第38話 人を外れし存在

「はい」

「そうだぞ」


明菜と俺が肯定する。

何処で聞いたんだ?


「龍生・・・貴方・・・貴方は・・・」


・・・?


「私という婚約者がいながら、妹がいるってどういう事ですかああああああ??!」


「まて、その理屈はおかしい。雪華は大切な婚約者だし、それと俺に妹がいた事は関係ないだろう?」


「そもそも、私が龍生お兄様の妹、という話は、広まっていない筈なのですが・・・何処からお聞きになったのですか?」


雪華の叫びに、俺と明菜が応える。


「魔女が月の秘蹟を行使するのを見た、という報告があったのです」


「・・・気をつけて使っていたのですが、見られていたのですね・・・すみません」


明菜が、俺に対して頭を下げる。


「気にするな。時期がくれば、お前が俺の妹だと、明かすつもりだしな」


「魔女が妹と明かすって・・・どういう事ですか?!」


俺が明菜に対して慰めた言葉を、何故か雪華が噛みつく。

どういう事って・・・?


明菜が、何かを悟ったように、語り出す。


「巫女様。私が妹、と明かされれば、巫女様とお兄様の婚約に影響が出る、とお考えですね?」


・・・ああ。

そういう事か。

明菜が続ける。


「私は、巫女様とお兄様の間を引き裂く気は有りません。私は人を外れし醜女故、人の道は歩めませぬ」


「人を外れし醜女って・・・その仮面の下は絶世の美女ではないですか?」


雪華が半眼で言う。


「ならば、お見せしましょう。ご不快を与える事をお許し下さい」


そう言って仮面と、布を外す、明菜。

半ば髪が抜けた頭、焼け爛れた皮膚、光を失った目、閉じる事が無い歯が抜けた口。


「ひ・・・」


後ずさる雪華。


しゅる・・・


再び、明菜が仮面をつけ、頭に布を巻く。


「これをもって、私が人の道を歩む事ができない、それを分かって頂けたかと思います」


「・・・分かりました、魔女よ。・・・龍生、貴方のお心を疑ってしまい、申し訳有りませんでした。此度の件、分かりました」


雪華はそう告げると、おぼつかない足取りで、退室した。

誤解が解けたのは良かった。


・・・だが、最愛の婚約者が明菜に見せた反応・・・それは何時もの様に愛しい事の筈なのだが・・・不可解な苛立ちを覚えた。


--


明菜が妹である件は、周知された。

特に問題は生じない。

問題にするような連中は、村を出て悠々自適に暮らしているしな。


魔物の大きな脅威は去ったが、やはり問題は起きている。


「お兄様、作物が不作のようです。原因は、魔物による食害と、気候のせいですね。今後、食料が足りなくなるおそれがあります」


明菜の報告。


魔物は、バッタの様な魔物が発生、駆除が遅れ、作物が食い荒らされたのだ。

気候は、今年は冷夏で、作物の育ちが悪かった。


「・・・来年は、田んぼと畑の面積を増やそう。使ってない西側にも作るぞ」


今までは農産物は、お偉方が独占していたので、農業への意欲も低かったが。

分配を公正にしたら、みんな進んで働いてくれるようになった。

面積の拡大は難しく無い筈だ。


「それと、冬に備えて保存食を作る。遠征して材料を集めるので、予定を調整してくれ」


「はい、分かりました」


明菜が、指示を紙に書き記す。


「次に──」


「なあ、明菜」


ここ最近のやり取り、違和感を覚え、尋ねる。

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