炒って粉末にしたら香ばしい香りを持ち、お湯で抽出すれば美味しい飲み物ができる豆。

煮詰めた後に残った粉が甘い味がする草。

苦いが癖になる味の豆で、乾燥させて砕いた後、白い粉と混ぜて煮れば、美味しい塊が出来る豆。


地上には無い植物の素材だ。

黄泉比良坂にいた頃、何となく考えていた事を、試してみたら上手くいったらしい。

最初の頃、俺が思わず喜んだのが悪かったのだろう。

ちょくちょく作るために、材料を採りに行くようになってしまった。


今度、豊寿に相談してみるかな・・・


「あそこに行けば沢山生えているので・・・採ってきた方が早くて・・・」


そっと明菜が顔を逸らす。

危険な場所だからね?


「なあ明菜・・・俺は、お前に危険な目にあって欲しくないんだ・・・分かって・・・くれるな・・・?」


明菜の隠れた目を見るように、そっと顔を近づける。


むぐ


口に何かをつっこまれた・・・これは・・・

芳醇な香り、苦み、そして甘み・・・至上の甘美。


ぱり・・・ぽり・・・ごくん


「いや、こういうのは困るんだよ・・・その・・・美味しいけど」


くすり


明菜が笑った気配があった。


「そういえば・・・お兄様」


明菜が、そっと腕輪を取り出す。

虹色に輝く水晶で作った腕輪。

幾重にも月のじゅが埋め込まれ・・・細工も大変美しい。


「これは・・・明菜が作ったのか」


愚問だ。

月の呪を行使できるのは、俺と明菜、2人しかいないのだから。


「はい。強い護りの加護を組み上げております。総大将が倒れれば、人間の未来は閉ざされるのですから」


「明菜・・・」


そっと明菜を見て、


「総大将は巫女である雪華だからな?」


明菜がくすり、と笑った気がした。


--


久々の雪華との逢瀬。

高鳴る気持ちを抑えつつ、雪華との約束の場所へと向かう。

護衛を兼ね、明菜がついてきている。

雪華と合流後は、明菜は扉の前で待機する手筈だ。


待ち合わせ場所。

そこに雪華は居た。

緊張した面持ちで、戦の前の様な雰囲気。


・・・何か・・・あったのか・・・?


「雪華、どうした?」


俺が緊張を込めた声で問うと、


「あ・・・あの・・・龍生・・・」


雪華の顔が、赤い?


「その・・・龍生、月の魔士よ、そなたは、我、陽の巫女の伴侶として、その半生を捧げるを、誓い給え」


求婚の儀。

・・・やっとか!


どくん・・・


心臓が高鳴る。

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