第40話 贈り物

夏が来て、また冬が来て、また夏が来て。

季節は巡る。


俺達の仕事は、結界の維持と、魔物の外界への侵入の阻止。

順調にこなしている。


食料に余裕がでた事もあり、概ね平和と言える。

強化された結界のお陰で、凶悪な魔物や、魔窟の発生は収まった。

子を為す者も増え、村は活気に満ちている。


ざく・・・


雪をかき分け、周囲の探索。

真夏だというのに、高く積もった雪が道を阻む。


ここしばらく、四季が安定しない。

1年を通して、大雪が降っている。

田んぼや畑に仕掛けた、温暖結界が無ければ、困った事になっていただろう。


「そういえば、月の魔士殿、結婚式の日取りは何時になさるのでしょうか?」


術具組の1人、典経のりつねから、そんな事を聞かれる。

雪華との結婚。


雪華と結婚した場合、雪華が仕事をこなせない時もでてくるが。

雪華が主体となって仕事をする機会も減ってきた。

雪華の妹が巫女の役目を補佐するのは、難しくないだろう。

今は安定している・・・そろそろ悪くないのかも知れない。


「そうだな・・・まだその相談はしていないが・・・そろそろ良いかも知れないな」


「お兄様、でしたら、贈り物の選定を致しましょうか?」


横に並んで立っていた明菜が尋ねる。

結婚を申し込む・・・その場合、贈り物をするのが通常だ。

宝石であったり、細工品であったり。

自分で用意する必要も無いので、代わりに準備しようか、という配慮だろう。


だがまあ、気持ちだけ貰っておく。

もし贈るなら自分で用意するし、そもそも、雪華が俺に求婚するのだ。

雪華の方が立場が遥かに上なので、贈り物を用意するのは雪華となるのだ。

・・・まあ、そこまで考えた上で、雪華が俺に渡す物を用意するつもりかも知れないが。

それは気を回しすぎだろう。

もう少し雪華を信じてやれ。


「・・・?魔女殿、何を仰っているのですか?月の魔士様に求婚される側の貴方が、何故贈り物を用意するのですか?」


?!


「わ・・・私がお兄様に?!」


明菜が珍しく、驚きに声を荒げる。

その態度は可愛いけど、びっくりしているのは俺も同じだ。


「・・・何を言っているか、俺の婚約者は巫女様だ。明菜ではないぞ?」


「・・・巫女様と・・・?妹君がおられるのにですか・・・?」


典経のりつねが理解でない、と言った様子で尋ねる。


「私は生涯、結婚は致しません。お兄様は、巫女様と結婚されるのですよ」


明菜が微笑を浮かべる様な声で告げる。


「はあ・・・」


典経のりつねが困惑した様な声を出す。

困惑したのはこっちだよ。


--


「お兄様、これをどうぞ」


明菜が差し出したのは、虹色に光る水晶。

観賞用としても、装飾用としても・・・そして、術具の素材としても、超一級品だ。

爪の先程の大きさでも相当な価値があるが・・・この塊は、子供の頭程の大きさがある。

こんな異常な存在が眠る場所は・・・


「・・・明菜・・・また黄泉比良坂よもつひらさかに行ったのか・・・?」


「はい、どうしても必要な素材があったので」


明菜が申し訳無さそうに言う。

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