第30話 早起き

弐界相にかいそうが安定期に入ってるじゃないですかあああああああ、馬鹿火林!!!!」


「ごめんなさいいいいいいいいいいいいい」


雪華が声を荒げ、火林が泣いて詫びる。

萌芽期、成長期、安定期、転界期。

魔窟の成長段階にそれぞれ名前がついており、弐界相にかいそうは通常、萌芽期である。

その後放置し続けると、更に成長し・・・尚、転界期になると、次の相を産み出す。

弐界相にかいそうより下とかあったら、村を放棄して、外界に逃げた方が良いんじゃね?


安定期なら、奥まで魔物が詰まっているし、少しくらい瘴気を減らした所で焼け石に水だ。

そして・・・本当に濃い瘴気は奥にあるので、それに侵されれば、火林や雪華でも危ない。


「逃げるぞ!」


「「はい!」」


俺が叫び、2人が駆け出す。

これは・・・無理だ。

もっと大人数で、腰を据えて攻略しないと・・・

もっと強力な術具、呪符を切ってもいいかもしれない・・・


迫り来る濃厚な瘴気に追われつつ・・・俺達は何とか地上へと生還した。


--


タタタタ


夜道を急ぐ。


大規模攻略戦を明日に控え、軽い事前偵察だ。

だが・・・


ゆらり


月灯りの下、浮かび上がる影。

大樹・・・いや・・・龍神池より伸びる影・・・


龍神?!


何故今・・・そうか。

人目を忍んで夜を選んだが・・・ちょうど、龍神の刻に・・・


・・・


いや、まだ1刻は後だよな?


「龍神よ、問おう。伝承によれば、そなたが現れるは早いと記憶しているが」


「然り。今日は早く目が覚めた故に」


時間は守れよ。


「龍神よ、火急の用が有るのだ。通してもらいたい」


「然り。ぬしを阻む気は無い」


良かった。

龍神と戦ってたら、洞窟に辿り着けない。


「かたじけない」


そう言うと、横を走り去ろうとするが・・・


「待ち給え」


呼び止められる。

阻む気無いって言ったじゃん。


「何か、水の守護者よ」


「そなたが落としたのは、この刀か、それともこの矛か?」


落としてないよ?!

刀はちょっと欲しいけど。


「私は、何も落していない」


龍神は驚いた様な顔を見せた後、


「驚いたな。まさか、この時代にぬしの様な正直者がいるとは・・・良かろう、そなたに力を貸そう」


「どういう流れ?!10人に聞いたら、10人が同じ答えを返すと思うぞ?!」


「否。既に99人がこの地で儚き命を散らしている故」


・・・龍神池の伝説・・・認められたら強力な神器を貰える・・・だっけか。


まあ、今は力が欲しい。

断る理由は無い。


「分かった。龍神よ、力を貸してくれ」


「承った。この力、そなたの為に振るおう。だが──」


何か・・・対価を・・・?


「我にも名を与えて欲しい」


龍神よ、お前もか。


朧湖ろこで良いかな?


--


弐界相にかいそう

警戒モードなのだろうか。

入口まで、濃密な瘴気が漂っている。


美海みみと、無垢くろ──病猫やみねこだ──を両肩に乗せ、結界を張ってもらっている。


八幡、禍鹿、豊樹、朧湖も招来済。

朧湖は、存在が魔物に近いらしく、瘴気との相性が良い様だ。


八幡、禍鹿が飛び込み、草履蟲と黄金蟲を蹴散らす。

俺達、地上の者には枷となる瘴気。

魔物にとっては力の源の中で戦う様なものだ。

無論、蟲達にとってもそれは言えるのだが。


普通に歩く様なペースで、魔窟、弐界相にかいそうを進む。

そして・・・


「やはりか」


惨界相さんかいそう

書物でしか読んだ事が無い、未知の領域。

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