第24話 改心

村から離れると、雪華がぴっとりと横にくっついてくる。


「龍生。もう村から離れたのですから、そろそろもっと寄ってくれても良いでしょう?」


「・・・雪華、俺との力量差は知っているだろ?この高速で、そこまで絶妙なコントロールなどできん」


呻く。

速度と方向維持するだけで限界だよ。


「それで、何か目的が有るのですか?」


「火林が、大猿を見たらしい」


「ふーん・・・また逃がしたのですね?まあ、仕方ないですね」


「その分、俺の何倍・・・下手したら何十倍の力を発揮できるからな。むしろ・・・なんで火林は、魔物との遭遇率が高いんだろうな・・・」


「運命力と、気配察知力と・・・そんなところでしょうか」


多分、逃がして一番口惜しいのは火林だろうなあ。


魔樹まじゅ

隔離世から運ばれた種に寄生された、憐れな木。


ザンッ


横を駆け抜け様、居合いの剣にて切っておく。

気付かぬうちに絶命しただろう。


俺なら余裕で倒せるが、村の者が遭遇したらかなり骨が折れる。

ちなみに、外の世界の民であれば・・・そも、存在に気付く時間すら与えられないまま、その命を散らすだろう。


さて、先を急──


ひしっ


何かが俺の衣の端を・・・というか、殺した筈の魔樹が俺の衣を掴んでいる。


「お待ち下さい」


・・・


「お前は、確かに今殺した筈だが・・・?」


「然り。ご主人様に殺されて生まれ変わりました。これからは、世の為、人の為、働こうと思います」


・・・


くすり。


雪華が笑う。


「龍生、またやったのですか?」


雪華が笑いながら告げる内容。

俺は・・・魔物を調伏、または殺した後、何故か懐かれる事が有る。

そうなると・・・トドメを刺し辛い。


懐かれる、と言っても、契約が交わされるわけでも、呪が刻まれる訳でもない。

何故懐いているか分からないので、いつ裏切るかも分からない。

非常に微妙な状況なのだ。


使役。

人外の力を借りる技。


雪華が操る、聖獣。

俺達、魔士、または魔女が操る、式神。


聖獣は、神の使いの獣だ。

式神は、霊験あらたかな依代を造り、そこに霊獣に宿って貰う方法。


・・・

魔物を直接使役するなど、聞いた事が無い。


「・・・分かった。人目がつかない場所で命令あるまで待機せよ」


多分、命令しないけど。


一応、村の人には、俺が作った式神と言う事にしている。

真実を知っているのは雪華だけだ。

あまり式神の数が多いのもおかしいので、普段は村の人に見つからないよう、村から離れた場所で隠れさせている。


のそり


人面鹿──禍鹿かか

鹿の頭の反対側に人面がついている。

夜に見ると怖い。


「・・・図ったように出てきたな、駆勝かか。案内を頼めるか?」


群れで孤立していた奴、見逃そうとしたら懐かれたのだ。


「分かりました」


駆勝が頷く。


「ご主人様、私にも名前を」


魔樹にひっしと衣を掴まれる。

またか。


豊寿ほうじゅ、で良いか?」


「豊寿・・・素晴らしい」


気に入ったようだ。


豊寿と駆勝が去って行く。


「また増えたのですね。今の禍鹿も知らないですし・・・そろそろ100柱超えましたか?」


「まだ数体だよ・・・」


2桁もいっていない。

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