(22)アルバイト

 今日はネタがいっぱいあるのでどんどん行きます。


 BGM↓は、馬場俊英で「ラーメンの歌」です。

 https://youtu.be/EDYLpt4MXeM


 京都は僕が通っていた大学の近くの路地裏に「宇奈月」っていうラーメン屋がありました。

 僕が初めて冬山登山に挑戦する前夜、ワンゲル部の先輩に「遭難しても悔いが残らん様にめっちゃ美味いラーメンを食べさせたるわ」と脅されながら連れて行かれました。そこは代々ワンゲル部員がアルバイトを継いでいました。僕も先輩が卒業した後にそこでバイトをしてましたね。


 ここの大将が富山県の宇奈月出身という事で「宇奈月」という名前です。因みに、拙作「広く異国のことを知らぬ男」で2回出てくる「ラーメン黒部」のモデルです。


 僕が1回生2回生の頃は、めっちゃ美味しいラーメンにも関わらず知名度が低かったんでしょう、ランチタイム以外はいつもガラガラでした。

 大将は、


「京都で3番目に美味しいラーメンなんやけどなぁ」


 と言うてました。ほんなら1番と2番はどこやろうと思いましたが、それは聞けずじまいです。


 大将はラーメン屋をする前に、京都の有名ホテルのコックとして和洋中の料理の修行を積んでました。ですからラーメンを「セット」にすると、日替わりの押し寿司が2切れ付いてきます。


 小さなラーメン屋やのに、厨房にはでっかい冷蔵庫があります。中にはラーメンの具材では無く、大量の魚介類が入ってます。大将が毎朝、市場で仕入れてました。そやしメニューには、いろいろなお造りなんかもあります。


 とこが客は来ませんから定休日前の夜、閉店間際に行ってラーメンを食べ終わると大将は、


「500円でええしカニ食べない?」


 と言うて大きな渡りガニを出してくれた事もありました。


 また、ほんまに客が入らへん時は、


「何でも作るし言うてや」


 と大将が言うので、ワンゲルの先輩はふざけてメニューに無い、


「ほんならうどんをお願いします」


 と言うと、大将は昆布とカツオ節から出汁を取って本格的京風うどんを作ってくれました。めっちゃうまかったんやけど、ラーメン屋やのに冷蔵庫にメニューに無いうどんの麺があったのはびっくりでした。


 他にもメニューに無い「チャーハン」とか「湯豆腐」とか、「シチュー」なんて頼んでみても、ちゃんとしたものが出てくるんですよ。

 因みにバイトをしてた時の賄いは、「鉄火丼」かウニとイクラとイカの「海鮮丼」を食べさせて貰ろてました。


 そんな店でしたが、3回生頃から口コミで「お造りも食べられる珍しいラーメン屋」やと噂が広がり、次第に客足が増えます。

 いっぱい飲みに行ってそのままシメのラーメンまで格安で食べられる訳ですからどんどん流行ってきます。

 4回生の時はテレビの取材もあり、外に行列が出来るまでになりました。


 その代り、バイトは超忙しかったですね。前の客の器を下げ、次の客に水を出して注文を聞き、大将にオーダーします。ビールを出して、ラーメンの麺を釜に入れます。その間に器を出し、秘伝のタレを入れます。麺が茹で上がるまでに、洗い物です。食器洗い機なんでありませんから、全て手作業。その間にも、お勘定が入ったり、追加注文が入ったりで正に戦場でしたね。


 大学を卒業して勤め出してからも、たまに食べに行くと、


「後でタダで好きなだけ食わしたるさかい、2時間程バイトに入ってくれへんか」


 と頼まれ、客で来たのに店に立つことも何度かありましたね。


 そうそう。大学の前期試験で学生バイトが一人も居らへん時に、当時付き合ってた彼女(拙作「広く異国のことを知らぬ男」に出てくる「美穂」のモデル)と行くと、大将に頼まれて二人でバイトをさせられた事もありましたねぇ。彼女はめっちゃ楽しんでやってましたけど……。



 そんな青春時代の胃袋と財布と思い出を潤してくれたアルバイトでした。

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