第27話 草履蟲

長老が去って行く。

火林が舌を出して見送る。


さて。


「お疲れ様、龍生、巫女様。今日は2人でゆっくりできたの?」


「ああ、有意義な休日だったよ」


雪華が、呻く。


「火林・・・黒くて大きな猿の件なのですが」


「うん?あれ、探しに行ったんですね。どうでした?」


「変異種の独眼餓鬼でした」


ぶっ


火林が噴き出す。


「独眼餓鬼って・・・聖獣級の強さじゃない!よりによって魔窟が出ている時に・・・どっちから対処すれば・・・」


「もう倒したぞ、巫女様が」


火林が絶句する。


「聖獣級を単独討伐・・・本当に巫女様はお強いですね・・・」


畏怖を込めて、火林が呻く。


「ははは・・・」


雪華が苦笑いした後、恨みがましい目で俺を見る。

俺が倒したって言うのは不自然なので、大抵、雪華がやった事にしている。


尚、雪華に比べて俺が圧倒的に強い訳では無い。

単純に、数の話だ。

雪華の白蛇と、俺の八幡は、恐らく互角。

が、俺は他の従魔を同時に戦わせられるので、総合力としては数人分になるのだ。


「巫女様、以前は魔窟を単独解消されてましたし・・・」


火林がうっとりとして言う。


「ははは・・・」


泣きそうな目で、雪華が俺の方を見てきた。


--


魔窟。

瘴気渦巻く入口を通り、中を進む。

昨日調査しているので、入口付近に魔物や罠は無い。


俺、雪華、白蛇、そして火林と、火林の式神である炎鬼──中身が炎の甲冑だ。


「このあたりは昨日掃討したわ。もう少し進めば、魔物が出ると思う」


火林が告げる。


「魔物の種類は、特徴有りましたか?」


草鞋蟲わらじむしが多いですね」


雪華の問いに、火林が答える。

草鞋蟲は、平たく、多足の昆虫型魔物だ。

一抱え程の大きさが有り、力が強く、毒を吐くものもいる──まあ俺達には雑魚だ。


「昨日はこのあたりで帰還したんだ・・・死者が出たからね」


火林が、鞄から花を取り出すと、地面に置く。

雪華が祈る。

俺も、黙祷する。


地上や、この程度の魔窟であれば、死んでも輪廻りんねの環に戻れる。

死体をちゃんと地上に持ち帰り、弔えば。


黄泉比良坂よもつひらさかや、黄泉よみの国で殺されれば、場に捕らわれる──魔物となる可能性が有る。

地上で死んでも、一時的に黄泉の国に送られる事は有るのだが、それとは話が別だ。


もきゅもきゅ


草鞋蟲が這って来て、花を食べる。

こいつは・・・


「もう湧いたのかい・・・昨日あんなに倒したのに」


火林はそう言うと、手を前に出し、


「招来、炎刀」


火林の手に、炎の刀が現れる。

格好良い。


火林は、火の術を好む。

魔物には効果が高いのも有るのだろうけど。


「招来、天沼矛天沼矛


雪華が召喚したのは、神器・・・の影器えいき

実体では無いとはいえ、その力は圧倒的。

まさに、地上最強。


既に喚ばれている白蛇も、大口を開ける。


俺は・・・武器は抜かない。


「はっ!」


火林の一撃で、草履蟲が破砕、


ギイイイイイイイイ


断末魔の声をあげ、躰が闇に溶けていく・・・


そして。


進む度、影から、時には天井から、次々と草履蟲が現れる。

草履蟲で警戒すべきは、その数。

多いときには、2桁近く相手にする必要がある。


「付与、鈍足」

「付与、衝撃」

「招来、雷」


俺は、小手先の術を行使して、雪華、火林のサポートにまわる。

俺は得意な術が無く、威力も低いが、代わりに行使速度が早く、霊力貯蔵量が多い。


「やっぱり、この3人だと早いね。昨日のペースとは比べ物にならないよ」


火林は満面の笑顔で俺と雪華を見て、告げる。


「もう、何も怖くない」


ガサ


火林がいた場所に、変異種の草履蟲が落ちてくる。

隠形か・・・!

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