第26話 魔窟

ガッ


独眼餓鬼の首筋に、八幡が噛みつく。


がああああああああ


独眼餓鬼が棍棒を召喚、八幡に殴りかかる。

躱す八幡。


「も・・・もう、油断しないんだから・・・招来、白蛇しらへび!」


白蛇、8首の神蛇で、雪華が最も信頼を寄せる聖獣だ。

雪華の力の源でもある。

導きの蛇。


「応、巫女殿、お下がり下さい」


白蛇が、独眼餓鬼と雪華の間に割り込む。


があっ


独眼餓鬼が八幡に殴りかかり。

八幡が躱し、


ゴウッ


炎を吐き、独眼餓鬼を包む。


ボフッ


棍棒を振り、炎を払い飛ばす。


ガッ


背後に回った八幡が、雷を吐き出し、独眼餓鬼を撃ち抜く。


独眼餓鬼が足を踏みしめ、棍棒を振りかぶり、


ドスッ


美海が独眼餓鬼の足元を消し、独眼餓鬼がバランスを崩す。

そして──


ゴウッ


八幡の突進が、独眼餓鬼を貫いた。


ジリ・・・


独眼餓鬼の体が綻び・・・闇となって・・・消えていく。

死んだのだ。


「・・・何とかなったな・・・」


八幡と、美海の頭を撫でてやる。

・・・


ふと見ると。

雪華と、白蛇がばつが悪そうにしている。

いや、2人とも、威圧とか、立ち回りを封じとか・・・きっと貢献してたと思うよ。

俺こそ、何もしてない。


--


適当に獲物を狩り、村へと戻る。

従魔は、村の近くで帰らせる。

見られても致命的問題では無いのだが、隠せるなら隠した方が良い。


「陽の巫女様、お帰りなさいませ。月の魔士、ご苦労」


長老が出迎える。


厳迅げんじん殿、村の中が慌ただしいが、何かあったのでしょうか?」


「魔窟が見つかったのだ。今は火林達が先行して探索している。明日はそなたにも行ってもらう」


長老が答える。


魔窟、異界から来た魔素が、洞窟等に根付き、異界化を起こす現象。

地脈が侵され、霊力が失われる。

恐らく、神桃が採れなくなっている原因も、そのあたりだろう。


「魔窟・・・ですか。優先的にあたるべきですね。私も、明日は魔窟に潜ります」


雪華が宣言。

長老が恭しく礼をする。


魔窟かあ・・・

正直、俺は役に立たない。

俺自身の技術云々より、共同作戦というのが痛い。


雪華と2人や、俺だけなら、従魔にやってもらうのだが。

共同作戦で従魔達に自由にやらせると、流石に式神じゃないとバレる。


俺単独では、運だけで当主になった、との評そのままの実力だ。

正直、4位、5位の当主、馬剣家の火林の姉、達にも負ける自信が有る。


・・・夜にこっそり単独で潜って潰した事なら有る。

後で雪華に凄く怒られた。


収穫してきた獲物は、1度村の倉庫に入れられた後、少しずつ分配される。


俺の一族には、序列4位や5位の一族より、分配量が少なかったりする。

まあ、自分で夜とかに採ってきて補充してるんだけど。


「龍生!」


向こうからやって来たのは──火林。


「これは、馬剣の魔女殿、ご機嫌麗しゅう」


「・・・何でそんな言い方・・・ああ、ジジイがいるせいだね」


火林が半眼で呻く。


「じ、ジジイとは、何事か!」


長老が叫ぶ。


「長老様、そろそろ分配をして頂かないと・・・」


雪華が、困った様に言う。


「・・・そうですな。馬剣の魔女、そして月の魔士よ、此度の件は、後日とするからな」


何故俺まで。

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