第33話 増やせますよ

夜。


「なあ、豊寿。この桃・・・簡単に増やす方法は無いか?」


俺と雪華は、一縷の望みをかけ、魔樹である豊寿に尋ねてみる。


「増やせますよ。私が取り込んで、解析、実をつければ良いんです」


もふす


豊寿が胸を張る。

おお?!


「御願い、豊寿ちゃん」


雪華が目を輝かせ、豊寿に桃を渡す。


「分かりました・・・もくもく・・・」


桃をもしゃもしゃ食べる豊寿。


「ふむふむ・・・これなら・・・300年もあれば、たわわに実らせる事が出来ます」


「待てねえよ」


10年から大幅に期間アップじゃねえか。


「え・・・いえ・・・頑張れば200年くらいに・・・」


「欲しいのは今だ」


生きてねえよ、200年後なんて。


雪華が苦笑いしながら、


「はは・・・今必要って言わなかった私達が悪い、かな・・・まあ、どうせ1個じゃ足りなかったし、大丈夫大丈夫・・・」


そう言って、頭を振る。


「・・・今必要だったのですね・・・申し訳ありません・・・」


しゅん・・・とする豊寿。


「いや、俺達が悪かった。すまん」


木の感覚だもんなあ。

300年も、一時なんだろうな。


「あの・・・約束します・・・きっと、そのうち・・・たわわに実った桃を、ご主人様に食べて頂きます・・・」


300年も待てないってば。

そもそも、食べたい訳じゃ無いし。


--


村の人口が激減した。

特に、村長を始め、お偉いさんがごっそりと居なくなった。

戦えない人々も、大半が村を出た。


まあ、そもそも、先祖が帝より命を受け、防人の任にあたっていただけで。

外界に出る機会が有るなら、その方が安全に暮らせるだろう。

外の世界では、この村では望めない、珍しい物も多そうだし。


見回して思う。

むしろ、これだけの人が残ったのが、奇跡だ。


「皆さん・・・私について、残って下さり、有難う御座います」


雪華が、頭を下げる。


「これから先、皆さんには大いに苦労をかけますが・・・それでも、私は、この地を、そして、外界を護りたい。皆さんの力を貸して下さい」


厳粛な雰囲気。

みんなの心は、1つだ。


雪華を信じて残ってくれた人々に・・・何か言わねば。


俺が口を開く。


「口うるさいお偉方は居なくなった。これからは、俺達の村だ。肩の力を抜いて、気楽にやろうぜ」


続ける。


「大丈夫だ。雪華を信じてくれて、正解だ。魔物も、結界も、雪華が何とかする。これまでそうしてきた、それと同じだ」


続ける。


「それより、住む場所は決めたか?今夜何を食べたいか決めたか?お偉方が居なくなったんだ。良い家も、美味しい食料も、たっぷりと余っている。今夜は・・・宴会だ。景気づけにひと騒ぎしようぜ」


わああああああ


歓声があがる。

ノリが良いなあ。


まあ、言ったことの半分は事実だ。

お偉方は立派な屋敷に住んでたし、かさばる食料等はそんなに持っていけない。

分配、かなり偏っていたからなあ。


残った奴等、術具製作、防衛、見廻りで直接指揮してた奴が多いので、そのノリでやってみた。


「宴の準備、防衛、術具製作・・・手分けしてやってしまおう」


悩んでいても、仕方がない。

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