第28話 帰ろう

一瞬で飛び退いた火林が、涙目で息を見出している。

舌の根も乾かない内に、怖かったらしい。


「はっ!」


雪華の渾身の一撃。

鉾で貫かれた草履蟲が大口を開け、


ザンッ


俺が横にまわり、脚を切り飛ばす・・・が、バランスは崩れず、


ヴァリ


白蛇の神鳴りかみなり

神力を纏った雷が、草履蟲を撃ち抜く。


キイイイイイイイイイ


草履蟲の超音波。

まずい・・・耳が・・・


ゴウッ


立ち直った火林が、草履蟲を一刀両断にした。

やっぱり、火林の攻撃力は群を抜いている。


ビチ・・・ビチ・・・ジュワ・・・


少し動いていたが、間もなく草履蟲の躰が闇に溶けていく。


「・・・このレベルの魔物がいるのか」


俺は溜息をついた。


--


「・・・火林・・・さん?」


俺は思わず、呻いた。


「火林・・・?」


雪華が、半眼で火林に問いかける。


俺達の視線の先・・・


口を開けるは・・・階段。


「ご・・・ごめん・・・!」


弐界相にかいそう

魔窟が成長したとき、生じる。

初界相しょかいそうに比べ、魔物の強さや、罠の厄介さが、跳ね上がる。

また、黄泉比良坂よもつひらさか程では無いが、瘴気しょうきが漂う為、防護結界が必要になる。

霊力の補充も難しい。


俺は普段の仕事は、術具の作製や、防衛。

雪華は、祭事や魔物の調伏。


探索は火林が陣頭をとって行っている。

魔窟は初期に発見する事が重要で、弐界相にかいそうができるくらい放置は・・・かなりの不祥事だ。


「ご・・・ごめん・・・」


火林が頭を抱える。


「まあ、待ちなさい」


白蛇が割り込む。


「馬剣の魔女殿を責めるのは酷かも知れぬ・・・この魔窟、特性持ちではないですか?」


「特性・・・!」


呻く。

まさか・・・


「特性・・・隠形?」


雪華が確認する様に呟く。

こくり、白蛇が頷く。


極稀に、特性を持った魔窟が出現する。

例えば、力が強い、であれば、魔窟の成長が早く、火力が高い魔物も多い。


隠形は、最悪の特性で、まず魔窟が見つけ辛い。

出てくる魔物も、隠形持ちが多い。


「昨日の独眼餓鬼・・・」


「ああ、多分そうだ」


雪華の呟きに、答える。

恐らく、この魔窟の弐界相にかいそうから出てきて、そのまま外に出たのだろう。

あの強さも頷ける。


となると・・・


「やはり探索は、火林ではなく俺が」


「術具製作は無理いいいいいい」


火林が叫ぶ。


うちの村の上位陣、何故か脳筋が多くて、術具製作はみんな苦手なんだよな。

俺はまだましな方なので、俺が担当する事になった。

で、術具製作をする者が、伝統的に防衛の責任者になるので(村に残るからね)、俺が術具製作と防衛をやっているのだ。


「長老に進言しよう。探索は1日置きとし、俺が術具製作と探索を交互にみよう。で、火林達は防衛力を強化してくれ。最近魔物が増えているからな・・・村の防衛線を突破され、外の世界に魔物が行けば・・・洒落にならん」


ただの雑魚、悪鬼が、外の世界に行けば災厄となっている。

外の世界で戦える者は稀だし、そいつらも、うちの村の子供に負けたりする。

そのへんを這っている草履蟲ですら、世界を滅ぼせるかもしれない。

草履蟲に滅ぼされる世界ってやだなあ。


「・・・それなら・・・」


火林が頷く。


「では、私から提案しますね」


雪華が微笑む。


「うん、宜しく頼むよ」


俺が言っても聞かないからなあ。


さて。


「行くか」


穴の中に、光を投げ込み・・・


うぞ・・・うぞ・・・


「帰ろうか」


「「駄目」」


俺の提案を、雪華と火林が却下した。

弐界相にかいそうは・・・草履蟲が群れをなしていた。

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