第39話 長老代行

「はい?」


「気のせいか、俺の所に、村長とかが決める様な案件が上がってきてないか?」


最初は、防衛計画とか、術具製作計画の相談に応じていただけの筈だが。


明菜は首を傾げ、


「長老様はお隠れになりましたので」


言い方。

まあ、逃げ隠れたんだけど。


「代わりの長老はまだいないのか?」


「村の皆で投票して決めましょうか?」


明菜が小首を傾げ、尋ねる。


・・・


巫女と、長老は、慣習上、別の人物がなる。

となると、火林、俺、の順に候補があがる。

火林は極めて優秀な魔女だが、村長が務まるかというと・・・

そうなると・・・


「急いで村長を決める必要は無いだろう。とりあえずは、雪華が一時的に村長を代行すれば良いんじゃないか?」


緊急事態だし。


「え、巫女様に村長の業務が務まるとは思えませんが」


明菜が驚きの声を上げる。

務まるよ?!

俺は、お前の雪華に対する評価の低さにびっくりだよ。


俺の顔を見て、自分の失言に気づいたらしく、言い直す。


「失礼しました。巫女様には高尚な御役目が有りますので、些事にお手を煩わす訳にはまいりません」


・・・そう言われてしまうと・・・


「・・・分かった。村の運営の件は、とりあえず俺が捌こう。ただ、村の人が従う限り、な」


別の立候補が有れば押し付ける。


明菜はこくり、と頷くと、次の書類を取り出した。


「お兄様。大神実命オオカムヅミの木の栽培に関してですが」


「待て待て待て待て!」


何故その件が俺の所に来てるんだ?!

それこそ、雪華が預かるべき内容だろ?!


明菜は小首を傾げ、


「お兄様、どうされましたか?」


「それは雪華が扱うべき案件だ。俺の所に話を持ってくるな」


「お兄様、巫女様を過大評価し過ぎかと」


「お前が雪華を過小評価し過ぎだよ?!」


雪華は凄く優秀だからな?


「・・・お兄様がそう仰るなら・・・」


明菜は困った様な口調でそう言うと、書類をしまう。


後日、雪華が泣きついてきた為、俺が栽培の管理も行う事になった。

仕方が無いので、明菜に丸投げした。


--


「月の魔士殿、指示通り、張り終わりました」


「ああ、有り難う。術壺の設置は?」


「そちらも完了しております」


棚田への小規模結界の展開。

魔物から抽出した触媒を用い、薄い結界を張る。

薄く弱い結界なので、維持に必要な霊力は極めて小さい。

出来る事は、熱の弱い遮断程度。


結界で遮断された内側の空気は、温度が上昇。

結果、内側の作物は夏の様に育つ事ができる。

そんな仕掛けだ。


今年が冷夏で不作だった為、冬の間に米を育てられないかと思って、試してみているのだ。


ざく・・・


外側には、雪がたっぷり積もっているが・・・結界の中は、温かい。

試みは上手くいっていると思う。


「手の空いている者を呼んできて、苗を植えてくれ。引き続き、他の棚田へも結界の展開を頼む」


今は棚田が中心だが、畑や平地の田にも、結界の展開を進めよう。

これで、冬の間の食料難や、冷夏の対策が出来た。


「お兄様、氷室が完成したそうです」


明菜が報告に来る。

洞窟に術壺を設置し、洞窟全体を冷却。

今は不要だが、夏になると食料の保存が難しくなる。

夏のうちから、氷室に食材を貯めておき、冬の間の食料とする試みだ。


「早速見に行くか」


俺は、氷室へと足を向けた。

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