第17話 一般的な犬

「・・・あ、いや、魔物っていうのは語弊が有るな。俺が勝手に魔物って呼んでいるだけで、実際にはただの山の獣だ」


「・・・なるほど、びっくりしたわ」


今日は超常現象を色々体験したせいか、普段なら聞き流せる単語でも、誤解を招く。

そうだよな、普通はびっくりするよな。

魔物、って俺が勝手に呼んでいるのは、猿の顔をした6本足の獣だ。

この山以外では見かけないから、多分固有種なんだと思う。

赤い奴は火を吐くので、案外、神社が定期的に燃えるのは彼奴らのせいじゃないかと思う事が有る。

呪いとか、そういった類いと考えるよりは、地域固有の動物のせいって考える方が分かり安い。


山道を降りると、先程の犬が待っていた。

目は2つ。

隠蔽したのか、さっきのが幻覚なのか。

何にせよ、なんの変哲も無い、ただの犬だ。

犬が、語り始める。


「お嬢様、龍生殿、お疲れ様でした」


「喋ったあああああああああああ?!」


明菜が叫ぶ。

え、俺が驚くならともかく、明菜が驚くの?


犬は、ちらっと明菜を一瞥すると、再び俺に向き直り、


「ご主人様、零詠殿の御命令により、龍生殿に御助力させて頂きます」


「お父様の?!」


明菜が再び声をあげる。


「待ってね・・・今お父様に電話して確認するわ」


シャキ


携帯を取り出す明菜。

ガラケーだ。


「ちょ、お待ち下さい、お嬢様!」


犬が器用にガラケーを奪い取ると、慌てて止める。

ん?


「ちょ、何するのよ?!」


「確認なんて・・・不要じゃ無いですかね?」


ん?

確認されるとまずいのか?


「何でよ。そもそも喋る犬なんて見た事が無いし、此処で助力につける流れも不自然だわ。真偽と、意図を確認しないと・・・」


「陰陽師らしく、念話を使えば良いでしょう?!だいたい、今時ガラケーって、恥ずかしく無いんですか?!」


「ガラケーはガラケーで便利なのよ!」


そもそも、明菜、スマホも持ってるよな。


「何故念話を推すんだ?」


俺が尋ねると、


「念話の方が改竄し安いじゃないですか!」


犬がさも当然といった感じで言う。

改竄って言ってるぞ。


デロデロデロデロデーロ


何かが消えた様な不吉な音が、明菜のガラケーから鳴り始める。

犬が、そっと明菜にガラケーを返す。


「もしもし・・・お父様・・・え、犬をお供につけた・・・?理由は・・・魔物から身を守る為・・・?!お父様、魔物なんて非現実的な・・・何よ、その抑揚の無い回答は。まるで洗脳されたかの様な・・・うん・・・洗脳されて無いなら良いですけど・・・はい・・・え・・・学校に通い続ける条件?!そんな話・・・え、付き合いを認めるって・・・ううう・・・と言うか、何時もより受け答えが聡明なのですが、本当に操られては・・・え、ま、待って下さい、わ、分かりました、認めます、認めますから」


ぷち


電話を切る明菜。


「・・・何かおかしい気がする・・・」


電話を切った明菜が、溜め息をつく。

・・・何か起きているのだろうか・・・


だが、まあ、目の前の犬からは、邪気は感じないんだよな。


何とか終電に乗り込み、明菜のマンションへと向かう。

喋る事、大きい事、俺と明菜以外の人に見えない事、壁をすり抜ける事を除けば、一般的な犬を連れ、1時間弱の乗車。

犬、すげーもふもふする。

顎の下をモフっていると、時々目が増える。

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