第15話

 戦闘激しい秋になりました。朝方、眼光鋭いパシュトゥーン人の少女は、川で水を汲んでから、丘の上に臥[ふ]す緑の破裂型地雷と話をしました。


「父さんが死んだわ」少女は屈みこんで泣きました。


「それは残念だ」地雷は言いました。


「戦車に吹き飛ばされたらしく、粉々だった」少女はさらに泣きました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「父さんは立派よ」少女は力をこめて言いました。


「当然だ」地雷は言いました。


「母さんが倒れたの」少女はうつむきました。


「それは残念だ」地雷は言いました。


「横になったきりうわ言が絶えないの」少女は言いました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「親戚の人がパキスタンへ逃げようと誘うの」少女は言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「母さんは気がおかしくなったと言うの」少女は泣きました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「わたしはそうは思わない」少女は言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「母さんを置いて行けない」少女は激しく泣きました。


「当然だ」地雷は言いました。


「冬を母さんと二人で耐えようと思うの」少女は言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「でも食べ物がないの」少女は泣きました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「ムジャーヒディーンが村から奪っていったの」少女は言いました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「畑は爆撃で穴だらけなの」少女はさらに言いました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「家畜は全部奪われたの」少女は膝頭にあごをのせました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「ソ連兵もムジャーヒディーンも、地雷も大っ嫌い!」少女は立ち上がりました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「わたし村に戻る。さようなら。踏まれないでね」少女は村へ歩き出しました。


「それではわたしの生まれた意味がない」地雷ははっきり言いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る