第36話 ただいま

さて・・・長居はできない。

引き続き、大神実命オオカムヅミを探さなければ。


明菜がついてくるのを、蛙は止めない。

まあ、地上の方が安全だし、食料も多いからな。


ぞろ、餓鬼達がついてくる。

お前等もついてくるんかい。

蛙は止めない。

まあ、仕方がないか。

明菜と兄弟みたいなものだろうしな。

良く見たら・・・この餓鬼達も、みんな子供だ。

・・・可愛そうに。


--


「これは・・・そう、これだ」


目の前には、幾つかの木。

そして実る・・・桃・・・大神実命オオカムヅミだ。

強い霊力を放つせいだろう、魔物はあまり近寄れないようだ。

餓鬼達も、従魔達も、近付かない。

・・・朧湖ろこは普通に近寄ってるけど。

多分、魔物であり、聖獣である、とかそんな感じなのだろうか。

ずるい。


駄目元で明菜に聞いてみたところ、幸運な事に、場所を知っていたのだ。

稀に此処に来て桃を食べていたらしい。


20個だけ、10個を結界用、10個を地上で育てる用にとり、あとは残す。

此処で大神実命オオカムヅミが全滅したら、洒落にならないからな。


明菜に礼を言い、慎重に地上に向かう。


途中、火巫女達に大神実命オオカムヅミを渡し、屋敷に戻ったのが夜明け前。

明菜(と餓鬼達)にたっぷりと食事を与え──餓鬼でも満足するんだな──、明菜を風呂に入れて・・・そして・・・


朝、俺は使用人の1人、老婆の所へと、来ていた。


--


鞠瑠まりるさん、貴方は昔、うちの屋敷で働いていたと記憶しております」


「はい、左様でございます」


使用人の老婆は、俺の問いかけに、頷く。


「この子に覚えはありますか?」


俺は、明菜を指し示す。


「やはりその子は・・・」


鞠瑠が、目を伏せ、首を振る。


風呂で気付いたのだ。

明菜の胸の下には、月の形の痣が有った。

そう、月読尊に縁のある、俺の家系の・・・証。


「その子は・・・坊ちゃまの妹君にあらせられます」


鞠瑠が、深々と頭を下げる。


「当時の状況を教えてくれるか?」


鞠瑠がこくり、と頷くと、


「当時、第二位の馬剣家、第一位の白谷家に男児がおらず、黒森家には男児がいて、女児はおりませんでした」


鞠瑠が語る内容は・・・予想出来たものだった。


「縁談の話が持ち上がっていましたが・・・そこに・・・妹君が・・・」


妹が出来れば、俺と妹の婚姻が当然で、白谷家との縁談は流れるだろう。


「妹様の母親は、発覚を恐れ、暇を貰い、隠れようとしましたが・・・黒森家に見つかってしまい・・・」


まあ、良くある話なのだろう。

身近であるとは気付いていなかったが・・・


「私は、妹様の母親を逃がした事がばれ・・・しかし、殺されるまではせず、屋敷を追い出されるだけで済みました」


鞠瑠が、明菜を抱きしめると、


「良く・・・良く生きていて下さった・・・」


「・・・私の・・・前のお母様も、私を忌みはしておりませんでしたか・・・」


明菜は、驚き、そして、喜びの声をあげる。


「はい・・・由岐江ゆきえ様は、最後まで・・・貴方様を、気に病んで・・・そして、謝っておられました・・・」


黄泉比良坂に棄てられているとは知らなかっただろうな。


何にせよ・・・


「お帰り、明菜。生きていてくれて、良かったよ」


明菜は微笑むと、


「・・・ただいま、です。お兄・・・様」


ぺこり、と頭を下げた。

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