第12話 良いって言ったよね

結局、2時間目には、雪華は自分の学校に帰っていった。

高校生の授業はやはり難しかったらしい。


お昼休み。


「龍生、雪華ちゃんだけど・・・」


明菜が困った様に、言う。


「ああ・・・厨二力だか何だか知らんが・・・強力極まり無いな。魔法とかその類いじゃないのか・・・?」


「自分の価値観を世界に押しつけて、無理矢理上書きしているだけなんだけどね・・・その力が強すぎるせいで、凄い現象が起きてるよね・・・」


2時間目帰るとき、空を飛んでいったしな。


明菜は、少し考え込むと・・・意を決し、俺をじっと見てくる。


「龍生・・・聞いて欲しい・・・実は・・・」


明菜は一呼吸すると、


「実は・・・私の実家って・・・重度の厨二病を煩っているの・・・」


放課後。


がたんごとん


俺達は、電車に乗っていた。

明菜の実家・・・そこで、厨二力の修行をする事になった。


いや、凄く気が進まないんだけど・・・


「先天性厨二症候群・・・私の家系は、一生癒えない厨二を煩って産まれるの・・・」


明菜の話は驚きの話だった。

日本にも幾つか、外国にも幾つか・・・確認されているらしい。

その一族は、自分に特異な能力が有ると、錯覚する率が非常に高いらしい。


「多分、なんだけど・・・龍生、貴方の家系も結構古いでしょ?」


「・・・ああ。確かに、俺の家は、結構古い家系だ」


「なら・・・貴方の家系も、先天性厨二症候群を煩っている可能性が有る、わ」


「聞いた事が無いがなあ・・・」


自分に超能力が有るとは思わない。


「例えば・・・あそこに何か見える?」


指をさした先。

綺麗な湖の上に、大きな蜘蛛が日向ぼっこをしている。


「蜘蛛がいるだけかな」


「そう・・・一般の人には、雲が映る綺麗な湖にしか見えない・・・でもね、私には、視えるのよ」


明菜が、憂鬱とした声で言う。


「はっきりと見える訳ではないわ。でもね、もやが掛かったような・・・そう・・・脚の多い・・そう・・・蜘蛛の様な・・・」


蜘蛛が居るからな。


「気持ち悪い、って思った?」


明菜が尋ねる。

蜘蛛がやあ、と手を振ってくる。


「いや、むしろ可愛い、かな」


愛嬌がある。


「なっ、可愛い?!」


明菜が大声を上げる。

・・・え、蜘蛛苦手?


「あ・・・有り難う・・・」


御礼を言われた。

可愛いよね、蜘蛛。


山に近づくにつれ、霧が濃くなってくる。

空気が・・・甘い。


「此処で降りるわ」


明菜が宣言する。


「俺の実家の近くだな」


ご近所さんだったのか。


明菜がぎょっとする。


「・・・このあたりには、旧い家が多いから・・・やっぱり、龍生の家も、名家かも知れないわね」


「あの白谷神社だな」


「地主じゃない!」


明菜が叫ぶ。


地主だな。

別にお金持ちでは無いけど。


「とりあえず・・・私の家はこっち」


「え」


明菜が向かう方・・・そちらは・・・


「黒の森・・・禁忌の地・・・入っちゃいけない場所だよな・・・?」


「まあ、私有地だし、許可なく入っちゃダメよね?今は私が許可するから大丈夫よ」


やべ。

黒の森に入るとか、すげーわくわくする。


ん。


異界に踏み入れた様な違和感。

何か・・・境が・・・有る。


その境の内側に入ると、更に甘い空気が強くなる。


此処が・・・黒の森・・・!


「え、何で入っちゃったの?!というか、何で入れるの?!」


明菜が慌てて叫ぶ。

え、入って良いって許可くれたじゃん?

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