第9話

 秋になりました。


「兄さんが戻ってきたの」少女は屈みこんで言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「カブールはひどく荒れているらしいの」少女は言いました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「兄さんが小麦の種蒔きを手伝ってくれたの」少女は言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「それで父さんがひどく怒っているの」少女は笑いました。


「不思議だ」地雷は言いました。


「『畑仕事にかかずらうぐらいなら、一人でも多くソ連兵を殺せ!』って言うの」少女は言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「父さん杖を振りまわすの」少女は言いました。


「不思議だ」地雷は言いました。


「兄さん来年の春まで家の仕事を手伝うの」少女はうれしそうです。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「母さんがとても喜んでいるの」少女は言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「弟が言葉を話せるようになってきたの」少女は言いました。


「わたしの知ったことではない」地雷は言いました。


「ちゃんと礼拝もするのよ」少女は言いました。


「わたしの知ったことではない」地雷は言いました。


「冬がはじまるね」少女は笑いました。


「当然だ」地雷は言いました。


「すこしの間アフガニスタンも静かになるね」少女は言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「カブールに恵みをもたらす雪がヒンドゥークシュに降り積るね」少女は言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。

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