第16話 炎上

「あの坊ちゃんが彼女を連れて帰ってくるとは・・・いやいや、お祝いの準備をしてきますえ」


違う、そうじゃない。


「いや、待ってくれ。今日は可愛い彼女の顔合わせに戻った訳じゃないんだ。うちの歴史を調べるのが目的でね。泊まる予定もないし、早く調べて早く出るよ」


「そうですかえ。では、また今度、改まって来る時に、事前に連絡を御願いしますえ」


ぺこり、と火巫女がお辞儀する。

多分来ないけど。


「その時、改めてご挨拶させて頂きます」


明菜が深々と礼をした。


--


「本当に無いわね、書物・・・」


明菜が困った様に言う。


資料は、良く整理されている。

だが、新しい物でも明治時代。

定期的に神社が炎上するせいだ。


「まあ、あと数十年は燃えないけど、それでもやっぱり、その度に歴史は失われるな」


「えっ」


俺の発言に、明菜が困惑の声を漏らす。

あれ?


「どうした、明菜?」


「まるで燃えるのが決まっている様な言い方だったから・・・」


「決まってるぞ?」


「えっ」


あれ?


「祭神の関係だな。定期的に燃えるんだ。対象は、神社と、書物や祭具等・・・待避させておけば被害が拡大するだけだから、諦めるしか無い」


待避くらいさせてくれよ。


「それはまた・・・厨二の匂いがするわね」


「・・・言われてみれば変だよな・・・」


明菜の指摘に、頷く。

俺の家系も、先天性厨二症候群なのかも知れない。


「そう言えば・・・龍生の神社、白谷神社って、祭神は何なの?」


「不明、だな。伝承が途切れているから、何を祭っていたのか分からない。唯一分かっているのは・・・太陽神って事だけだな」


「えっと・・・それだけ分かっていれば、1柱に候補が絞られるんだけど・・・」


明菜が困った様に言う。

そう思うだろ?


「日本の神様、なら確かに、天照大神で決まりなんだが・・・日本の神様とは限らないかもしれないんだ」


「・・・なるほど・・・」


明菜が頷く。

日本以外なら、太陽神はいっぱいいる。


「あれが縁の物の1つらしいんだが・・・」


指さした先、戸の様な形になった岩。

扉は、レール等があって動く様な代物では無い、ただの岩の板だ。

扉の先はちょっとした空間になっている。


「岩戸が神話に出てくる神様なんていないしな」


「もう決めて良いんじゃ無いかなあ・・・」


明菜が困った様な声で言う。


結局、ヒントになりそうな書物は見つけられなかった。

これは・・・明菜の家の蔵を調べていた方がましだったかも知れない。


「そろそろ終電が危ないわ。戻りましょう」


「そうだな」


暗い夜道、月明かりを頼りに参道を降りる。

・・・危ないな。

スマホのライトでもつけるか?


「ライト!」


明菜が目の前で印を結ぶと、明菜の目の前に明るい光の球が現われる。

足を踏み外しかけていたので、助かる。


「このあたりも、最近は魔物が少ないとは言え・・・やはり光が強いと安全だよな」


「魔物?!」


俺の言葉に、明菜が叫ぶ。

あれ?


「いや、滅多に出ないよ」


「出る事が有るの?!」


明菜が更に食いつく。

あれ。

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