第21話 実は超能力者?

「力に触れる事で、お兄様が記憶を取り戻すきっかけになるかも知れません。今後も、お兄様と陰陽の修行に励む事を許可します」


雪華が胸を張って言う。

おいおい。


「それでは、当面の目標として、見不蜘蛛みずぐもの調伏を目指してはどうでしょうか?」


犬の提案。

あの蜘蛛か?

めちゃくちゃ強そうだったんだが。


「鏡面池は禁足地。アレは放置しても被害は少ないのですが」


雪華が思案気に言う。


「まあ、達成度の確認としては悪くないですね。急ぐ必要も無いですし」


雪華が微笑む。


「いや、昨日、侵入した人達を喰ってたぞ」


「どっから侵入したんですかっ」


雪華が突っ込む。

フェンスを壊してです。


「・・・そう言えば、フェンスの事、親父に伝えないと」


電話を取り出し、父親と会話。


「あ、親父か?俺、俺だよ。うん、そう、息子。うん、で、また例のフェンスが壊されて・・・うん、鉄道沿いの湖の所の。うん。うん」


ついでに、蜘蛛の事聞いてみるか。


「うん、それで、蜘蛛・・・うん、なんかいたな。で、その蜘蛛、懲らしめても良いのか・・・うん、無理はしない、出来れば・・・うん」


親父も普通に蜘蛛って受け入れてるな。

やっぱり、うちの家系も由緒正しい厨ニ病・・・


「え、うん、うん。今週末?うん。結納?いや、まだそこまでは。うん、いい加減な事はしないよ。うん。じゃあ、今週末に連れて行けば、うん、分かった」


ぷつ


電話を切る。


「蜘蛛、倒しても──」


「お兄様あああああ、最後の話何ですかああああああああああああ???!」


え。

何で一番どうでもいい、最後の話に食いついたの?

明らかに、真ん中の話が重要だよね。

今必要なのは蜘蛛を倒す話で。


「龍生、最後の話について詳しく」


何で明菜まで?!

・・・ああ、明菜は関係者だったな。


「明菜、今週末ちょっと付き合って欲しい。実家に挨拶に行くから」


「挨拶・・・う、うん。行く、行くわ」


ぶんぶん、力強く頷く明菜。

恐らく、演技仕切る事ができるかどうか、不安なのだろう。

大丈夫だと思うけどね。


「何でですか・・・縁は私としか結ばれない筈なのに・・・何で因果が・・・というか・・・魔女、よりによって貴方が邪魔してどうするんですかああああああ」


雪華が良く分からないワードを叫んだ。


--


集中。

揺蕩う、水のイメージ・・・


「オン・・・ソワカ・・・シモレ・・・」


手の平の先に・・・水の・・・刃・・・

真っ直ぐに飛び・・・


パシッ


2メートル先に吊るした和紙のリボンを、切り裂いた。


ぽとり


くくりつけてあった石が落ちる。


陰陽?の修行。

何で実際に紙が切れたり、石が落ちたりするんだ・・・

俺の常識ががんがん侵食されている気がする。


「流石龍生ね、飲み込みが早いわ」


明菜が感心して言う。


「流石お兄様です!由緒有る白谷家の家系で有りながら・・・黒森家の陰陽までそのレベルで扱うとは・・・!」


雪華が飛び跳ねる。

この手品・・・これが他人がやっているのなら、関わらないようにすれば済むのだが・・・

残念ながらやっているのが自分というのが辛い。


今この場であれば、雪華が何かやっているという言い訳もつくが・・・

俺1人の時に試してもやっぱりできてしまうので、誠に遺憾ながら、俺が何かやっているようだ。


実は俺って厨二病とか関係無しに超能力者なのでは・・・はっ。

危ない危ない。

危険な思想だ。


俺まで沼にはまってどうする。

今は雪華を助けないと。

いや、せめて折り合いだけでもつけば・・・


「龍生殿、そろそろ出かける時間なのでは」


白蛇が首を傾げつつ、告げる。

そうだった。

朝の10時に実家・・・そろそろ出ないといけないな。


「よし、そろそろ行こうか」

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