(46)湯治場という温泉

 BGMは、木村弓で「いつも何度でも」です。

 https://youtu.be/9O4SMw_8Om0



 元々温泉は怪我や病気を治癒するために入られてました。傷ついた動物が入ってる所から、温泉が発見された所もあるぐらいですからね。


 従って、温泉と言えば湯治場。私も湯治に行った事があります。



《温泉 その22》長湯温泉(大分県竹田市直入町長湯)


 30歳を越えた頃に私は所謂「心臓病」にかかったことがあります。それで仕事も少し休んでました。

 ほんで、「心臓に良い温泉は無いかなぁ」と探してみました。

 そうすると炭酸泉がどうやら心臓にイイみたいなので更に探して見るとありました。

 大分県の直入なおいりって全く知らない所にあった長湯温泉(炭酸水素塩泉・二酸化炭素泉)。早速行ってみる事にしました。



 当時、長男が生まれてまだ嫁さんの乳を飲んでた頃。


「もし、あんたがいいひん間に地震でも来たら恐い」


 と嫁さんが言うてましたが、


「そんなにしょっちゅう地震なんて来るかいなぁ」


 と言いながら夜、家を車で出ました。久しぶりの一人旅に意気揚々と阪神高速を走ってると、運転してても分かる位の揺れが来ました。地震です。

 私は直ぐに家に電話を入れました。


「ほら、地震来たやんか」


 と嫁さんに怒られました。あはは。


 仕事を休んでたので余りお金を掛けたくなかったので、阪神高速で神戸まで行ったら、そこから先は延々と国道を走って行きました。


 車の中で野宿をしながら、2日後の夕方に直入へ着きました。


 長湯温泉は、芹川沿いの山間部に温泉旅館やホテル、共同浴場がいっぱいあります。結構古い木造の旅館が目立ちました。夕方で電気の灯りが漏れ、まるでアニメ「千と千尋の神隠し」の風景の様でした。


 その中で特に目立ってたのは長湯温泉のシンボル的存在の温泉療養文化館「御前湯」。洋館風の3階建ての共同浴場。2月の寒い時期に行きましたから、そこから漏れる灯りと湯煙が、遥々やって来て、やっと見つけてホッとしました。早速入ってみました。


 長湯温泉のお湯の特徴はなんと言っても「炭酸ガス」。要するに、最近流行ってる炭酸水の温泉です。別名「ラムネ温泉」。

 体内に吸収されると毛細血管を拡張し、血液の循環を良くするので私の病状にはピッタリです。


 まぁそこまでの行程が心臓に負担を掛けたのは承知の上ですが、その分たっぷりと温泉を味わいました。


 御前湯は、1階と3階が大浴場になってて、奇数日・偶数日で男女が入れ替わります。内湯と露天風呂にサウナもありました。冷泉もあり、全部炭酸水素泉です。勿論源泉かけ流しで、気温に拠って温度も変わります。私が行った時は然程熱くなく、看護師や保健師も常駐してると言うことで、安心してゆっくりと長湯できました。

 無料の休憩所もあり、泊まるところが無い私は閉館まで休憩と入浴を繰り返しました。

 その日の晩は、車の中で登山用のシュラフ(寝袋)で寝ました。


 次の日は、外湯巡りならぬ共同浴場巡り。町中に点在する幾つかの温泉に入りました。入浴料はなんと100円。ちっちゃなほんまに「町の公共浴場」って感じです。

 入ってみると中は地元の人でいっぱい。いいお湯に浸かりながら地元のおじいちゃんと楽しい交流ができましたね。


 町の中を車で走ってると飲湯も見つけました。ホンマに道端に湧き水のように炭酸の温泉が湧いており、いつでも飲めるようになってるんです。

 シェラカップで汲み飲んでみると、ほんまに炭酸水です。しかも温かい。少し鉄分が含まれてるのか、鉄の味がしました。もう一杯汲んで、それに持参の砂糖を入れて飲んでみましたが、ラムネにはなりませんでしたね。あはは。


 私は入りませんでしたが、芹川の中に「ガニ湯」という露天風呂があります。脱衣所もない混浴です。可愛い女の子が入ってたら入ろうと思ってましたが、何分待っても誰も入らないので、私も諦めました。でへへ。


 町では「日本一の炭酸泉」と銘打ってますが、これは「炭酸ガス濃度、湧出量、湯温」の総合的に見て日本一だそうです。


 因みにここ長湯温泉にも、文豪・川端康成が訪れてすそうです。やっぱり来てますねー。




 湯治場と言う事でもう一つ。



《温泉 その23》玉川温泉(秋田県仙北市田沢湖玉川)


 秋田県の東北部。田沢湖から北に行った山奥にある玉川温泉(酸性-含二酸化炭素・鉄(II)アルミニウム-塩化物泉)。


 学生の時、バイクレース使う為にホンダの「CBR400RR」と言うバイクを新車で買い、慣らし運転を兼ねて北海道まで行った時に入りました。


 田沢湖で泳ぎ、その後近くの活火山・秋田駒ヶ岳(標高千六百三十七m)に登りました。山頂からの眺めがいいかなと期待して硫黄ガスの中を登って行きました。山頂に着くと急に風雨が強くなり身体は水浸しに。夏でしたが寒くて凍えてましたね。

 山の麓には「乳頭温泉」なる所がありましたが、「乳頭」と言う所から、勝手に如何わしい事を想像し、そこに入ること無くバイクを北に走らせました。


 勿論雨の中です。水泳と登山の疲労と、雨で体温を奪われた私は、国道341号沿いの山中に「玉川温泉」という看板を見つけました。


「温まって疲れを癒そう」


 そう思った私は直ぐに温泉の受け付けに入ります。


「温泉に入りたいのですが」

「何日お泊りですが?」

「いやー、温泉だけ入りたいんですが」

「そうですかぁ……」


 どうやら今で言う「日帰り入浴」はやって無かった様です。そう、ここは長期滞在して病気を治癒する「湯治場」だったんです。道理で看板も建物の作りも質素でした。リゾートを楽しむ様な雰囲気でもありませんでした。


 それでもドボドボヅクヅクの僕の身なりを観たおじさんは、


「湯治場だけどいいかい?」

「はい。温泉ならなんでも」


 と言う事で、格安で温泉に入れてくれました。


 案内された浴場の建物は木造でかなり古い感じでした。それもなかなか味があってええ感じでした。秘湯に来たみたいですね。勿論館内は爺さん婆さんばっかりです。若い女の子は一人もいませんでしたね。ははは。


 その建物の中には小さな個室が沢山あり、共同の自炊場まであります。湯治場が初めてだったんで何もかも興味津々です。


「なるほど。これが湯治場かぁ。自炊して長いこと滞在するんやなぁー」


 と、いろいろ見学してました。普通の温泉旅館に泊まるより料金も結構安かったですね。素泊まりも出来て、普通は最低でも1週間は泊まるみたいです。


 さて温泉の方でが、成分表を見てびっくり。「pH1.2」と書いてました。強酸性ですよ。自分の目を疑って何度も見返しましたがやっぱりそうです。日本一の酸性だとか。

 源泉温度も98度。湧出量は毎分九千リットルでこれも日本一。しかもラジウムから出る放射能も含まれてるとか……。長湯は厳禁で5分が限界だとか。


「凄い温泉に来てもたなぁー」


 と思いながらも温泉に浸かります。硫黄の匂いがきつく、「The温泉」って感じでした。木造の浴場は古く、いたる所に温泉成分が付着・固化して歴史を感じました。

 一応5分を目安に何度か入って休憩を挟み、1時間程温泉を堪能してまた雨の中を出発しました。


 現在は建物も新しくなったそうですが、やっぱりメインは長期滞在の湯治だそうです。


 ある意味、貴重な体験でした。

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