第16話

 空を赤く染める夕方、眼光鋭いパシュトゥーン人の少女は、丘の上に臥す緑の破裂型地雷のもとへやってきました。


「村の人間が一人残らず死んでいたの」少女は泣き崩れました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「わたしが水汲みに行っている間にソ連兵に襲われたらしいの」少女はさらに泣きます。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「変わり果てた死体がそこら中に、とてもむごいようすだった」少女は言いました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「母さんも死んでいたの」少女はわっと泣きました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「ブルカが破り捨てられ、股から血を流して、腹を引き裂かれていたの」少女は震えました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「顔は穴だらけだった」少女は嘔吐[おうと]しました。


「悲惨だ」地雷は言いました。 


「わたしもう生きていけない」少女は声を震わせました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「あんな母さん見たら、もう一人でいられない」少女はがたがたと震えました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「怖い! もう生きているのが怖い!」少女は強烈に震えました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「ねえ、あなたわたしを殺せるでしょ?」少女は訊ねました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「地雷は人を傷つけるために生まれたんでしょ?」少女はさらに訊ねました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「わたしを助けて!」少女は地雷に近寄りました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「あなたは必ず誰かを傷つけるんでしょ? じゃないと死ねないんでしょ?」少女はひきつった声で叫びました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「わたしがあなたを殺してあげるから、わたしを殺して!」少女は笑いながら叫びました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「あなたを助けてあげる、だからわたしを助けて、ねっ、一緒に死のうよ!」少女はうれしそうに言いました。


「悲惨だ」地雷はいいました。


「どうすればいいの?」少女は微笑みながら地雷に顔を寄せました。


「わたしを枕にして眠るか、わたしに激しく口づけしろ!」地雷は激しく怒鳴りました。


 夕闇重なる空の下、響く爆発音と共に宙高く吹き飛びました。

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地雷 酒井小言 @moopy3000

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